第13話旦那様とお出かけ3
その後昼食になったがやはり旦那様は現れなかった。
部屋に戻り2時過ぎても、3時過ぎても声がかからなかった。
仕事が終わらないのだろうか?
仕方ないなあ、とターニャもクリンで話をしながら諦めているとアンが呼びに来て、外の馬車でお待ちですと言われ慌てて向かった。
馬車に乗ると既に旦那様は座り書類を見ていた。
「あ、あの、リーン・アッシュと申します。宜しくお願い致します」
頭を下げると、
「知っている。座りなさい」
冷たいながらもいい声が帰ってきたから、前に座った。
ああ、と少しへこんでしまった。
お姉様ならもっと気の利いた挨拶したはずだわ。もっとちゃんと考えてれば良かった。
すぐに馬車は動いた。
イケメンよ、とお姉様が言うように美男子だ。
明るい茶色の髪に、下を向いているからよく見えなないが長いまつ毛に青い瞳に、整った顔。
確かに素敵だわ。
優しく甘い顔をしていたマーベルとは違う。
見透かすような鋭い眼差しを持っている。
怖いといえば怖い。
とても書類に集中しているようで、気になったところはペンで印を付け、ほかの書類と見比べていたから、何処へいくのですか?と聞きづらかった。
ぱらりと椅子に置いてあった1枚の紙が落ちた。
旦那様が拾おうとされたが、揺れる馬車の中、他の書類をもっているのだから、私の方が早かった。
「どうぞ」
拾い渡すと何故だが驚かれた。
「・・・すまない」
「私その書類抑えてておきましょうか?書類の中身を見ないように、横を向いています」
「あなたが?」
また、驚かれた。
「はい」
旦那様の方に座り、裏返しになっている書類を押え、外を見た。
何故そこまで驚いたのかしら、と思ったが窓の景色に夢中になってしまい会話のない馬車の中でも、私にはとても楽しい時間だった。
あっという間に馬車置き場まで着着いてしまい、書類を綺麗に鞄の中に片付けされた。
几帳面な方だな、と思った。
少し歩く、と言われ降りた。
王都の街には何度が来たが、お金が無いからあえて必要のない店は見ないようにしていた。
欲しくなるもの。
でも、今日は旦那様の後をついて行く事となり、可愛らしい雑貨の店や、服装の店や、いつも避けていた通りを通り、とても賑やかで華やかで気になった。
旦那様は脚が長い為私との歩幅がかなり違い、つい行くためには早歩きをしなければならなかった。
について行きながら、キョロキョロ見回し、いつか入れたらいいなと楽しくなった。
買うことは無理だけれど、ウインドーショッピングだけでも充分目の保養になる。
こんな事なら見るだけでも通れば良かった、と今更残念に思った。
少し歩くと、目的のお店についたらしく、目配せされたから急いで側に行った。
そこは、 はっきり言うと庶民の喫茶店だった。
古めかしい作りで扉もちゃんと閉まらない。
中に入ると驚く程声が飛び交い、それも女性の笑い声の方が大きかった。
あまり喫茶店に行ったことはないけれど、貴族御用達の喫茶店は女性が大きな声を出すなどはしたない、とされているのにここは、
賑やかで楽しそうな声がして、気楽な感じだった。
店員に案内され席に座った。
「メニューです」
店員が、愛想もなく水とメニューを置いて去っていった。
広げてみると、珈琲と紅茶は、一種類。あとはソフトドリンクだった。
貴族御用達の喫茶店は珈琲、紅茶が沢山あって正直よく分からなかったが、このシンプルなメニューは私にとって迷わなくてもいいから助かった。
でも、それよりも気になったのが、隣に書いてある、
当店オススメフルーツたっぷりパンケーキ。
セイレ家では、アッシュ家では絶対に出てこないお菓子が色々出てきて、とても満足しているけど、パンケーキはでて来たことがない。
前々から気になっていた。
パンケーキ?ホットケーキとはどう違うの?
全く違う、とお姉様は言っていたけど、さっぱり分かりなかった。
チラリと周りを見ると、確かに、と思うほど注文している人が多い。
見たことも無い大きなホットケーキに、フルーツが1杯のっていて、とても甘い香りが店に充満していた。
なるほど。確かにホットケーキではないわ。
凄く、食べたい。
「ご注文は」
いつの間にか店員がたっていた。
「私は珈琲」
「あ、あの、私も珈琲をお願いします」
「分かりました」
メニューを取り去っていった。
いけないわ、リーン。セイレ家で十分贅沢をさせてもらっているのに、パンケーキなんて、我儘だわ。
少し気を紛らわそうと、ナプキンを膝に置こうと思いテーブルを見たがそれらしい物は置いていなかった。
自分のハンカチを置こうとポケットから出したものの、周りを見ると、誰も置いていなかった。
このお店では、使わないのが普通なんだわ。
そう思いすぐにポケットに閉まった。
きっと旦那様は周りを見て自分で学べ、と言う事で、わざわざ連れてきて下さったのだわ。
それなのに、パンケーキばかり気して私ったら駄目だわ。
それに、パンケーキよりも旦那様よ。そんな事よりも、何か話しをして少しでも旦那様を理解しないといけない。
顔を上げると、ご主人様は何をする訳でもなく外を見ていた。さすがにここまで仕事はしないようだ。
やっぱり素敵なお顔だ。
声も低くて聴きやすくて耳障りもよく、本当に目の保養だ。
ただ、少し怖いだけだから、がま、いやいや、慣れたら大丈夫よ。
「何だ?」
私がじっと見ているのを感じたようで、面倒くさそうに聞いてきた。
まさか、見惚れていました、とは言えない。
「あ、あの、お願いがありまして・・・」
「お願い?」
「はい。屋敷の中や屋敷の庭を歩きたいのですが、許しを貰えますでしょうか?」
「まだ、そんな事を守っていたのか?」
呆れ顔で溜息をつかれてしまった。
まだ?勝手に歩いても良かったの?
「旦那様に言われたのですから、守らなければなりません。ですが、その、暇でして・・・」
これから掃除をさせてもらえないからより暇なんです、とは言えない。
「好きすればいい」
明らかに面倒くさそうに言われたが、
話せた!と私は嬉しくなった。
もっと喋りたい。
「あ、あの」
「お待たせしました」
まるで邪魔するかのように珈琲がやってきて置かれ、 旦那様はさっさと飲み出した。
残念だわ。もう少しお話ししたかったのに。
仕方なく私も珈琲を飲んだが、久しぶに飲む珈琲はとても美味しかった。
セイレ家とはまた違う味だが、十分味がするし、
ちらっ、
きっとパンケーキと一緒に食べたらもっと美味しいんだろうなあ、とつい、考えてしまった。
「帰るぞ」
「は、はい」
私が飲み終わるのを待ってくれて、声を掛けてくれた。だって、ご主人様は熱くないの?と思う程一気に飲み干し、また、無表情で外を眺めていた。
私は熱くて少しずつしか飲めなかった。
立ち上がり旦那様の側に行くと、鋭い声で私の横に目線を向け言い放った
「それをこの方に返しなさい」
何?
見ると、年配の女性が私のハンカチを握りしめていた。
ポケットにきちんと入っていなかったのだろう。落ちたのを拾ったのだと思う。
「いいじゃないハンカチくらい。この人お金持ち何でしょ。ねえ、あんたこれ貰ってもいいでしょ?」
懇願するように甘えた声でねだってきた。
ハンカチでしょ?別に構わない。
「いい」
「返しなさい。それとも、泥棒だと言われたいですか?」
ご主人様は小さいながらも怖い思うほど威嚇の声で、私の言葉を遮った。
「な、なんだよ。ケチ!ほら、返すよ」
ご主人様の声に驚き慌てて返してくれた。
「帰るぞ」
「・・・はい」
怒っている。
私のためにハンカチを取り返したのではない。
さっきの女性にでない。
私に、怒っているとはっきりわかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます