第19話謀られたお茶会4
「レーン様の体調もおもわしくありませんのに、アッシュ家に招待状を送るのは不謹慎かと思う気持ちがありまして、そのようにさせて頂いたのです」
スティル様の坦々した、嘲笑う言葉にようやく気づいた。
謀られたのだ。
よくよく考えてみれば、セイレ家に手紙が届くはずがないのだ。
私は、まだ婚約はしていても、婚約の儀は済んでいない。つまり、私はまだアッシュ家の人間だ。
お姉様と旦那様の言っていた事は真実だった。
お互いがお互いを嫌い、反りが合わなかった。
お姉様はこれまで自分を見下げられたり、厭われた事がなかったから、きっと旦那様の態度は琴線に触れたのだろう。
だから、この茶会を、
いいえ、私を使って、
旦那様を貶めようと皆様に手紙を出し、話を合わせていたのだ。
私は、
つまり、
お姉様の憂さ晴らしとして使われた。
自分の矜恃を折られた仕返しに使われたのだ。
「お茶のおかわりはいかが?私は頂くわ。リーン様のお菓子は仕方がありません。皆様の持ってきたお菓子を頂きましょう。次はクリス様ね」
「はい」
スティル様の言葉に、メイドがカップを全て下げだした。その後新しいのが準備された。
話が逸れてくれて、少しほっとした。
落ち着かないと。
これ以上お姉様の策に嵌ってはいけないわ。私を、と言うよりも旦那様に迷惑がかかるわ。
クリスがゆっくりと包み紙を開け出した。
その瞬間だった。
・・・?
「あらあ、リーン様カップを落としてしまったのお?」
オーラル様が、小馬鹿にするように言ってきた。
私の膝の上に中身がこぼれたカップが乗っていた。
茶色い染みが瞬く間に広がっていく。
「汚いわぁ、早く着替えてらっしゃいよ。リーン様のメイドを呼んで差し上げて」
ルベラ様が、大袈裟な声で近くのメイドに声をかけた。
違う部屋に連れてきたメイドが控えてる為、その者を呼べ、と言っているのだ。
「・・・いえ、替えを持ってきておりません」
予想外の出来事に控え、常軌なら、メイドと共に替えのドレスも用意する。
このドレス以外にまともに着れるドレスはない。あとは小さかったり、古かったりして、全部アッシュ家置いてきた。
「まあ!!レーン様の言うように本当にケチなんですのね!!何一つ買って貰えない、何を言っても馬鹿にしてくる、とお嘆きでしたもの!」
「違います。そのような方ではありません」
だって、私は今何一つ不自由なく暮らしている。確かにドレスは頂いていないが、化粧品や食事など、私には勿体ない位の贅沢をさせて貰っている。
「違います!これは私がかってにしたことで、私に責があります!」
酷いわお姉様!
こんなことまでするなんて!!
「お静に皆様」
スティル様の言葉が部屋響いた。
「私は別段その方の衣装や手土産にとやかく言う気はございません。その方が選択されたのですからね。ですが、先に出席者はお伝えしております。それならば出席する方の趣向を慮る事は了全たる事と思っております」
静かに無表情でスティル様は言うと、私を見ることなく、お茶を飲んだ。
息がとまりそうに苦しくなった。
仰る通りだ。
地味なドレス、お菓子を持ってきたのは私の失態だ。
初めてならともかく幾度も御一緒し、この方が何を望み、何を厭うのか、知っている。
それを理解しているにもか関わず、無視した結果だ。
カチャとカップを置くと、すい、と私を見た。
「私のお茶会に賑やかさは求めておりません。気分がすぐれませんわ」
「・・・申し訳ありません」
「替えがないのなら帰ったらどう?」オーラル様
「そうよ。そんなみっともない格好では、ますますスティル様の気分を悪くするわ」リベラ様
「少ないドレスなんでしょう?シミみなって着れなくなったら大変よ。私ならまず捨ててしまうけれどね」オーラル様
「捨てれないわよ。だって、捨てたら他がないのでしょ?」リベラ様
オーラル様とリベラ様が矢継ぎ早に言ってくる。
かたりと私は、立ち上がった。
「申し訳ありませんが、このような姿のままではお目を汚してしまいます。お茶会の途中でございますが、退席をお許し下さい」
スティル様を真っ直ぐ見つめ会釈した。
「仕方ありませんわね。お気をつけてお帰りください」
「お気遣いありがとうございます」
スティル様の言葉を聞き、震えずにそう答えるのが精一杯だった。
その後、部屋を退室した。
もう、ここには居られない。
私の暗い顔と汚れたドレスにターニャは心配そうに聞いてきたが、それを答える元気はなかった。
ただ、
失敗した、
という言葉しか浮かばなかった。
屋敷に戻るとすぐにアイを探した。
「旦那様と話をしたいの。今日のお茶を失敗してしまって謝りたいの!」
「リー、ン様?」
私の剣幕に驚きながらアイは、戸惑いながらも分かりましたと答えてくれた。
だが旦那様はまた出張のようで、帰りは明後日ななると教えてくれた。
できるだけ早く会えるようにお願いね、と念を押して部屋に戻った。
部屋に入り絶対に泣かない、
と
熱くなる目頭を、必至に我慢した。
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