11話  権能解放 前編

※核兵器を彷彿とさせる描写が登場します。閲覧の際は、ご注意ください。



 「『セイクリッド・ジャベリン』!!」

 

 やはり駄目だ。ただでさえやつの魔力障壁が厚いのに、さらに『スキル無効』まで持っていては、並の攻撃じゃダメージは通らない。


 なら、俺のするべき事は…!


 「走れアリア!俺が道を作る!」


 並じゃない攻撃を加えればいい!


 アリアの攻撃力は並のものじゃない。それこそ、年的にまだまだ低いのにガフをも凌駕するほどの攻撃力があるだろう。それをさらに『エンチャント』で強化する。そうすれば、障壁なら破ることができるはず…!


 「ソフィアはスキルで援護しろ!効かなくていい!何かしら派手な攻撃を!!」


 何でもいい。とにかくヤツの注意からアリアを逸らす!


 「はい!」

 「了解です!」


 さぁ…反撃開始だ…!とにかくヤツの魔力障壁を破らないことには始まらない。アレを破る!!


 「フー…『円環の矢時雨』!」


 化け物の周りに矢の時雨が降る。瞬間、ヤツの視線が移動した。


 「『物質支配』!走れアリア!」


 創り出した1本の柱。『気配消去』で音こそしないが、アリアの速度はとてつもない。そして、そのアリアの顔には、責任感と使命感、そして焦燥が表れていた。


 「『エンチャント—振動—』!!!」


 アリアの判断は正しい。ここでただ火力に振るのは素人だ。


 硬いものを切断するとき、刃物に振動を与え、切りやすくするというのは世の常。これで障壁だけでも…!


 「ハァーーー!!!!!!」


 ——ミシッ


 障壁にヒビが入る。もう少し。あと少し。・・・頼む!!


 アリアが弾かれたのは、ルイが願うのと同時。やつが動き、障壁が破られるのを防ぐ方が早かった。


 「キャァ!…ごめん!!でもヒビは入れられたよ!!」


 十分だ。


 「合わせろガフ!」

 「了解!」


 ヒビまで入れば上出来。あとは俺とガフで突破する!


 「『千妖刀 零の太刀—千妖一閃—』!!」

 「『ディバイン・パニッシュ』!!」


 ——パリンッ


 れた!攻撃するなら今しかない!!ヤツが障壁を再構築したら、おそらくもう二度とチャンスは訪れない。


 「総員攻撃開始!!効果の薄いスキルでもいい!なんでもつぎ込め!!」


 普段、一ギルドのメンバーがこんな指示を出しても、なんの意味も成さないし誰も従わない。王様気取りの痛いやつと思われるだけだ。


 だが今は違う。騎士団長と共闘し、その騎士団長に「合わせろ」と言わしめるほどの実力を持った1人の冒険者。


 彼が何者か。どこの出自か。


 そんな事を考える冒険者は、この場に存在しなかった。


 なんでもいい。彼に従え。


 そう脳から指令が出ているように感じていた。


 彼らの魔法や打撃は、あのナンバーズをも殺したと伝えられている化け物に降り注いだ。


 「カマせソフィア!お前の全力をぶつけろ!!」


 「はい!!」


 ソフィアの引き絞る矢に、迷いはなかった。その矢尻はただ一点を見つめ、ただ1つの標的を捉えていた。


 「『光輪の弓帝』!!」


 光輪をまとった1本の矢。その矢は物理法則の鎖を引きちぎり、一切の重力による減速、落下をせず、バケモノの目を——貫いた。


 「◯✖️△◻︎☆!!!!」


 鼓膜を千切らんとする、言葉に表せない叫び声。ソフィアの攻撃が、確実に有効な一撃を与えたことを示していた。


 「『魔導の極み』!『深潭魔法 —奈落への誘い—』!!」


 ルイがこの世界に来て初めて使った『深潭魔法』。魂に直接干渉し、ダメージを与えることで、生半可なスキルでは無効化されるようなチートじみたヤツのスキルを突破した。


 「どうだ!?」


 いや…このセリフはフラグか…


 「◯✖️△◻︎☆!!!!」


 そんな一縷いちるの願いを込めた、誰かに否定して欲しかったルイの予想は現実となった。


 「あ…!アレ!」


 ヤツが障壁の再構築を始めている。ガフ含めた、『No.Name』の全力を賭してやっと突破したあの障壁が。


 クソ…!『深潭魔法』で2割程度しか削れないなら、これ以上の火力を出すのに選択肢は1つしかないぞ…でもいいのか?失敗したら、おそらくこの場にいる全員が死亡する。そんなとんでもない博打に、国の…いや世界の命運を賭けて。


 ・・・いや…やるしかないか。あの障壁が完成すれば、今度こそ確実に全滅する。結果同じなら、行動してからその結末を見てやる!!


 「拘束系の魔法が使えるやつは援護してくれ!!!」


 「「「了解!!」」」


 狙うは一撃。障壁が完成する前に、圧倒的な瞬間火力で一気に倒し切る!


 「『重力操作』」

 

 のためには、やつの目の前まで行かないと効果が薄い…ゼロキョリで発動させる!


 「◯✖️△◻︎☆!!!!」


 ルイが最初に見た、だが今度はいくつも分裂する光線が、空を翔ぶ四方からルイを襲い、その命をえぐり取ろうとする。


 「ン…!」


 だが相手はルイだ。被弾無しで、化け物の眼前まで到達した。


 「『物質支配』最大出力…!」


  ありったけの魔力を注ぎ込み、化け物を覆うドームを創る。


 生半可な強度じゃダメだ!やつの攻撃を、を耐えられる強度じゃないと!

 

 のための魔力さえあればいい!ありったけの魔力をつぎ込め!!


 そして完成する。化け物を、ドームが完全に包み込んだ。


 「『スキルページ』…!」


 〈条件を達成しました。スキル『思考補足Lv1』を獲得しました。熟練度が一定に足しました。スキル『思考補足』が、Lv10になりました。条件を達成しました。スキル『思考補足Lv10』が、『思考補完Lv1』に進化しました。熟練度が一定に出しました。スキル『思考補完Lv1』が、Lv10になりました。〉


 使用者の思考の欠落している部分を補う『思考補足』。その上位スキルである『思考補完』は、ルイたちの勝利には、必要不可欠だった。


 これで終わらせるッ!!


 「『物質支配』…」


 そして、ドームの中に1つの塊が現れる。

 


 「——『ツァーリ・ボンバ』」



 かつてのルイの母星である地球に棲む人類、その最大の過ち。水素爆弾、『熱核兵器』。


 核分裂反応により発生する放射線と超高温。それらを媒体として放たれる重水素やトリチウムの核融合反応は——


 かつての母国、日本を焼いた原子爆弾、『リトルボーイ』の、約3000倍の威力を有する、壊滅的な暴力となって生命に降りかかる。


 「『物質支配』」


 ドームを透過する放射線を、『物質支配』で取り除きながら、僅かな不安と共に、確かな勝利を確信した。


 これでダメなら、俺たちに勝利はない。確実に倒した…世界最大級の水爆に耐えられるなら、それこそ世界の滅亡だ…!


 そして、上空から落下する途中、ツァーリ・ボンバの爆発によりできた、ドームの隙間からルイは——光を見た。


 ッッッッッッ!!違う!まさか…!


 その光は徐々に下へ移動し、ルイや冒険者たちを捉えた。


 生き…てる…!?


 まさか…ヤツは攻撃しなかったんじゃない!!この瞬間のために、ずっと魔法術式を構築していたッ!


 まずい。まずいマズイ不味い失敗したまずい失策したまずいやらかしたまずい!!あの魔法は、最初に見た光線の比じゃない!


 ——『全滅』そんな言葉が、ルイの頭をよぎった。


 一体…あのナンバーズ英雄はこんなを…どうやって倒した…!?


 魔力は使い切って全員を退避させることはできない。いや『雲散霧消』なら?無理だ。圧倒的すぎてさばけない。だとしたら…


 「総員退避ー!!!!逃げろ…!死ぬなーーー!!!!!!!!」


 自分は間違いなく被弾する。直撃すれば間違いなく消し飛ぶだろう。運が良くても片腕片足は無くなる。…でも…その運を引き寄せれば!


 「『乱数聖域ナンバーズ・サンクチュアリ』!」


 『MP自動回復』と『魔導の極み』で回復した、微量な魔力で、この場を凌げれば!


 今日はこれで何度目だろう。ルイはまた1つ——読み違えた。


 [ルイさん!アリアさんが!!]


 ——おい。嘘だろ。


 「アリア!!!」


 目の前に飛び出してきたのは…見紛うはずもない。誰よりも長い時間を共にし、いつも自分に手間をかけさせた——アリアだった。


 「なんで…こっちにッ!」


 もう時間がない。他の冒険者たちは退避できただろうか。わからない。ただ、膨張する光が、そのタイムリミットを示していた。


 「あはは…ほら…言ったでしょ…?」


 やめろ。言うな。


 「冒険者テストで盗賊に襲われたとき…」


 何をしている。早く逃げろ。


 「『ルイは絶対に守る』って…」


 ——ッッ!


 咄嗟に、展開していた全てのスキルを解除し、回復した僅かな魔力で重力を操作。そしてアリアの身体をずらした。


 「でも…ほんとに…最後までワガママで…いつも手を焼かせて…ごめんね——?」


 その言葉を最後に、光が爆発し、アリアの半身を根こそぎ消滅させた。


 「————アリア!!」

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