第17話謀られたお茶会2

「まあ!やはりそんな事ではないかと心配していましたが、レーン様の言う通りでしたわねえ!」

私がお菓子の包みを出すなり、ナターリヤ様が大袈裟に心配する声でため息をついた。

お姉様?

その言葉にオーラル様とリベラ様がわざとらしく本当ですわ、と相槌を打った。

どくどくと胸が早鐘を打ち始め、一気にサロンの空気が不穏になった。

「大丈夫!?なんだか顔色が悪いわよ!?」

オーラル様が私の肩に手を置き、見たことも無い心配そうな顔で聞いてきたが、目がとても楽しそうだった。

「あたり前よ。そんな変わったお菓子しか持ってこられないなんて、嬉しいわけが無いでしょう?ご自分でご用意されたんでしょう?私だったら絶対無理!恥ずかしすぎて、熱を出してしうわ。それなのに堂々参加できるなんて、リーン様の心根が太くて感心しますわ。でも、ごめんなさいねぇ。私は見習えないわあ。それなら体調不良で不参加するわ」

「・・・」

ルベラ様の変わったと言うのは安すぎるお菓子だという事だ。

でも、自分の持ち金で買えるお菓子なんてこれが精一杯だっし、これだって十分高価なのだ。

ドレスも唯一持ってきた1着を着てきた。それを屋敷のメイド達が刺繍を施してたり、リボンを付けてくれたりと、工夫してくれて前よりも素敵になった。

参加者を知り、この姿が相応でないのは、分かってはいた。

お姉様を含めこの4人は、華美な物や、流行り物、それでいて希少価値の物を好む方達だ。

お茶会の度に、自分のドレスをれだけこだわり仕立てたか、自慢する。

お菓子もそうだ。鮮やかで、綺麗なお菓子を探し持ってくる。味なんて二の次だ。ともかく、派手で綺麗ならいい。

自慢話にはうんざりするが、流行り物を本当に知っていて、その話は聞いていて楽しかったが、とても疲れるお茶会なのは確かだ。

だから、私のこの粗末なドレスと手土産がより貧相に見えるのだ。

それも、私の性格を最も知っているお姉様なら、私が招待されれば断らない、と知っている。

口裏を合わせ、責めてきた。

こんな嫌がらいつもの事で、いつも何も答えられずただ笑って誤魔化し流していたが、今、私だけの問題でない。

ようは、セイレ男爵家がケチで酷い仕打ちをしている、と言いたいのだ。

いけない。

私だけでなく旦那様の印象が悪くなるのは避けたい。

セイレ男爵家を、旦那様の役に立たないと、私の意味が無い。

そうよ、リーン。旦那様の為に、頑張るのよ!

ぐっ、と一瞬息を止め、ふう、深呼吸した。

虐められた時の嫌われまいという胸の動悸が、少し落ち着き、今度は緊張という気持ちいい鼓動の速さが身体に浸透していく。

「お姉様が私を心配して下さってるのは、とても嬉しく思いますが、私は皆様の心配されているような事について、何一つありません」

とりあえず誤解を解かないといけない。ナターリヤ様に変な風に取られてしまい、旦那様の覚えが悪くなってしまってはいけない。

「まあ!!それも書いてありましたわ!!きっとレーンの事だから、人を悪く言わないわ、と。でもね、お父様から聞いたのだけれど、セイレ男爵様は成り上がりなんでしょう?男爵ですから、ほとんど庶民と変わりませんわ。そういう方、と言うのは他人にとても厳しくケチなんですって。商団の方と言っても、資産があるだけの、成り上がり。私達とは、考え方が違います」

ナターリヤ様の言葉に、オーラル様とルベラ様が、私も聞いたことがありますわ、も一緒になって言い出した。

ご主人様の悪口を言って欲しくない。

まだ、私もご主人様の事をよく知らない。

この方達も、聞いただけ、の噂を間に受けているだけだ。

ふと見ると、アニスは痛まれないように下を向いていた。

「私の手紙にも書いてありました。ケチで、優しく無いなんて、なんてお可哀想なの。レーン様がお手紙を私に下さったから色々知ることが出来たのよ。リーンがセイレ男爵に虐められ、蔑ろにされているに違いないから、気をつかってあげて、と」

気の毒だと泣きそうな顔で言う、ターニャ様に、初めて苛立ちを覚えた。

「違いますわターニャ様。そんな事ありません」

お姉様、何を書いたの?

不安な気持ちに焦っていく自分に、落ち着くのよ、と言い聞かせた。

婚約したくない、と自分勝手な我儘で私と変わっておいて、どこまで口を出してくるの?

違う。全部違う。

私は、旦那様からそんな態度をされた事がない。

だって!

まだ、そこまで会ってもないし、話もしていない。

逆に、皆様の言うように、虐められたり、蔑ろにされる程相手をされたいくらいだ。

相手の、あの字くらい程度でも、会いたいくらいだ。

「あらあ、でも、そのお菓子は何?用意して下さらなかったのでしょうから、ご自分で用意されたのでしょう?それは、あまりに常識が無さすぎてよ」

ナターリヤ様が、ご自分の手土産を見せつけ比べてくる。

「違います。私が勝手に準備しただけです」

これは、自分の手持ちのお金で用意した物。

「まあ!やはり酷い方ですね。手助けもせず頬って置くなど紳士に有るまじき行為ですわ。ああ、成程。こうやってリーン様が私達から白い目で見られる事を望んでいるのね。大丈夫よ、そんな変な目では見ないわ」

よく言うわ。

ルベラ様が同情の言葉を発するが、言葉に乗せられた感情は侮蔑だ。

「違います。忙しそうでしたから私が1人で、勝手にしただけです。買い物私1人でしたので、誰も助言する者がいませんでした」

ご主人様は関係ない。

「まぁ!お1人で出歩き買われたのですか!?恐ろしいですわ、1人で出歩くなど。お可哀想に、怖かったでしょう?私1人で出歩いた事などありません。全て屋敷に届けてくれますもの。ですが、やはりレーン様ですわね。私は絶対に選ばない抜群のセンスのお菓子ですわ」

ターニャ様が、汚いものを見るように菓子を見た。

それはそうでしょう。金額が違うもの。

でも、私の事なんてどうでもいい。

旦那様を悪くなんて言われたくない。

「ターニャ様、私も同感です。なんだか変わっていて、ふふっ、開けたら飛び跳ねそうですなお菓子が入ってそうですわ。あ、もしかしてこのお菓子もセイレ男爵様に見せてないのですか?」

「・・・お忙しい方なので」

ナターリヤ様の言葉にぐっと胸が痛くなった。

そうだ、見せてもいない。勝手に判断し買ってしまった。せめて見てもらえば良かったんだ、と後悔する。

「あらあ、ご婚約すると言うのに、レーン様のお手紙通りの本当に愛想もなく冷たい方ですわね。だから、レーン様が伏せってしまわれたのに」

「オーラル様、違います。旦那様は」

「旦那様!?」

「ご婚約しているのに!?」

オーラル様とターニャ様が同時に驚きの声を上げた。

「まあそのような呼び方を強要されているのですか!?」

ナターリヤ様が、強要、という言葉を大きく言う。

もう何を言ってもそう言う大袈裟な反応をするのだ。

元々私が気に入らないのも知っている。

だって、お姉様にそっくりな方ばかりですもの。

「違います!私が勝手にそうお呼びしているだけです」

旦那様は何一つ私には強要はしていない。

お姉様?何を手紙に書いているの!?

それに伏せっているなんて、あんなに元気だったわ。

嘘ばかり言わないで!

「皆様、それくらいに致しましょう。リーン様のお菓子と婚約者になられた方が皆様を楽しませているようですね。 お菓子を頂きながらお聞きしましょうか 」

スティル様の静かで冷たく鋭い言葉がサロンに響いた。

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