第11話旦那様とお出かけ1
「皆様、おはようございます」
食堂に入り、挨拶すると、おはようございます、と返事が幾つも帰ってきた。
昨日嫌がらせをやめました、と言われ、皆が避ける目では無く、腫れ物に触るかのような目にかわり、態度も柔らかくなった。
「おはようございます、リーン様。どうぞこちらへ」
アイが椅子を引き座るように促した。
今日の朝食も昨日と同じく温かい食事が出てきた。いや、朝食だけでは無い。昼食も夕食も温かく、とても美味しく、幸せだった。
食事が終わると、アイが手紙を差し出した。
受け取り裏に返すと、開封されていたが、旦那様が見たのだろだろうと思った。
「手紙、開いてますよ」
スルーしようと思ったらすかさずターニャが不思議そうに質問し、近くにいた召使い達が確認するかのように近付き怪訝な表情に変わった。
これはまずいわ。
下手に私が嫌がると、旦那様に疑念を抱くだろう。
「旦那様が開封されたのでしょう、ねえアイ?」
「仰る通りです」
えっ、と言う驚きの声と、人の手紙なのに、と言う声が聞こえる。
やはり、そう思うわね。
「良いのよ。だって、この屋敷に来た手紙を旦那様が最初に確認するのは当然の事」
少し嬉しかった。
どんな意味で開封されたかは知らないが、全く私に興味が無いのであればそのまま渡してくるだろうが、中を確認してくれている。
「そんなものなのですか?」
「そうよ、ターニャ。屋敷の主人は全てを把握しなければいけないのよ」
「そうなんですか?」
「そうよ」
軽く笑いながら手紙を出し、読んだ。
「参加をするように、との事です」
読み終わるとアイが言った。
「分かりました。私はその為にいるんですもの。それで、他に何か言われてました?」
「いいえ。何も」
「そう」
貴族の娘のお茶会。
たかがお茶会
されどお茶会だ。
特に自分の家よりも上の立場の方からの招待は、特別だ。
ライアン侯爵家とは、お爺様同士がとても仲が良かったらしく、その温情を受け招待して貰えているが、本来ここまで落ちぶれた私やお姉様を招待してくれない。
ライアン侯爵家はここ最近王族と婚姻を結ぶ事が増え、急速に権力を拡大している。
言うなればここにに気にいられれば、地盤が出来る。
その架け橋に私がなれば、私がここに来た意味がある。
けれど、そんな簡単に上手くはいかない。
ライアン侯爵家は御当主だけでなく、一族全ての方が用心深く、何を考えいるのか分からない。
今回のお茶会の主催者である、スティル様もそうだ。お姉様と同じ21歳だが、華やかで美しく、誰とでも仲良くなるお姉様と違い、
淑やかで、基本自分から話しかけることも無く、話しかけられてもそつなく受け流す。
付け入る隙を見せないのだ。
頑張らないといけない。
何も言われていないという事はドレスや、お菓子は自分で準備しなさい、と言う事だ。
お茶会は家と家の繋がりになり、それ相応の格好と手土産を準備し、本来ドレスや菓子は当主が手配する。
それを何も言わないということは、私、試されているのね。
「すぐにお返事を書くから、ライアン侯爵家にお願いします」
「もう、返事がいるのですか?これ、一月後ですよ
」
背後で、右、左、とちょこまかと動くターニャが手紙を盗み見し、聞いてきた。
「そんなものよ。事前に参加人数を把握して準備するの。お茶会は一月後だけど、大体その10日前には、参加の返事を出した出席者にまた、お手紙を送るの」
「貴族のお茶って意外に面倒なんですね。その辺で合って、お茶する?いいよ行くよ、いつ?とかじゃないんですね」
ターニャの言葉に微笑んだ。
「人それぞれよ。返事をいらない方もいるわ。でも、この方は急な参加者や、連絡をしないのはお嫌いな方なの。アイ、手紙と一緒にアッシュ家の紋章が入っているものを一緒に持って行って。ここに手紙が間違いなく来ている事と、私が承諾している事が証明出来るでしょうからね」
文の裏にはセイレ男爵家の封蝋が押されるから問題ないだろう。
「そこまでするのですか?」
今度はアイが面倒そうに聞いた。
「この方はそういう方なのよ。細かい方の方が私は安心するわ。直ぐに返事を書くから、出来次第お願いね」
「駄目です」
「駄目?」
アイの即答と一緒にさっと手紙が没収された。
「アイ?」
「朝食が先でございます。また、冷めてしまいましたよ」
「それはメイド長が悪いですよ。食事の後に手紙を渡せばいいのに今渡すからこうなったんですよ」
「そ、それは急いでお渡ししたかったらですよ」
「ああ!!
「な、何でか?」アイ。
「何、どうしたの?」私。
ターニャが大声をあげた。
「私達には悪いことしたらすぐ謝れ、とうるさいのにご自分は謝らないんですか?それもリーン様に、ですよ」
「申し訳ありません!!」
ガッチャン。
「あ・・・」私。
「あーあ」皆。
慌てたアイが、これまた偶然なのだろうが、丁度傍におかわり用のパンのお皿が乗っているワゴンがありそこつまづいてしまい、返してしまったのだ。
食堂に静寂が走り、アイが真っ青になり固まった。
「ふっ、ふふふふふふ、もう、アイったらおっちょこちょいね」
あまりにアンの真剣な顔で、私を見るもんだからおかしくなって笑ってしまった。
その後食堂は笑いに包まれ、アイは今度は真っ赤になり、改めて私に謝罪してきた。
そんなこんなで、昨日よりも冷めた食事になったが、そこをまたターニャが突っ込み、アイが謝罪し、という何だが和やかな空気になり、冷めた調子が昨日よりもとても美味しく感じた。
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