第12話旦那様とお出かけ2

「本日、旦那様がレーン様にお会いすると事です」

食事が終わり、食後のお茶を待っていると、落ち着いた声でアンが声を掛けてきた。

今度は待ちましたよ、と言うのが表情から分かったが、それよりも告げられた内容が気になった。

「本当に?」

「はい。今は仕事で出掛けておりますが、時間が空き次第帰宅され、その後出掛けたいと言われてましたよ。良かったですね」

「ええ、嬉しいわ。やっとご挨拶出来るわ。だったら早く部屋の掃除を終わらせないといけないわね」

立ち上がると、ターニャが前に立ち塞がった。

「リーン様、これからは掃除などは私がします。リーン様は前の家と同じようにして下さい」

「だから、掃除でしよ?」

昨日言ったわよね?

「お嬢様のような生活という事ですよ。例えば、例えば何?何するんですか貴族のお嬢様は?」

「例えば?そうね、お母様は刺繍や裁縫をしていたわね。お姉様はお茶会によく参加していたし、あとは買い物とか?でも、私にはどれも縁のない事よ」

「では刺繍とかしてください」

「それは、苦手なの。お母様は得意だったのだけれど、私は、手に針を刺してしまったり、糸が絡まったりしてしまって、1度あまりに下手くそすぎる自分に腹が立って投げてしまった事があるのよ」

思い出したくない黒歴史だ。

「では、リーン様を美しくする、というのはどうですか?」

後ろから話をした事がない綺麗なメイドがずいと前に出た。

「それにしましょうか。あまりにもリーン様は酷すぎますのでね」

アンが真顔で頷き、私を見て残念そうな顔をする。酷すぎる、というはっきりした言葉には、謝罪はないのね。

「私はこのままでいいわよ。どうやっても変わりはしないもの」

と言う私の意見は全く無視され、どうするどうする、とかメイド達が集まり話し合いが始まり、

私はあれ持ってる、とか、これ持ってる、とかそんな話を私をそっちのけでしている。

「あの、私はこのままで構いませんよ」

「何言ってるんですか?これから旦那様と出掛けるのでしょ?綺麗にしたくないのですか?」

名前がわからないメイドの子が、語気を強く質問してきた。

そんなの決まってる。

「したいです」

女性なら、誰だって綺麗になりたい。

「お茶会に行かれるとき綺麗になって行きたいでしょう?」

「行きたいです」

当然だ。

「私は1度お嬢様をやってみたかったんです」

名前がわからないメイドの子、意気揚々と私を見た。

何を?

「宜しい。あなたに頼みましょう。そういうの好きですものね」

だから、何???

と思っている間に部屋に連れていかれた。



そこから苦痛の時間だった。

朝から湯浴みをさせられ、なんだかベタベタするものを身体中、髪の毛も塗られ、落とされ、また、塗られた。

これ、お姉様の言っていた、エステというものかしら?

凄くいいわよ、と言っていたから羨ましいと思ってたけど、

はああ、とため息がでた。

疲れたよ・・・。

ターニャとさっき声を出したメイド、クリンと言う名で二人でなんだか楽しそうにしている。

私は気にならなかったのだけど、どうも私の髪や肌があまりに荒れていてメ召使い達がとても気にしていたようだった。

私にしたら、そうかしら?そんなに酷い?と思うくらいだ。

色んな事を私に聞いてきた。歳は幾つですか、とか、ここに来るまでは本当に、メイドみたいな事していたのですか、薪を売っていたのですか?とか色々質問責めだった。

でも、楽しかった。

ターニャは25歳で、クリンは30歳と教えてくれた。2人とも年上だが、もう私を見下す感じはない。

こんなに他愛なく喋ったのは、親友のアニス以外にはない。

そう言えばアニスは、どうしているかしら?

いつもならスティル様のお茶会に一緒に参加していたけど、今回は招待されてるのだろうか?

今回の婚約のは急に決定し、会う事ができなかった為を手紙に書いて出したけど、返事は来ない。多分気を使っているのだろう。

あの瞬間から全てが変わった。

そうだ。

私は、お姉様の変わりとはいえ、買われてここにいる。

私としての、存在の意味は、まだ無い。

アッシュ伯爵家、

と言う肩書きに意味にがある。

ずん、と身体が重たくなり、何か出来る事を探さなければ、と思う。

「リーン様疲れました?」

クリンが私の顔を覗き見ながら、笑った。

「流石にね」

だって、1時間湯浴みして、次はパックです、と言われ顔になにか塗られ30分待つように言われソファに座らされた。

やることも無いとつい、暗い事を考えてしまう。

やっぱり掃除とかしたいなあ。そうしたら忙しくて時間がすぎるのに、と考えた。

「あ、ご主人様が帰ってきましたよ」

ターニャの声とともに、馬車の音が外から聞こえた。

急に心臓が早く動き何だか緊張してきた。

本当はベランダに出て見たかったが、パックをしているので動けない。

「今何時?」

「11時30分です」ターニャ。

「御一緒に昼食できるかしら?」

「ご主人様は食べないですよ」クリン。

「食べない?」

「ご主人様は食事をあまりしないんです。いつも忙しそうにさていて、食事をする時間が惜しいんですって」クリン。

「そう。残念だわ。少しでもお会いしたいのに。どんな方なの?」

「私達はあまり喋った事がないんです。いつも帰りは遅いし、食事もされないから、いつもメイド長とエッシャー様が相手をしています。いつも怖い顔してるとこしか見た事ないんです。でも、私達が働きやすいようにして下さっています」

「そうですね。他と比べて給金も高いし、体調悪かったらすぐ休ませてくれて、仕事に必要な道具は結構買ってくれます」

クリンの言葉にターニャも同意し教えてくれた。

「お優しい方なのね」

今の話が本当なら理想的な主人だ。

「見かけよりはそうかもしませんね。さ、時間ですからパック取りますね」

パックを外して、やっと化粧が始まったが、また、それも長かった。

綺麗になるのって、疲れるわね。


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