第16話図られたお茶会1
「スティル様、今日はお招きありがとうございます。遅れてしまい申し訳ありません」
サロンに案内され中へ入ると、主催者であるスティル様と先に到着し、席に座る4人の方々が私を見て、頭を下げた。
本日は、招待を受けたライアン侯爵家の息女、スティル様のお茶会の日だ。
今回参加者は主催者であるスティル様と私を含め6人。
前もって参加者の方々は連絡を貰っているが、皆、私より立場が高い方ばかりだ。
本来なら、1番に到着するべきなのだが、早目に出たもののセイレ家からは思ったよりも遠く、遅れてしまった。
簡単に参加者を説明します。
スティル・ライアン様で侯爵で20歳。掴めない方だ。
アニス。ハラリヤ伯爵家で19歳。私の親友だ。
オーラル・グリップ様。伯爵家で21歳。お姉様の友達だ。
ルベラ・サモスバラ様。伯爵家で20歳。お姉様と仲がいい。
ナターリヤ・コンバーチネ様。子爵で22歳。お姉様と話が合う方だ。
つまり、
はああああああああああ、
と、勿論、
心の中でため息をついた。
いけないわ、リーン。
今日のお茶会は旦那様の為のお茶会なのよ。
私の気持ちなんて、二の次よ。このお茶会で、少しでもスティル様に気にいられ、旦那様の事を知って頂き、少しでも事業のお手伝いになればいい。
そうよ。
旦那様の為よ。
そう思うと、あの無愛想で怖い顔が脳裏に浮かび、気持ちが落ち着いてきた。
「気になさらないで。まだ約束の時間には早いもの。さあ席へどうぞ」
「ありがとうございます、スティル様」
微笑むスティル様に微笑み返し、メイドが椅子を引いてくれた場所に向かった。
お茶会の席も主催者によって変わる。自由に座れるよう庭を解放してのお茶会もあるが、スティル様は基本屋敷の中のサロンを使用する。
2階の為、窓を抜けて庭へ、とはならないが窓の外は広いベランダがあり、そのベランダからの眺めるスティル侯爵家の庭園は絶景だ。
その為、毎回必ずお茶会の半ばになるとベランダへと出る。
そして、毎回同じ方の隣にならないように考えておられる。
残念ながら今回はアニスの横にはなれなかったが後ろを通る時、ウインクしてくれ。
今回はオーラル様とルベラ様の間の席、か。
胃が重くなるのを感じた。
いつも思うが、この3人方は、いや、お姉様もいるから4人だわ。
今日は、オーラル様は青、ルベラ様は黄色。
いつもと言っていい程、一緒にいる。今回はお姉様は体調不良と言う事で参加されてないのだろうが、参加されてないだけに、嫌な予感がした。
「ありがとう」
引いてくれるメイドに礼を言い座りながら、思う。
4人は絶対はドレスの色が被らない。
4人は手土産の包み紙の色が被らない。
4人は手土産の中身が被らない。
話し合っているのだ。
「申し訳ありません、遅くなりましたわ」
最後の1人ナターリヤ様が、緑のドレスをなびかせ慌てながら部屋に入ってきた。
ほら、やはり被らないわ。
「いいえ、気になさらないで。ほら、約束時間迄はまだ15分もあります。さ、ナターリヤ様お席にどうぞ」
「ああ、なんとお優しいお言葉ですの。私のように子爵にそのような言葉を言って下さるなんて、スティル様は貴族の鏡です」
大袈裟な言葉と大袈裟な動きに、正直もう少し演技が上手くなればいいのに、と思うが、そこは本音、なのでしょう。
何故なら言葉の内容とは裏腹に、見下す笑いと、見下す物言いをありありと示し、隠そうとしていない。
そうでなければ、わざわざ子爵、と爵位を口にしない。
「なにを仰います、ナターリヤ様。私にすればナターリヤ様にはいつも見習う事がたくさんあり、そう思い側におります。ふふっ。本当に、お優しき心をお持ちなのですね」
いつもながら上手く流したわ、と心底スティル様の対応に感心する。
「まあ!なにを仰います。ライアン侯爵様のお側にいたいと私の父もしつこいくらいに言っております。私もスティル様のお側にいたいですわ」
持ち上げているつもりだろうが、全くその素振りがない。
ナターリヤ様お父上は伯爵家の次男、お母様は侯爵家次女だ。子爵という地位を頂いているだけで、お二人の本家は多大な権力を持っている。
スティル様も下手に扱う事もできないし、ナターリヤ様の節々に感じる見下し感は、生まれ育った環境で培うものなのだろう。
悪意はなくとも、それは人の琴線に触れ、一線を引かれる。
そう気づくと、
私は、
旦那様にどのように写っているのだろうか?
旦那様は貴族でありながら、貴族を忌み嫌っていた。
前日一緒に出かけたあの態度から、よくわかった。
お姉様が、ではなく、恐らく上級貴族を嫌悪している。
これは、政略結婚。確かに私には上級貴族と言う肩書きはあるが、その肩書きが自分に相応しくないのは自分が最も理解している。
私に乗る、意味の無い肩書きでなく、私自身を少しでも、理解してくださったらいいのに。
なんて、つい思ってしまった。
「さて、約束の時間には少し早いですが、始めましょうか」
スティル様の言葉と共に皆が、柔らかく微笑みお菓子の包みをテーブル置いた。
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