旅の軌跡 アリア

 私のお母さんとお父さんは、私が小さい時に、2人とも死んでしまった。


 それからは、おばあちゃんが私の面倒を見てくれている。


 どう取り繕っても、裕福とは言えなかったけど、私はこれまで、一度も不幸だなんて思ったことはなかった。


 「おばあちゃん!今日も行ってくるね!!」


 「いってらっしゃい。ちゃんとご挨拶するんだよ。」


 「うん!」


 今日は何をしてるのかな?もしかして今日も畑にいるのかな?


 「もう少しであれも収穫できそうだな。」


 あ!やっぱり畑にいた!


 「ルイー!!」


 今日こそ…!


 「キャッ!」


 もー!今日もじゃーん!


 「いたた…もー、なんで避けるのよ!それにいつも寸前とかじゃなくて凸撃する前に避けるし…」


 「いや凸って来るやついたら避けるでしょ普通。来る前にわかるのは…なんとなく!」


 「今日も農業?毎日毎日飽きないね。」


 「うるせー。こっちはお前と違って冒険者に向いていないんでね。」


 「もー何その言い方ー。まぁいいや!早くルイん家でお昼ご飯食べよー!」


 そう。これが私の毎日。とっても幸せで、いつまでも続いて欲しい日常。どんな環境でも、ルイがいればなんでも楽しく感じられる。


 私は——ルイが大好きだ。


 ルイが好き。大好き。だからこそ、一緒に冒険者になって、一緒にいろんな所を冒険したかった。


 果たしてその夢は——実現した。


 「じゃあね…行ってくるねおばぁちゃん!」


 「うん。元気にやるんだよ。体調には気をつけてね。」


 「ありがと!たまに手紙送るね!!」


 それだけ残し、私は走り出した。


 ルイと冒険者になれる。一緒に冒険できる。それだけで、楽しみすぎて昨日は眠れなかった。


 「これからどうするのかプランはあるのか?」


 「もちろん!とりあえず街道に沿って歩いたら、途中で駅舎があるから、そこで馬車に乗って王都まで行くつもりよ。」


 始まったんだって実感した。ここから、私たちだけの物語が始まるんだ!!って。


 嬉しかった。行きたいところも、食べてみたい物も、たくさんあった。


 嫌なことがあったって、隣にいるルイを見るだけで、不思議と忘れられる気がした。


 だからこそ、ルイの本当のスキルを知ったときは驚いたなぁ…

 

————————————————————

HP300000/300000  MP 300000/300000


スキル

『神託』『大賢者』『重力操作』『千妖刀召喚』『鑑定眼』『ストレージ』『言語翻訳』『魔導の極み』『恐怖の邪眼』『呪殺の邪眼』『死滅の邪眼』『傲慢』『暴食』『HP自動回復Lv10』『MP自動回復Lv10』『ステータス偽装Lv10』『炎魔法Lv4』『水魔法Lv3』『風魔法Lv3』『土魔法Lv3』『光魔法Lv3』『闇魔法Lv3』『深潭魔法Lv3』『治癒魔法Lv3』『物理耐性Lv3』『魔法耐性Lv3』『恐怖耐性Lv3』『邪眼耐性Lv3』『状態異常無効Lv3』『探知Lv3』『予見Lv4』『危機察知Lv4』『隠密Lv3』『思考加速Lv3』『調合Lv3』『各種武器適合Lv5』


称号

・異界人       ・重力の覇者

・神に愛された者   ・処刑人

————————————————————


 「嘘…」


 でもこのとき私の胸に浮かんだのは、隠されてたことに対する怒りや、圧倒的なスキルへの嫉妬でもなかった。


 「凄い!凄いよルイ!!!」


 私のスキルは3つ。常識的にはスキルを多く持っている部類だ。


 でもルイは違った。40近くのスキルを持っていた。


 憧れた。どうやってルイに追いつけるか、必死に考えた。必死に考えて考えて、でもわからなかった。


 すごい…楽しい…!


 これだけでも、田舎育ちの私には大きな刺激で、本当に、冒険者になろうとしたことに後悔はなかった。


 学校に入学しようってとき、ルイは私に問題集だけ渡してどこかへ行ってしまった。買い物に行くとだけ残して。


 「ただいまアリア。」


 「おかえり!見て!あの問題集、全部正解したよ!」


 褒めて欲しかった。ただルイに一言、「すごいね」って褒めて欲しくてこの1ヶ月近く、冒険者になろうって決めた時から、私がいっちばん苦手な勉強を頑張ってみた。


 「凄いじゃないか。じゃぁこれ。ご褒美のプレゼント。」


 そう言い、ルイがつけてくれたのは、アパタイトでできたピアスだった。


 とっても綺麗で。蒼く輝いていて。


 「わぁ…ありがとう!!ぜっっっっったい大事にするね!!」 


 絶対無くさない!いつまでも大切にして、いつかルイに何かお返ししてあげるんだ!!


 入学テストが始まった。筆記試験では、問題集の問題をなんとか思い出して解けた。


 ルイには、強がって「余裕よ!私にかかればこんなの12分程度で終わるわ!」なんて言っちゃったけど。


 実技試験。正直、私が負けることはないと思っていた。決勝戦では、ルイに何とか一撃当てたい。それだけを頭に入れていた。


 「速いだけでは、実力差があるものに対し無力ですよ。」


 そう言い、速攻をかけようとした私の前には、屈んで真下から首を狙う、緑色の服の少女がいた。


 「ありがとうございました。また生活の中で会えることを願っています。」


 淡々と、まるで当然のように去っていく彼女を見て、私は——悔しかった。


 すっごく悔しかった。ルイと闘うのは、私だと思っていたから。


 ルイ以外に、私より強い人がいるなんて考えてもいなかったから。


 でも、彼女とも仲良くなれてよかった。


 「おふたりは、仲がいいのですね。」


 「そ、そんな事ないわよ!もう!…とにかく…これからよろしくね。ソフィアちゃん♪」


 「よろしくお願いします。アリアさん。」


 それからは、毎日がもっと楽しくなった。もちろん、ルイと2人っきりの生活も楽しかったけど。


 ソフィアちゃんと一緒に、私も鍛えてもらえることになってからは、私たちはもっと強くなった。


 今ならルイにも攻撃が入るかな…?

 「『乱数聖域ナンバーズ・サンクチュアリ』!」


 でも、ルイはもっと強くなってた。


 それどころか、伝説の英雄の継承者になんかなっちゃってたりして。


 本当にどこまでも。毎日は『楽しい』で溢れてると知った。


 それに、ルイとソフィアちゃんが、私のために怒ってくれたと知った日には、こっそり泣いちゃったりした。


 あはは…「ルイを守る」なんて言っちゃったのにな…


 私はいつでもルイに。ソフィアちゃんに守られていた。


 そんな自分がちょっと情けなくて。そんなときに受けた依頼が、『デス・パレード』の鎮圧だった。


 知識としては知っていた。あのナンバーズを倒した魔物が出る。メノウの一員として。『No.Name』として、この依頼を受けたかった。


 「それじゃ、作戦通りに!」


 私はまず、森の中にいる魔物の掃討に向かった。『エンチャント』のスキルを覚えた私にとって、そこらの魔物は脅威じゃなかった。


 ふぅ…とりあえずこのままなら、あと30分ぐらいでみんなと合流できるかな…?


 「たっ、助けてくれぇ!!」


 あっ!危ない!!


 「『エンチャント—爆撃—』!」


 いったぁ…やっぱり効率はいいけど、爆撃魔法の特攻はちょっと痛いなぁ…これからはちゃんと考えて行動しよ…


 「す…すまない。助かったよ…」


 「えぇ。あなたも気をつけて!」


 さて、次は南西方向に——


 「あッ!嬢ちゃん危ない!」


 ——!対応が遅れたッ!


 「『エンチャント——』」


 ズギューン!


 その音と同時に、魔物の頭に穴が空いた。


 これは…ルイの狙撃だ!


 なんでも、『すないぱーらいふる』?ってやつで、後ろから全体の支援をしているらしい。…かっこいい見た目ってことしか覚えてないけど。


 パレード最大の、ナンバーズを破った魔物の魔力障壁を破壊するとき、絶対にやらなきゃって思った。


 どうにかして障壁を破壊すれば、後はルイとガフさんが決めてくれる。だからここでやらなきゃって思った。


 「ハァーーー!!!!!!」


 でも、まだ足りなかった。


 「キャァ!…ごめん!!でもヒビは入れられたよ!!」


 そのときルイは十分って言ってくれたけど、ルイなら絶対に破壊してた。


 あぁ…まだ足りないんだなぁ…あんなに努力して、自分の思う戦闘ができるようになったと思ったのに、まだ私1人じゃ足りないんだ…


 自分が情けなかった。あそこで障壁を破壊できていれば、もっと有利な戦局になったに違いない。


 私が——障壁を破壊できていればッッ!


 「総員退避ー!!!!逃げろ…!死ぬなーーー!!!!!!!!」


 ルイの攻撃でもまだ足りなかった。


 私のミスがなければ…こんなことにならなかった…!最後に…私ができることは——!


 「アリア!!!」


 「なんで…こっちにッ!」


 「あはは…ほら…言ったでしょ…?」


 「冒険者テストで盗賊に襲われたとき…」


 「『ルイは絶対に守る』って…」


 あぁほんとに…最後の最後まで、迷惑かけちゃったなぁ…


 こんなところで終わりたいわけがない。ギルドの近くの『クレープ』なんてのも食べてみたかったし、『遊園地』なんてところも行ってみたかった。


 まぁでも、今となっては後の祭りだ。


 私の命を賭けて——

 次に託して——

 ルイに全てを賭けて——


 今がダメなら————次に託してっ!!


 「でも…ほんとに…最後までワガママで…いつも手を焼かせて…ごめんね——?」


 そこでやっと気づいた。私の頬に、涙が伝ってるって。


 ——あれ…?泣い…てる?


 もう、限界だった。


 ひぐ…いやだよぉ…!ルイと離れたくないよぉ!!もっと一緒にいたいよ…!お別れなんて…寂しいよ!!


 あぁ…ルイは生まれ変わりなんてないって言ってたけど…もしまた会えたら…今度こそ…一緒にいたいなぁ…最後まで…2人で…



 生まれ変わっても——大好きだよ————



 「————アリア!!」


 そこで、私の意識は深い闇へと堕ちた。

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