9話  面倒事はいつでもどこでも

 俺達は先ほど提案された物件の内見に向かっていた。

 

 「ここが先ほどのお家です。どうです?」


 何というか…非常に素晴らしい。想像していたものより、遥かに全てのものが良かった。・・・なんか、語彙力死んでね?

 

 「すごーい!写真で見たものより広いし、部屋も綺麗!」


 「そうですね…!私、こんなお家に住んでみたいです…!」

 

 ソフィアが興奮するなんて珍しい。よっぽど気に入ったのだろうか。


 これはもう、買うしかないのでは…?俺的にも、この物件を買わないという手は無い。メノウに近く、部屋数もピッタリ。おまけに庭もついている。・・・ここに決めよう。そうだ。それがいい。


 「…ここはいくらだい?」


 「うーん…このくらいだね。」


 ——ゲッ!高ッ!


 俺たちはそこそこお国に貢献しているギルドのため、かなりの依頼報酬が出ている。おそらく街の中じゃちょっと上の方だろう。


 それでも財産の半分以上を手放さないといけないとは・・・まぁ、当然と言えば当然か。こんな前世で言う“ザギン”みたいなところ、高く無いわけがない。所持金の6割が吹っ飛ぶけど・・・まぁ、依頼受けまくって稼げばいっか!!

 

 「それじゃあここに決めるよ。戻って手続きを頼むよ。」


 「はい、かしこまりました。」

 

 家を購入してから翌日、今日はアリアとソフィアが街に買い物に出ており、家には俺1人だった。


 これで久しぶりに静かなのんびりライフを送れる!毎日毎日騒がしいのも嫌いじゃないけど、静かな方が好きだ!!

 

 ドンドンドンドンドンドン

 

 あ…これは面倒事の匂い…でも無視するわけにもいかないよな…

 

 「あーはいはい、何ですかい?」


 そう言い、ドアを開けた先には、全身を白銀の鎧で固め、腰に剣を携える“騎士様”が立っていた。

 

 「ここは『No.Name』の拠点で間違いないだろうか!?」


 いや拠点て。騎士感溢れるけど、普通の家ですよ。なんだ拠点って。

 

 「あぁ。今他の2人は出払ってましてね。話なら俺が聞きますよ。」


 そしてその“騎士様”が緩慢に口を開くと、ルイは己の耳を疑った。


 「近いうち、『デス・パレード』が起こる…」


 『デス・パレード』…!


 俺でも名前は知ってる。『7大罪スキル』を図書館で必死こいて調べた日々は無駄じゃなかったようだ。


 いわゆる転生系ラノベにある魔物の襲撃イベントみたいなものだ。危険度は全ての依頼の中で最大。


 「超災害カタストロフ」と言われる『デス・パレード』では、発生する度に数えることすら不可能な死者が出ているらしい。


 滅多に起こることはないそうだが、まさかこの時代に起きるとは思っていなかった。

 

 「それで?その鎮圧隊に加われと?」


 「その通りで——」


 「断る。」


 「は…?」

 

 以前アリアに『ナンバーズ』のことを聞いてから、自分でも調べてみた。


 生涯一度も傷を負わなかったナンバーズだが、『デス・パレード』の鎮圧隊に加わり、その生涯を終えたらしい。


 俺は何とかなるかもしれないが、あの2人には難しい。彼でさえ生き残れなかった『デス・パレード』に、アリアやソフィアを参加させるわけにはいかない。


 「聞こえなかったか?


 「な・・・!」


 おぅおぅ。そんな目をするなよ。切り捨てそうな目で俺を見ないでくれ。怖いから。

 

 「他の2人を捕まえて、2人だけでも強制的に参加させてもいいんだぞ!!」


 あ…?今なんて言った?


 「そうか…そんなことをする愚か者がいるなら・・・パレードの前に、この大陸は“煤塵と化す”だろうな。」


 『物質支配』で作り出した槍を“騎士様”の首元に全方位から突きつける。脅す材料としてはこれで十分だ。

 

 「ク…後悔するぞ!」


 いわゆる三流以下の捨て台詞を吐いて愚か者は去って行った。


 そう。これでいい。最低限の自衛はできる。自由に生きることこそが冒険者。面倒事は勘弁だ。

 

 翌日、家のポストには1枚の手紙が入っていた。

 

 「ルイー、ルイ当てに、王宮騎士団から手紙が来てるよー!」


 あ・・・終わった。間違いなく昨日の件だ。

 

 「待った!それを開けるな——」


 「『騎士団の本部に出頭しろ』って…ルイ・・・何したの?」


 あーやめろ…やめてくれ…そんな本気で引いてる目で見ないでくれ…

 

 「どうしたのですか?」


 ソフィアまで…!・・・これはもう…誤魔化せないか…

 

 俺は昨日のことを包み隠さず話した。そして…絶賛怒られている。

 

 「もう!何でそんなことするの!?人が困ってるんだよ!なんで協力しないの!?」


 メッチャ怒鳴るやん。まぁね。そうね。アリア。通称やさしさの塊。人が困ってると見逃せないんだよね。うんうん。お兄さんわかるよ。

 

 「確かに、普通の依頼なら2つ返事で受けられる。でも相手は『デス・パレード』だ!あのナンバーズだって生き延びれなかったんだろ?俺たちが受けたところで、俺は何とかなるだろうが、アリアとソフィアは最悪死ぬぞ!?」


 さぁこれで怖気付いてくれ…


 「じゃあパレードまでに、ルイが私たちを育ててよ!ソフィアちゃんもいいでしょ!」


 「はい…!『No.Name』なら、負ける気はしません!」

 

 ソフィアさん!?貴女もそんな事をおっしゃる…!?貴女もう少し落ち着いてる人じゃなかった!?


 それに結局は俺頼みか…でも、ここまで来て断れそうな雰囲気でもないし…これは…やるしかないのでは?


 「分かったよ!!この依頼は受ける。代わりに、その手紙に関しては俺に一任してくれ。それなら、俺がお前たちをもっと強くしてやる!」


 「さすがルイ!頼りにしてるよ!」


 「はい!」

 

 今回は手を抜くわけにはいかない。何か1手、ひとつ間違えるだけで死に襲われる。アリアとソフィアは絶対に死なせない。俺がそれだけの実力と度量をつける。——そうでしか、生き残る道はないのだから。

 

 俺たちの日々の特訓は激しさを増していた。


 そして、アリアとソフィアは新たなスキルを獲得し、3人とも、『共通心理』を獲得していた。『共通心理』はスキルの所持者同士で心の中で会話できる。まぁ無線みたいなものかな…?


 でかい戦争において、最も必要なのは数でも武力でもない。だ。


 敵の状態。仲間の状態。開戦の理由。停戦の条件。


 1つの情報から、勝利に繋がることは決して少なくない。むしろ、情報があるからこそ勝利できると言っていい。


 だからこそ、俺が乱用している『鑑定眼』だって、本来なら超重要スキルだ。まあ…ガンガン使ってるけど。

 

 そして今日は…騎士団の本拠地に行く日だし…なんだろう、意識したら急に憂鬱になってきた。

 

 ちなみに、学校に関しては、あの大会以来、学べるものはないと言われてしまった。


 それは純粋な強さを評価されたのか、呆れられたのか分からないが。


 まぁでも出席しなくても単位はくれるとのことで、もうずっと行っていない。…なんかあんまり入学した意味がなかった気がするけど。


 「やぁ。騎士団長に呼ばれてきたんだが。」

 

 うわー。見張りの人もガチガチに武装してるよー。こんなん誰も近づかないよー?もっとフレンドリーにフレンドリーに!


 とかはたから見た、間違いなく視線で殺されそうな事を浮かべ、即刻飲み込み、その完全武装の見張りに話しかける。


 今回は『パッと見そんなことなさそうだけど実は超強キャラだった』的なテンションで行こう。


 「団長よりお話は聞いております!お通りください。」


 へえ。俺って客人扱いなのか。なんか意外だったな。騎士団からの誘いを断ったヤツポジだと思ってた。まぁ丁寧に対応されて嫌な人間はいないだろうけど。


 コンコンコン——

 

 「失礼するよ。」

 

 さぁ、楽しい楽しい交渉の始まりだ。


 「お初にお目にかかる。騎士団長の『ガフ』だ。よろしく頼む。」


 「あぁ。よろしく。」


 なんだ?この違和感?なんか、体に違和感がある…?


 「貴殿は…平気なのか?」


 あー理解。俺が違和感を感じていたのは『威圧』スキルを喰らっていたのか。


 『威圧』は『恐怖の邪眼』の下位スキル。『恐怖耐性』のある俺には効かないはずだが、違和感を覚えるなら相当なレベルだ。


 まぁ、ここは気づいてないフリして仕返ししてやろう。

 

 「何のことだい?」


 『恐怖の邪眼』——


 「・・・なかなかの強者のようだな。」


 邪眼のスキルを耐えるのはさすがだ。死線をくぐってきた回数が違う。ちょっとやそっとじゃ怯まなそうだ。


 でもまぁ、自分のスキルが一切効かないとなると、さすがに傷つくんだけど…


 「・・・まぁいい。座ってくれ。早速本題に入ろう。」


 促されるままに俺は座る。・・・これはッ!1度買おうかと迷ったが高すぎて買えなかったソファじゃないか!ク…いいものを置いている…


 「近いうちに発生するであろう『デス・パレード』についてなんだが、情けないことに、我々騎士団では戦力が足りない。だからこの国内外のギルドに協力を要請している。そして貴殿ら『No.Name』にも作戦に参加して欲しいのだ。」


 「1度断ったつもりだが?」


 こっちは頼まれる側だ。ちょっと強気でも問題はないだろう。


 「メノウより、貴殿らが最高の実力者と伺っていてな。貴殿らには是が非でも参加してもらいたい。」


 やはりメノウか!どうしよう。これから依頼ボイコットしてやろうかな。あいや、それだと俺たちのライセンスが剥奪されるのか…チッ!


 「いやーでもさ、確かに1回そちらの騎士様がいらしたよ?でもさー、なんか、『協力しないと潰すぞ』的なこと言われてさ、おたくってそうゆう頼み方を教育してるわけ?」


 「なに・・・?」


 お?ガフの眉間が震え出したぞ?これはくるか?


 「マルサを連れて来い!!!」


 あーこれはきましたねー。あのマルサってやつ?あいつ絞られるぞー


 「すまない!!我々の愚者が失礼をした!これで許してほしい!!」


 いわゆる誠意ってやつがすんごい伝わってくる謝罪と共に、いわゆる『ビュン!』って効果音が似合う速さで頭を下げた。そんなことされたら責められないじゃないか。


 「改めて請願する!!貴殿ら、『No.Name』の力を、貸していただけないだろうか!」


 「・・・作戦の終了後は?」

 

 「あぁ。黒金貨50枚でどうだろうか。」

 

 おぉ!黒金貨50枚!この世界における黒金貨は日本円にして1枚あたり約1千万円。普通、こんな大金を積まれたら折れるだろう。

 

 「300でどうだい?」

 

 、ね。

 

 「・・・少々多くはないか?」


 いや、違うよ?決して立場を利用して搾り取ってやろうってわけじゃぁないよ?そんな酷いことをするわけないじゃないか。はっはっはっ☆


 ただ、常識的に考えて、俺たちならあってもいいのではないかと考えただけだよ?

 

 「いやさ、一応、まだ俺ら学生なわけだし?いろいろありますし?あ、勘違いしないでね。脅迫の件をまだ引きずってるってわけじゃないよ?たださぁ…一応、俺、自分の時間、削ってここに来てるわけだし?もう少しあってもいいんじゃないかなって?」


 違うよ?搾ってやろうってわけじゃぁないよ?(2度目)


 「…貴殿には敵わんな。こちらに拒否権はないも同然なんだろ?」


 「いやいや、そんなこと言ってないよ?」


 全く、失礼しちゃうんだから。そんなことないよぅ。


 「分かった。300で手を打とう。これからよろしく頼む。」


 ガフは言葉と共に手を差し出してきた。握手のサインだろうか。ならば、ここはしっかりキメなければ。


 「あぁ。よろしく。」


 これで正式に、俺たちは依頼を承諾することになった。


 帰りにマルサとかいったっけ?アイツとすれ違い、背後から悲鳴が聞こえたが、まぁ幻聴だろう。さぁ。帰って俺もやる事をやろう。


 「ただいま。」


 「「おかえり!」なさい。」


 戻ると、2人は実践形式で鍛えていた。いつだって怠らないのはほんとに見上げた根性だよな。


 「しっかり依頼は受けてきた。報酬として、黒金貨300枚も取り付けてきたぞ。」

 「黒金貨300枚!?ルイ、まさかまた変なこと言ったんじゃないよね?」


 「おい『また』ってなんだ『また』って!!」


 はい。そこからはいつも通りの言い合いです。ありがとうございました。


 もうこれにも慣れてきました。…っていうか、なんか…楽しいとも…思うようになったけどさ。


 「お2人は、本当に仲がいいですね。」


 「ったく。ほら、もう少しで新しいスキルの扱いに慣れるんだろ?さっさとやるぞ!」

 

 

 予測されていたパレードの当日、俺たちは事前に知らされていたパレードが発生するであろう『幻惑の森』に集まっていた。


 「冒険者、もとい騎士の諸君!本日は集まってくれて大変嬉しく思う!!街には我々のように戦えるものは少ない!!必ず、必ず我々で抑えるのだ!!!」


 おぉーすごい気迫。さすがガフさん。いろんなところにパイプがあるのだろう。ファーモウトだけじゃない。他の街や国からもいろんなギルドがこの作戦に参加している。


 それにみんないかにもって容姿。人が多いせいでソフィアはちょっと震えてるし。


 「2人とも準備は?」


 「「完璧!!」です!」


  アリアとソフィアも最高のコンディション。パレードの途中で出現する、ナンバーズを破った魔物でない限り、自衛はこなせるだろう。


 「あぁ最高だ。とりあえず『共通心理』はいつでも発動して、序盤は作戦通りに、そこからは各自判断して行動するように。」


 「「了解!!」」


 ・・・誰かが近づいてきてる…?変な輩じゃないといいんだが…


 「おぅ。ここはガキどもの来る場所じゃねぇぞ。死にたくないならさっさと帰ってお昼寝でもしてな!」


 こいつ俺たちの実力を知らないのか?ってことはこの辺りの冒険者じゃないな。ま、せいぜい死なないように頑張ってほしいね。


 「あー悪いけど、俺たち、騎士団長に直々に頼まれてるんだよね。帰るわけにはいかないんだ。君も、死なないように頑張ってよ。」


 適当に流しとけ適当に。


 「…ハンッ!その態度、いつまで保てるかな!」


 え…?アイツ去ってったぞ?なんで特になんもしてないけど、ほんとにイキってただけ…?


 「来たぞ!!!!」


 その刹那、場が殺気と緊張感に満ちた。さぁ、始めようか。

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