8話  隠しきれぬ力

 「そうだ!近いうちに、学校の行事として、校内の最強の冒険者を決める大会があるの!それに3人から出場できるんだけど、2人ともどう!?」


 まーたアリアの突拍子もない提案だよ。そんな大会に出たら、俺のスキルが露見するに決まってる。試験の時から「攻撃できない」で通してるんだから、そんなのに出るメリットはない。


 「いや。俺はパス。そんなのに出たら、俺の力が学校中に知れ渡ることになる。」


 「まぁ…ルイさんが出ないなら私も。」


 ソフィアは初めての人と喋れないもんな。俺も新しく人を入れる気にはならないし。


 「そう…だよね。ごめん!またいきなり変なこと言っちゃったね!」


 「?」


 アリアは笑顔だった。絵本のような。手本のような。


 しかしなぜだろう。その笑顔はどこか切なく、どこか寂しげで、諦念に満ちていた。


 「アリアさん。私はこれからの訓練についてルイさんにお話があるので、先に帰っていてください。」


 「うん…分かった!」


 おかしい…アリアにしては聞き分けが良すぎる。いつもなら、「じゃあ私も残る!」とか言い出すのに、今日は素直だ。

 

 「で?『これからの訓練について』って?」


 「今のは…アリアさんを先に帰らせるための口実です。…ルイさん、先週のことなんですが…」


 何その大事な話がある的な入り方。どうか面倒事じゃありませんように!


 「アリアさんが食堂で、食事を運んでいた時の事なんですが——」


 「は?」


 ソフィアの口から、予想の範疇をはるかに上回る言葉が出てきた。


 “アリアが食事を運んでいる時、複数人に明らかにあからさまに足を引っ掛けられ、料理をぶちまけられ、さらに「試験の結果が良くて調子に乗っている下級生」と罵られた。そしてその後も、学校で少々腫れ物扱いされている”


 らしい。その話を聞いている時、自分の中に明確な『殺意』が湧いてくるのが分かった。


 「そいつらは誰だ…?」


 「恐らく、『魅惑の蝶』のメンバーかと。」


 『魅惑の蝶』。名前は聞いたことがあった。俺たちと同じく、ギルドを組んでいる学生。メンバーは全員、3学年女子のトップエイトで構成されているらしい。

 

 「お願いです。アリアさんのために、この大会に出てくれませんk——」


 「出る。」


 「え…?」


 「出る。アリアに手を出されて黙っててやるほど俺は寛容じゃないし、何より腹が立つ。絶対にそいつらを見返す。いや、絶対的な格差を見せつける。」


 「・・・はい!!」

 

 アリアがそんな目に遭っているなんて…1番近くにいる俺が気づけなかった。アリアの復讐心を、「様子がおかしい」だけで片付けてしまった。あいつらは絶対に許さない。アリアに手を出したことを絶対に後悔させてやる。


 「アリア、ただいま。」「只今帰りました。」


 「おかえり…」


 「アリア、さっきの大会、『No.Name』は出場するぞ。」


 「え?でもさっきは…」


 「気が変わった。やるからには、絶対優勝するぞ!」


 「うん!!」


 アリアは笑顔だった。絵本のような。手本のような。


 そして、その笑顔はとても可愛らしく、とても無垢で、喜びに満ちていた。

 

 そして大会当日。


 メノウに大会に出ることを伝えたところ、他の人を殺してしまわないようにと何回も注意された。流石に大丈夫だろう…多分。


 「これよりルールを説明する!!この大会は、トーナメント方式で優勝を決める!!また、戦闘と方式としては、互いのギルド全員で戦い、最後まで立っていた者の所属するギルドを勝者とする!以上!!」

 

 さぁ始まった。この大会では、自分のMPを障壁として展開する魔道具を使用する。自分のMPが尽きるまで障壁は展開され、ダメージを受けると強制的にMPが消費される。つまりMP切れ。相手の気絶が勝利条件。


 優勝候補は3つ。1、2、3学年の試験上位者のギルド。1学年は俺たち『No.Name』。2学年は『叡智の集大』。そして3学年、『魅惑の蝶』。


 このギルドにだけは、絶対に負けられない。

 

 俺たちは無事に決勝まで辿り着いた。やはり、実績を上げていない生徒など相手にならない。そして、『叡智の集大』は『魅惑の蝶』に敗れたらしい。


 つまり…俺たちとアイツらの決勝戦だ。俺は試験と同じで一切攻撃をしていない。それゆえに俺が出るとブーイングが飛び出すこともしばしば。だが、今回は違う。


 圧倒的な実力の差を見せつけるため、俺も戦闘に参加する。一撃じゃ物足りない。2回だ。2回で決着をつける。

 

 「決勝戦、『No.Name』対『魅惑の蝶』…開始!」


 恐らくリーダーは最も奥にいるアイツだ。確か名前は…『クレア』とかだっただろうか。


 アイツだけは許せない。事前に話し合って、クレアは俺がとどめをさすとの結論に至った。アリアに譲ろうとも思ったが、ここは2人の気持ちに甘えることにした。

 

 「あら、あの時の小娘じゃない。悪いわね。優勝はいただくわ。」


 「「戦闘中におしゃべりなんて…余裕ね!」ですね!」


 一瞬で5人ほど仕留める。さすがだ。互いが互いの戦闘スタイルに気を配り、それに合う攻撃をし、互いの攻撃が当たるように誘導する。


 2人とも『異端児』の称号持ち。ちょっと強いだけでは太刀打ちはまずできない。


 「なっ…小娘風情が!」


 「いち…」


 アリアが背後に回って首元にナイフをかざす。これが本当の戦争なら、クレアはこの時点で死んでいるだろう。


 「な——!」


 「にぃ…」


 今度はソフィアが正面から、真下という死角を利用し首元に矢を引き絞る。


 「これでもう2回死んだね…」


 そう。これが2人の戦い方。相手の隙を徹底的に突く。


 一瞬でも気を抜けば、その瞬間に高速の矢とナイフが飛んでくる。

 

 「「じゃ、後は任せたよ。」ましたよ。」


 さ、やるか。・・・さはりブーイングがうるさいな。しかし、そんなことも言ってられない。


 「『恐怖の邪眼』」


 「ヒッ・・・」


 ビチャビチャビチャ


 「オェェェェェェェ!・・・ハァ…ハァ…やめて…助けて…殺さないで!!」


 野次馬も黙ったな。さすがに堪えたか。相手がいきなり嘔吐すればな。

 

 『恐怖の邪眼』は相手に“明確な死のビジョン”を見せる。今彼女に見せたのは、『頭蓋を破壊され、内臓を引き摺り出される自分の姿』。


 さすがにこんなのを見せられたら、誰でも嘔吐ぐらいするだろう。だが…これで終いだ。 

 

 「『重力操作—覇王の眼差—』」


 「ア…゛や゛め…で…ダズ…ゲデ…」


 徐々に重力の圧を強くしていく。生身ならとっくに潰されている。コイツのMPの量は確かに多いようだ。・・・だが、これから抜け出す術はない。

 

 パリンッ


 障壁の割れる音。これ以上は死んでしまう。俺とて牢に入りたいわけではない。ここらで手打ちにしてやろう。


 「・・・」


 しばらくの沈黙の後、この一部始終を見ていた審判が、ようやく我に戻ったように声を張り上げた。


 「ハッ…!しょ、勝者『No.Name』!!」


 観客席からの拍手、歓声は無かった。だが、それでいい。今の俺には、『No.Name』には、今はそれが心地よかった。


 アリアと俺はもとよりアイツらを許す気はないし、実はソフィアも内心、ブチギレていたと知っている。


 『出てほしい。』なんて言っていたが、それも彼女自身が報復する口実に過ぎない。


 どんな形であれ、仲間を想う気持ちがあると知れて、俺は心底安堵した。


 大会から数日後、アリアは今までの笑顔に戻っていた。


 いわくもともとあのギルドは嫌われていたらしく、俺たちがあんな戦い方をしても、不快に思う者はあまりいなかったらしい。


 それに、今まではアリアとソフィアがクラスの中心だったが、俺もその1人となった。俺の力を見た生徒たちが、『逃げ腰』を改め、『本気だと強すぎる』と悟ってくれた。


 しかし、教師どもはあの戦い方が気に食わなかったらしく、品位がどうなの非人道的だのなんだのと長いお説教コースだった。


 別に勝てばいいだろうに。ま、賞金はしっかり入ったからいいんだけど。


 「ときに諸君、家を買わないかね。」


 「どうしたの?急に。私以上にいきなりだね。」


 え…こいつ自覚あったの?


 「確かにルイさんにしてはいきなりですね。どうしたのですか?」


 「ほら、大会で優勝したり、難易度高めの依頼を受け続けていたために資金が貯まりまして。生涯を宿で過ごすのもアレだし、そろそろ家を買おうと思いまして。」


 「私は別に困ってないよ?」


 「私も特段困っている事は…」


 あれ?意外と興味ない…?ならばここは、前世で読んだ漫画のセリフを拝借して。


 「たとえばアリアさん、貴女は可愛いぬいぐるみが好きですね?しかし狭い部屋の中では、飾るのも諦めてしまうものもあるでしょう…?」


 「まぁ…確かに…」


 「しかし!!自分の部屋を持つことで、壁一面に自分の好きなぬいぐるみを飾ることができます!!」


 「お、おぉ…!」


 お、食いついてきたか?さすがジャパニーズ文化!


 「そしてソフィアさん!私は貴女を鍛える約束をしています。ですが毎回移動してから始めるのは何かと面倒ではありませんか…!?」


 「ま…まさか…!」


 「そう!庭付きの家を買うことで、時間効率を上げ、その分を訓練に費やすことができます!」


 「確かに…!」


 「よって私は、庭付き二階建ての家を買うことを提案します!」


 「「今すぐ見に行こう!」ましょう!」

 

 2人とも自分の好きな事となれば弱いな…


 でも、これで宿生活ともおさらばだ!狭い部屋だと、たまに不幸な事故に遭遇してしまうことがある。


 たまに帰ると、2人の着替え現場に遭遇してしまうことがある。・・・訂正。部屋に入る直前に『予見』が反応する。そのたびに俺は廊下で待ちぼうけをくらうことがあったのだ。まぁしょうがないと言えばそうなんだけど、正直めんどい。


 「「こんにちはー」」「こ…こん…にち…」


 ソフィアのコミュ障炸裂。これは戦闘以外にもコミュケーションの特訓もしてやらないとなー

 

 「いらっしゃい。どんな物件をお探しかね?」


 物腰の柔らかい店主。これは好感持てる。こうゆう人は大体少し安くしてるれるから。あ、もとからそーゆーの期待してた訳じゃないよ?うん。ほんと。

 

 「庭付き二階建てで、『メノウ』に近い一軒家ってあるかい?」


 「ほー『メノウ』。ってことはお兄さん達、冒険者だ。それも凄腕の。」


 「いえ凄腕だなんて…まだまだ入りたてのヒヨッコですよ。」


 どうしよう。アリアとソフィアがすごい目で見てくる。えぇやん。謙遜しても。私だって社会じゃぁちゃんとやるのよ。

 

 「なら、ちゃんとした、ずっと使えるのを売らないとな。おじさんに任せなさい。そうだね…これなんてどうだね?庭付き二階建て。個人の部屋にできるのが八部屋あって、メノウから歩いて7分だ。」


 ちょっと部屋数が多いかな…?そこまでは必要ないだろう。とりあえず2人にきいておくけど。


 「どう?悪くはないと思うけど。」


 「…部屋が多すぎるかな。こんなにはいらないかも。」


 「は…はい…わた…し…も…」


 まぁやっぱりそうだよね。ちょっと俺たちの事情と組み合わせるとあんまり向かないよね。


 「他には?」


 「そうだね…これはどうだい?庭付き二階建ての四部屋だ。歩いて8分といったところだね。」


 おぉー。確かにかなりいい条件だ。


 「どう思う?」


 「・・・」ゲシッ


 痛ッ。はぁ。蹴られたんだが。すいません。調子乗りました。


 「私はここでもいいわよ!」

 

 やれやれ。アリアは分かっていないな。こうゆう時、不動産屋は3つほど候補を用意して、最後に本命を持ってくるものなのだ。

 

 「ちなみに他には?」


 「そうだね…。これ以上はちょっとメノウから遠くなっちゃうな。それでもいいかい?」


 あ・・・ない。さいですか。ないですか。ないんですか。なんか恥ずかしい。口にしなくてよかったー。ソフィアもコクコク頷いてるし、ここに決めよう。


 「今から見に行けるかい?」


 「はいはい。かしこまりました。」

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