10話  ナンバーズの敵

 「各員!戦闘開始!!なんとしても生き残れ!なんとしてもパレードを制圧するんだ!!」

 

 ガフの声で、そこは戦場へと変わった。俺たちも始めよう。

 

 「それじゃ、作戦通りに!」

 

 

 アリアは1人、森の中を走り回り、そのナイフを振るっていた。


 「ハァッ!!」


 その太刀筋は素晴らしく、立ち塞がる魔物の首を的確に捉えていた。・・・ナイフに『太刀筋』って言葉が正しいのかわからないけど。


 「たっ、助けてくれぇ!!」


 おっと、ピンチな冒険者が1人。まぁアリアなら躊躇なく助けるんだろうな。


 「あっ!『エンチャント—爆撃—』!」


 『エンチャント』のスキルは、無機物、アリアの場合はナイフに魔法を付与して強化するスキル。前世の漫画でよく見たが、意外と強いんだこれが。


 アリアがナイフを振るうのと同時に爆発が起きる。


 普通、ゼロキョリで爆撃魔法なんて付与したら自爆もいいところだが、アリアは頑丈な上に、『HP自動回復』と『再生』を持っている。簡単に回復できるだろう。


 「す…すまない。助かったよ…」


 「えぇ。あなたも気をつけて!」


  ほーんと、アリアの優しさには感心するよ。俺なら助けるというより、背後からバッサリやって利用すると思うなぁ…


 「あッ!嬢ちゃん危ない!」


 アリアの背後に巨大な魔物が回っていた。いくらアリアでも、あの巨大じゃ反撃はできない。防御で精一杯だろう。…助けてやるか。


 ズギューン!


 その音と共に巨体が倒れる。アリアが助けたやつは何が起こっているのか分かっていないようだ。


 そして、アリアはこちらに手を振っている。まったく、集中したまえ。


 え?俺が今どこにいるって?俺は今、街の城壁からスナイパーライフル——狙撃銃による超後方火力支援として働いている。


 この世界で普及しているのは弓だ。当然銃なんて存在しない。


 そこで俺は、『物質支配』を応用して、銃身と弾薬を創った。バレルの調整に苦戦したが、なんとかできた。ちなみに火薬は『炎魔法』を応用している。


 弓の有効距離は約80メートル。即死させるのならば40メートルほど。さすがに近い。


 しかし、狙撃銃なら即死させるのでも300メートルほどまでは届く。なら、こちらを選ぶのも間違ってはいまい。


 ソフィアにも声をかけたが、「弓の方が使い慣れているから」と断られた。

 

 [こらアリア、戦闘に集中しろ。]

 

 [はーい!]

 

 ったく。ほんとにわかってるんだか。


 さて、俺もそろそろ前線に向かいますか。


 

 ソフィアも、今回は珍しく比較的前の方で戦っていた。


 「フッ!」


 まさに百発百中。『孤高の狙撃手』の称号に恥じないソフィアの命中制度は、数多くいる冒険者の中でも逸脱していた。


 「囲まれましたか…」


 ソフィアは最大で5本までなら同時に矢を発射できるようになった。だがさすがに手が回らない。数が多すぎる。


 「押し通ります!!『円環の矢時雨』!」


 スキルの発動と共に、ソフィアは頭上に1本の矢を放つ。そしてその矢は何千本もの矢に変わり、ソフィアを中心に半径30メートルほどの範囲に回転しながら降り注ぐ。


 矢の密度は凄まじく、俺でも回避できない。基本一対一を望むアーチャーにとって、広範囲を攻撃できる数少ないスキル。ソフィアは使いこなしていた。


 [ソフィア、調子は?]


 [えぇ。完璧です。]


 [だろうな。今お前のスキルが見えた。]


 [そちらは?]


 [アリアは問題ない。俺も前線で戦う。ま大丈夫だ。]


 [了解しました。]


 やるか。


 「『千妖刀召喚』『乱数聖域ナンバーズ・サンクチュアリ』」


 とりあえずは魔物を全員狩りながら奥を目指す。森の奥にパレードの核となるがあるはずだ。それを壊せば、強力な魔物が出る前にパレードを終わらせられるらしい。


 「さすがに魔物が多すぎるな…このままじゃ森の奥になんて行けない…『千妖刀 弍の太刀—花鳥風月—』!」


 弍の太刀は舞のように滑らかに、そして優雅に剣を振るいながら敵に連撃を見舞う。


 一撃一撃のダメージは小さいだろうが、短時間で何百と剣を当てるこの技なら、一対一の状況なら打ち負ける事はない。


 「・・・一体一体じゃキリがないか。」


 そのまま俺は刀を地面に突き刺す。その瞬間、多すぎる魔物が全方位から俺に飛びかかってきた。


 いらっしゃいませー!!


 「『重力操作—ノアの洪水—』!」


 前世で聞いた『ノアの箱舟』を元に、俺が考案した技。重力の均衡を瞬間的に激しく崩し、辺りのものを全て吹き飛ばす技。これが一対多数だとほんとに強いんだわ。


 ・・・魔物はまだまだ減らない。奥に行かせないように、獣道全体に、どこまでも長い魔物の列ができている。さ、押し通ろう。


 「『千妖刀 弎の太刀—百鬼夜行—』!」


 刀を振るのと同時に、その方向に斬撃が飛んでいく。その斬撃は一言で表すならまさしく。狭い場所ならこれが最も有効。


 スキルにより強化されたそれから、逃げ延びられる生物は存在しない。


 その斬撃は、目の前の敵を殲滅し、ルイのためとも思える道をつくった。


 さぁ、もう少しだ。


 [2人とも、状況は。]


 [問題ありません。]


 [バッチリ!にしても、さっき魔物が吹き飛んでるのが見えたけど、それってルイ?]


 あぁー見られてましたか。そりゃそうだあんだけ派手にかましてればなー。多分他のパーティーにも見られたな。これは後で絡まれそうだ。


 [さすがですねルイさん。そういえば、先程通ったところ、魔物が全て潰されていたんですが、それもルイさんですか?]


 潰されていた…?確かに、俺が通ったところの魔物は全滅させたが…たまたま同じところをソフィアが通ったのか?


 [潰されてたって、全滅だったの?]


 [いえ、物理的に潰されていました。]


 物理的ってことは…ペッチャンコってことだよな。え?そんなことする人がいるの?怖。てか力エグ。


 [それは多分俺じゃないな。第一、俺は刀だから潰れるよりかはバラバラになってるはず。]


 [まぁ、それはそれで怖いですけどね。」


 [ハハハ☆]


 その刻だった。森の中の空気が一変し、身体が潰されるほどの大気圧を感じたのは。


 「◯✖️△◻︎☆!!!!」


 「「「!!!!」」」


 なんだこの声…聞いたことがない…何より、俺の足が震えてる…?『恐怖耐性』を上回るほどの圧なのか…?


 そして、その巨大が姿を現す。巨大な2本角に、生気をまるで感じさせない、見ただけで強靭だと分かる無機質な皮膚。ファーモウトの城壁よりも圧倒的に大きく、すべての生物を呑み込まんというその巨体が。


 「なに…アレ…?」


 「アレが…パレード最強の魔物ですか…?」


 アレが姿を現した瞬間、各地で聞こえていた戦闘音が聞こえなくなった。他の冒険者や魔物も、アイツのプレッシャーに圧倒されているのか。


 [2人とも集まれ…アレは…1人で勝てる代物じゃない!]


 [了解!すぐに向かう!」


 [はい!]


 アレは無理だ。俺だけじゃ勝てない。いや、正直…勝てるビジョンが見えない…俺の『危機察知』がビンビンに反応している。『逃げろ。』と、ずっと警鐘を鳴らしている。


 「◯✖️△◻︎☆!!!!」


 「ッ!」


 その声と共に、一瞬、ルイの視界が光に包まれた。


 そして、その直後、音さえ残し、大地が吹き飛んだ。


 から放たれるビーム状の魔法。その魔法は一瞬にして大地を抉り、またルイの心をも抉った。


 「ありえない…」


 そして2人が到着する。2人とも、ルイと同じくあの攻撃を間近で見ており、その眼には恐怖が宿っていた。


 「お待たせ!」


 「ルイさん!大丈夫ですか!?」


 「っ…今…ヤツを鑑定した…」


 「それでッ!?」


 「最悪だ・・・ヤツが持っているのは『スキル無効Lv9』。」


 「スキル…無効…?」

 

 「それってつまり!」


 『スキル無効』は世界で最強といわれているスキルの1つ。


 実際に無効というわけではなく、実際はスキルのレベルに応じて敵のスキルのダメージを軽減する。


 だが、Lv9ともなれば、スキルの約86パーセントのダメージは軽減されてしまう。


 スキルが絶対的な攻撃手段の世界において、スキルを否定されるというのは、その戦いを否定されるのと同義。最も理不尽なスキルだ。


 「各種魔法に邪眼、ソフィアの『円環の矢時雨』もほとんど通用しない。効くのは俺の『重力操作』『物質支配』『千妖刀』『乱数聖域ナンバーズ・サンクチュアリ』、

アリアのナイフ術、そしてソフィアの弓術だけ…正直…ヤツのHPは次元が違う。これらだけじゃ削りきれないし、タラタラしてるとこっちが全滅させられる…」

 

 重力操作は、から、『スキル無効』があっても通用する。


 それに、『物質支配』や『千妖刀』はスキルで創造し、攻撃しているから、無効化される対象には入らない。


 つまり、魔力の塊をぶつけるスキルは通用しないが、魔力によって生み出されたモノは効果があるのだ。


 だとすればその2つでどこまで削れるかか…


 『乱数聖域ナンバーズ・サンクチュアリ』で攻撃を当てることは可能でも、このスキルは完璧じゃない。


 攻撃を避けるがなければ被弾するし、仮に被弾すればおそらく一撃で天から迎えが来る。防戦は得策じゃない。


 「そうだ!『物質支配』であいつの身体を——」


  「できない…」


  「え…?」


  「『物質支配』じゃ、細胞の操作まではできない…」


 万策尽きた。千妖刀で切りつけても、恐らくすぐに再生され、決定打にはならない。


 「『セイクリッド・ランス』!!」


 絶望的な戦力差の中、真っ先に飛び出したのは騎士団長のガフだった。


 「クソ、やっぱり効いちゃいないか!いくぞ騎士よ!我々の責務を果たすのだ!!」


 騎士団全体でも攻撃を繰り出す。中には冒険者も何人か混じっているが、やはり有効打を与えているようには見えない。それに、やつ自身の魔力障壁が硬すぎる。


 「ガフさんダメだ!そいつはスキルをほとんど無効化してる!普通に戦ったんじゃ勝てない!!」


 「そうか…それでも、死ぬまで国のために戦うのが、我々騎士団だ!最後の1人になっても、我々は戦い続ける!」


 「・・・」


 「やろう!ルイ!」


 「ルイさん!」


 …そうだ。俺たちはやらなければならない。この作戦に参加した以上、やり遂げる義務がある。


 「この辺りでは、君たちが最も頼りなんだ!!」


 そうだ。俺たちが一番強い。


 「・・・『重力操作 —覇王の眼差し—』」


 そうだ。恐れるものはない。俺は・・・『超越者』だ。


 『重力操作』じゃやつを潰せるほどの重力はかけられない。恐らく地面が先に崩壊してしまう。


 「行くぞ!!ソフィアは後方の巨木で待機!必要に応じて狙撃!アリアは前線で全体の指揮と騎士団の攻撃をサポート!」


 「「了解!!」」


 「総員聞いたな!各員『No.Name』を中心に行動しろ!」


 「「「はい!!」」」


 いつの間にか騎士団だけでなく、冒険者たちも俺たちに合わせてくれている。


 「『エターナル・アックス』!」


 「『フロストメテオ』!」


 冒険者は騎士団ほどの連携力はないが、もともと近くにいただけあって強い。個人の力で連携力をカバーしている。


 『覇王の眼差し』で行動を制限してはいるが抑えきれない。このままじゃチキンレースだ。ここで一気に仕留める…!

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