第10話レーン目線
「奥様、レーン様、仕立て屋のマリッジ様が参りました」
メイドのアグリが部屋に入り、お母様の顔を見て伝えてきた。
先月入ったばかりの新しい若いメイドだが、斡旋所から、お勧めだ、と説明を受けた通り良く働いてくれる。
アッシュ伯爵家は落ちぶれてと召使いを雇う財も無い、噂が巷に流れ、ているがもうそんな心配は必要ない。
ふふっ、初めからあの子を送れば良かったのよ。
「あら、もうそんな時間?応接間にお通ししておいて」
時計を見ると13時30分。
「かしこまりました、レーン様」
私が答えると、アグリは小さく頷くと部屋から出ていった。
丁度昼食を食べ終わった所で良かったわ。
14時の約束になっていから、少し早めに来たのでしょうね。
楽しみだわ。久しぶりの新調だもの、小物とかも一緒に合わせようかしらね。
「お母様は新しいドレスなんて不要ですわよねぇ?」
まだ食事をしているお母様に声をかけ、立ち上がった。
一応確認をしておかないといけない。
お母様の性格上言わないでしょうが、後から私も欲しかったわ、とか、言われたら面倒だわ。
「・・・必要ないわ。それよりもレーン、そのお金はどこから出ているか知っているの?リーンの支度金でしょ?」
フォークとスプーンを置いて、まるで私を説き伏せるかのように言ってきた。
その言い方が大っ嫌いだ。
「だから、何ですの?確かにリーンの支度金だけれど、この家に入ってきたお金でしょ?つまりお父様が使い道を決めてもいいことでしょ?もしかしてお母様も、今更ドレスを新調したいと思っているのかしら?」
私の言葉にお母様が嫌そうに顔を顰めた。
「今さら綺麗に着飾っても意味が無いわよお母様。昔は綺麗だったのかもしれないけれど、嫁いでしまえば然程必要無いものよ。それでしたら、私に投資した方が意味があるわよ」
「投資?」
ひくりと頬が上がり、なんだか馬鹿にしたような顔で見上げてきた。
「ええそうよ。投資、という意味をご存知かしら?お父様の会社に投資してもすぐに成果なんて上げれない。でもね、私に投資すればすぐに成果は上がるわ。あんな所から融資を貰わなくても、私が、それ以上の相手を探してくるわ」
「それでも今が、大事でしょう?」
「だから。あの子はいい時間潰しをしてくれてるのですわ。そんな事も分からないのかしら?適当に相手してくれいる間に、私が相応しい方を連れてくる。今だけお金を持っている男爵程度ではなく、いつまでも揺るぎない資産と立場を持った貴族の方をすぐに連れてきて差し上げるわ」
「そんな上手くいくかしら?投資は危険だわ。投資程、先が曖昧なものはないわ。資産があれば問題無いけれど、今は確実にお金を返して、確実にお金を稼ぐ方が大事だわ。それに、セイレ男爵様は今だけ資産を持っている訳ではありません。爵位はありませんが、揺るぎない立場はお持ちですよ」
「あらぁ、説教?お母様はデッリョウガ子爵家で世間知らずにお育ちの方から、理解出来ないのですわ。だって、お金で苦労された事ありませんものね」
私は微笑みながら、そう突きつけた。
いつもそうだ。
お母様は理想的な夢物語ばかり言い、現実を見ない。
現実は、私がセイレ男爵家に売られたのだ。
お父様は直ぐにこちら側のいいなりなる、と仰っていたが、変に資産や立場を持っているものだから全く融通が効かなかった。
この私の言う事を聞かない男など必要ない。ましてや、低級貴族でありながら身の程知らなすぎる男は、ゴミ以下だ。
お母様もデッリョウガ子爵家でよく理解している筈だ。
揺るぎない立場、とは、由緒正しき血筋、を言うのだと。
私を、不憫だ、と言わんばかりの顔で見つめるお母様に、本当に苛立った。
「慎重すぎて古い考えだから、お父様に浮気されるのよ」
さっと青ざめた。
「私はお母様みたいにならないわ。そんな負け犬になるなんて恥ずかしいし、嫌ですわ。招待状を頂いても、新調できるドレスも宝石もなく、お断りするしかないなど生きている意味が無いわ。あら、ごめんなさいお母様。本当の事を言ってしまったわね。でも、お父様からも捨てられているのに、よくそんなに元気に生きていられるのか感心するわ。私なら耐えられない。いっそリーンと一緒に屋敷を出たら良かったのではないの。それで?話はもういいわよね。仕立て屋がまってるもの」
「・・・そうね。でもね、リーンはあなたの代わりに婚約させられたのよ、そこを分かってあげなさい」
「代わりに婚約させられた、ですって?」
ふざけないで!
「何を仰っているの?わざわざ変わってあげたのよ。セイレ男爵はあの子にピッタリの、身の丈のあった殿方だったわ。だってリーンはお母様にそっくりですもの!」
項垂れ震えるお母様を見るのは、身の毛がよだつ程嫌悪感を感じ、急いで部屋を出た。
確かにお父様は事業で上手くいっていない。だったらお母様が社交界で巧みに動けば、全く違ってたわ。
それなのに陰気な顔で社交界に出たら出たで、ろくな挨拶も出来ず、ずっと俯いている。
噂通り、デッリョウガ子爵家のお飾りだわ。
役立つ、だわ。
自分の価値を理解できないなんてクズですわ。
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