第9話サージュ目線
「丸め込まれただけだろう」
「そう言われますが、どうも・・・変わった方と言うか・・・貴族令嬢らしくないと言いますか」
エッシャーは困惑したように言葉を濁しながら私の上着を脱がした。
帰っきて、屋敷の報告を聞くと、あの女に対する嫌がらせを辞めた、と言ってきた。
聞くと、その女の身の回りを誰もせず、冷たい食事に、冷たい風呂を与えたようだ。
貴族の娘にしては十分の嫌がらせだ。
ところがそれが全く苦にならない用で、ここに来た時から身支度は自分で手際良く準備し、
食事は、冷たいながらもまるで出来たてかのように美味しそうに間食し、
水風呂は、我慢して入っているかと思えば、平然とした顔で風呂を終え、掃除する始末だという。
その上部屋の掃除も自分でやっているという。
持参した服も、庶民が着るようなものばかりで数も少なく、化粧品も質が悪いと言っていた。
「よく考えてみろそんなもの我慢し、こっちが折れるのを待っていただけだろそんな事も分からないのか!?」
バカバカしい。
まんまとその女の手に嵌った様なものだ。
「ですが、前々からメイドの1人がとても手が荒れている、と気になったようで、暫く観察していたようです。この時の為に手を荒れさせている感じではなく、前々からのようで、かなり荒れてヒビも入り赤黒くなっている箇所もあったと言っておりました」
ベストを脱ぎエッシャーに渡した。
「そんなものいくらでも騙せるだろうが」
「そうかもしれませんが、手のあかぎれは騙せるものではありません」
「お前までまでもその女の肩を持つ気か?」
「そうではございませんが、上級貴族にしては行動が常軌ではないと思いまして」
「ウイスキーを入れてくれ」
鞄を持ち机に座り、鞄から書類を出した。
「かしこまりました」
エッシャーは私の上着とベストを持ちクローゼットへ向かった。
エッシャーは人を見る目は、ある。
知識も豊富で、父上が生きていた頃は右腕となり様々な事に精通し動いてくれていた。
そのエッシャーを騙して来るとは、なかなかな女だ。
「お待たせ致しました」
服を片付け戻ってくると、急いで飲み物を準備してくれた。
「先程の話の続きですが、今日から身の回りの世話をしている者が、髪もボサボサで、肌も年頃の女性の割には全く手入れのなされていないようで、その・・・」
まだ、あるのか。
「なんだ、早く言え」
うんざりだが、わざわざエッシャーが口にするという事は理由があるのだろう。
「虐められていたのではないか、と。あとは、ご自分で薪を広い売って小遣いにしていたそうです」
「バカバカしい。そんなに絵空事を信じたのかお前らは!?そんな筈はなかろう。アッシュ伯爵から初めに来た女は、豪華なドレスを来た上に、己は何一つすること無く手袋をはめ、口しか動かさん高飛車な女だった。人を見下した物言いと、我が物顔の態度。私達の知ってある忌々しい貴族だ。それは、お前が1番知っているだろう!?」
忘れる事など出来ない、忌まわしく、悲しく、やりきれない過去がまた思い出させれる。
私よりも、エッシャーの方があの時はよく動き、辛かった筈だ。
「・・・分かっておりますが、ともかくリーン様は少し違うような気がします。1度旦那様にご挨拶したいとずっと言っておいでですので、お会いされてみればいかがですか?」
「会ってどうする。それこそつけあがらせるだけだ」
「そうかもしれませんが、何時までもお会いしないと言う訳には参りません。屋敷の中だけはなく、これからは夜会やパーティーにも御一緒に参加する事ともあります。その為のこの御婚約ではありませんか」
穏やかながらも、核を突いた内容に返す言葉がないのに、腹がたった。
「それからリーン様にお手紙がに来ております」
机に綺麗な手紙が置かれた。
「ライアン侯爵家の紋章だな」
手に取り裏を見るとベッタリと押してある。
ビリリと封を開け中を確認する。
「茶会の招待状だ。参加するように言っておけ。その為の女だろう。会うのは考えておく」
「かしこまりました」
「下がっていい」
「かしこまりました」
私が手紙を本人の許可なく勝手に開けたのをよく思わなかったのだろう。嫌な顔で一瞥たが、直ぐに無表情になり手紙を受け取ると、出ていった。
私の屋敷に来た手紙だ。なんの文句がある。
婚約者、か。
女を変えてきたかと思ったら、屋敷に居候させるように、とおかしな条件を付けてきた。
魂胆が丸見えだ。
屋敷の実権を握り、どうせ金をせしめるつもりなのだ。私が多忙なのは周知の事実だ。その隙を狙えば簡便だと踏んだのだろうが、本当に低俗な思考しかない、と反吐が出る。
利害は一致しているのだがら、何もせずに大人しくすればいいものをわざわざ、逆撫ですることしかしない。
余程気に入らないのだろう。
由緒正しき血筋が、低級貴族に頭を下げたのが。
だが、こちらも気に入らないのを我慢しているのだ。
しかし、今度はえらくあざとい女を寄越したな。
他と違う言うのは演技が上手いからに決まっているからだろう。
前の女から何か悪知恵を吹き込まれたに決まっている。
そうでなければエッシャーが騙される訳が無い。同情心で召使い達を引き込むなど、腹立たしい限りだ。
まだ、前の女のように気位が高く誰からも嫌われればいいものを。
くそっ、余計な仕事を増やしてくれる。
さっさと潰すに限るな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます