6話  昨日の敵は今日の友

 勝った。左右、背後には壁。首元には矢。この状況を打破するには、それこそなにかしらのスキルで地面に大穴を空けて脱出するしかない。


 「知ってるか?チェスの『チェックメイト』ってのは、将棋の『王手』とは違う。警告じゃなくて王を討ち取ったという事後報告だ。」


 「うぅ…私が…私が・・・こんな男に・・・うぐ…ひぐ…」


 おっとなんだ…負けた相手に「こんな」呼ばわりか。いや泣くなし。戦いにおいて泣くのは禁じ手だろ。てかこっちでも将棋とかチェスって通じるんだ。・・・違うな。理解してないわ。


 「はぁ・・・なぁ。泣くのはいいんだが、これは降参したのか?それとも、この状況を打破する策でもあるのか?」


 「ひぐ…降参ですよ降参!!この状況、どうしろって言うんですか!!!!」


 本人はもうヤケクソのようだった。まぁ見下してた相手にここまで完璧に負けると嫌にもなるだろう。


 「勝者!ルイ!!今試験、上位三百名は速やかに広場に集合するように!」


 さぁ〜。終わった終わったー。疲れたー初めて若干マジで動いたかもな。いや違うよ?他の人を舐めてた訳じゃないしー。

 

 「よくぞ集まった!勇敢なる戦士よ!お前達はこの学び舎で冒険者の心得を体得し、その経験を生かし将来の『ファーモウト』のために戦うのだ!!」


 あれが校長か。凄いオーラだ。現役時代は相当の実力者だっただろう。


 「只今よりクラス分けを行う!・・・第一クラス————以上でクラス分けを完了とする!各自、それぞれの教室へ移動するように!」


 さて、移動するか。


 「ルイー!」


 あ、やっぱ来た?


 「分かった分かった。一緒に行こう。」


 「うん!」

 

 移動中、ソフィアと戦っていたときにずっと思っていたことをアリアに相談してみた。


 「アリア、試験でお前を倒したソフィアをうちのギルドに招待したいと思ってるんだが、どうだ?」


 「それ私も考えてたの!ソフィアちゃんが入ってくれたら、もっと強いギルドになると思ってたの!!」


 「じゃ俺から言っとくよ。俺はアリアと違ってソフィアに勝ったからな。」


 「何その意地悪な言い方。」


 そんな話をしてたら教室はすぐについた。第1クラスは最も位の高い教室らしい。試験の最後の方で見た輩が大勢いた。もちろん、その中に彼女の姿もあった。

 

 「ソフィア。」


 彼女は俺を見るなりすぐに怪訝な顔をした。


 「何でしょう?アナタに負けた私を嘲笑いに来たのですか?」


 うわーこれは完全に嫌われてるわー。俺が何をしたって言うんだ。ちょっとフルボッコにしてプライドをへし折っただけじゃないか。


 「…んな訳ないだろ。その…よければ、俺とお前が準決勝で倒したアリアのギルド『No.Name』に入ってくれないか?」


 「・・・なぜでしょう。」


 「知ってる通りアリアは超近接型。俺は…まぁギルドに入ってくれないと教えられないが基本的にどこでも戦える。つまり遠距離専門型がいないんだ。だからソフィアにメンバーになってもらえると助かる。ソフィアなら仮に接近されても戦えるだろ?それに、アリアのギルドに入れば、俺のスキルや戦い方も教えてやる。」


 「いいのですか?戦闘のポジションさえ教えられないアナタが、ギルドに入るだけで、スキルさえも教えてくれるなんて。」


 「もちろん。」


 「裏切られて広められたら?」


 「多分俺から逃げられる人はこの世にいない。」


 「大した自信ですね。わかりました。ただし条件があります。」


 「なんだ?」


 「私を…私を鍛えてください…!」


 ほぅ。あれだけの実力があるのにまだ強くなりたいか。よっぽどの負けず嫌いなのかあるいは…


 「分かった。ソフィアが入ってくれれば、お前の訓練に付き合ってやる。」


 「交渉成立です。・・・今日は軽い説明だけなので、放課後に登録をしに行きましょうか。」


 「そうだな。」

 

 それだけ言い残して俺は自分の席に戻った。そのままアリアに向かって小さく親指を立てる。ソフィアは信用できる。彼女は人に俺のスキルをバラしたりしないだろう。

 

 放課後、俺たちは『メノウ』に向かっていた。ソフィアの登録をするためだ。・・・アリアは置いてきた。面倒事に巻き込まれたくないからな。

 

 「いらっしゃい、ルイさん。今日はどのようなご用件で?依頼を受けられますか?」


 「いや。今日はメンバーの登録に来たんだ。」


 「・・・こんにちは。」


 ん?ソフィアって…結構人見知り?でも俺には馬鹿みたいに強く当たってきたぞ?


 「かしこまりました!それではまず、冒険者登録を行いますので、こちらの書類に記入をお願いします。」


 うわー。ソフィア字キレー。なんか俺が書いた字が恥ずかしくなってくるわ。


 「それでは次に、こちらの水晶に手をかざしてください。」


 出た!!俺を苦しめた水晶!あれさえなければ俺のスキルはバレなかったのに…


 やはり、受付の職員も『弓の異端児』の称号には驚いていた。・・・俺のスキルを見た時ほどではないけど。違いますよ?対抗心燃やしてるとかじゃないよ?単に事実を述べただけですよ?そこんとこ、勘違いしないでくださいね。

 

 「はい。これで冒険者登録は終了です。続いて、ギルドの手続きになります。所属するギルドは『No.Name』でよろしいですか?」


 「はい。」


 「かしこまりました。少々お待ちください。」


 そう言うと職員は奥に消えた。俺はこの一連の流れで気になっていたことを口にする。


 「ソフィア。…お前、人見知り?」


 「…なんですか急に。そんな訳ないじゃないですか。ただ、ちょっと初対面の人と面と向かって話すと緊張して噛んだり喋れなくなるだけですよ。」


 あー、これは違うな。人見知りじゃなくてコミュ障か。


 「あ、はい。」


 その事実はソフィアに伝えないでおこう。言ったら殺されそう。(比喩表現。だって俺には勝てないし☆)

 

 「お待たせしました!こちら、ソフィアさんのギルドカードになります。『No.Name』として、これから頑張ってください!」


 初めて見るギルドカードに、ソフィアは目を輝かせていた。


 「あ、ありがとうございます!」

 

 「さぁ、帰るぞ。」


 「え?」


 「え?」


 あれ、俺今おかしなこと言った?


 「帰るって…どこにですか?」


 「え?そりゃ宿に…あ。」


 あーそうだ。ソフィアはまだ俺たちが宿で生活していることを知らない。


 「宿…ですか?」


 「あぁ…いや…ほら、すまん。勘違いだ。同じギルドに入ったし、勝手に一緒に生活すると勘違いしていただけ…マジで忘れてくれ。」


 これは絶対キモがられたわー。終わったー、明日から不登校か…


 「そうゆう事でしたか。私は大丈夫ですよ。むしろお願いします!!!」


 あ、そうか。俺はこいつを鍛えるのか。正直忘れてた。


 「そうか?じゃ帰るか。1部屋しか取ってないから、俺とアリアがいて、ちょっと狭いけどいいか?よければもう1部屋取るか?」


「いえ、大丈夫です。アリアさんがいるなら、安心できます。」


 「そう。わかった。」


 宿に着くと、外でアリアが待ち構えていた。やだー仁王立ちじゃないですかー


 「ルイ!遅いじゃない!なんでこんなに時間がかかるのよ!」


 「いやー悪かった。ギルドが混んでて、ソフィアの登録に時間がかかった。」


 「ちゃんと連絡ぐらい入れなさいよ!」


 「はぁ?お前いつも連絡しても反応しないくせに!」


 「ちゃんと読んではいます!」


 こんないつものやりとりをしているうちに、ソフィアの顔が緩んだ。


 「おふたりは、仲がいいのですね。」


 初めてソフィアが笑ったのを見た。試験の時はメチャ張り詰めていて、教室にいた時もなんか居心地の悪そうな顔をしていた。なんだ。笑ったら可愛いじゃないか。


 「そ、そんな事ないわよ!もう!…とにかく…これからよろしくね。ソフィアちゃん♪」


 「よろしくお願いします。アリアさん。」

 



 翌朝、朝食を済ませると、早速ソフィアが切り出してきた。


 「ルイさん。早速ですが、私を鍛えてください!」


 とうとうきたか。今日、運良く学校は休みだったので朝から鍛えられるが…これずっとやるの?やだよ?俺、そんな、「みんなのために」とかそうゆう人じゃないから、ずっとはやだよ?


 「よし。準備ができたら、ギルドの闘技場に来てくれ。」


 「わかりました。」


 さすがにこんなとこでバチコンバチコンする訳にはいかない。ギルドの闘技場は基本的には一般開放されてる。そこなら多少はなんとかなるだろ。


 


 「じゃ、まずは俺のスキルを見てもらうかな。」


 ギルドカードには、所持者の許可があれば本人のスキルを見せることができる。ただ、スキルは個人情報なので、普通は開示しないが。


 「さ、どうだい?俺のスキル。」


 2度目の反応。うん、知ってた知ってた。やっぱり絶句だよね。


 「このスキルは…」


 なんか2回目となると見飽きてきたな。


 「これは…私が勝てない訳ですね…」


 おー。アリアなんかよりずっと落ち着いてるじゃないか。これは好印象。プラス四十点!!…何言ってるんだ俺。


 「逆にルイさんの本気を受けてみたい気もしますね。」


 お、いいねぇ〜


 「じゃちょっとやる?大丈夫。即死はしないから。」

「即死…?じゃあ・・・おねがいします!」


 うん。良い心がけだ。じゃちょっとだけ本気を出して…


 「『重力操作—覇王の眼差—』」


 「アガッ」


 『覇王の眼差』。俺の持つ技の中で、最も単純で、最も強い技。理屈は簡単だが突破口はなく、緩和することもできない。どれだけHPが多かろうと、どれだけ硬かろうと、どれだけ耐性があろうとその技を破ることはできない。


 「はい、終わり。」


 「アッ!ハァ…ハァ…」


 流石にこれはキツかったか。


 「今のは…?」


 「『覇王の眼差』。対象者にかかる重力による負荷を自在に調節する。今俺は、ソフィアにかかる重力を1.6倍にした。やろうと思えば何倍にもできる。」


 「なるほど。これは確かに、見知らぬような人にスキルは教えられませんね。」


 「そゆうゆ事だ。ソフィアも気をつけろよ?じゃ、早速始めよう。」


 「はい!」

 

 「そうだなー。戦闘中に俺が気になったのはまず、せっかくのスキルを上手く使えてないってところかな。『気配消去』のスキルを持ってるんだから、それを活かして若干距離を取っての狙撃の方が、ソフィアには合うかもしれない。もしくは、『気配消去』で近づいて、お得意の『近衛流』を叩き込んでも良いかもしれない。」


 「確かに…人よりスキルが多いのに、それを使えないなら、何も意味ないですからね。」


 「そーゆーこと。それじゃ、30秒やる。この広場のどこかに隠れて、俺を狙撃してみろ。俺は一切動かないから安心しろ。」


 「やってみます!」


 そして俺が下を向いている間にソフィアは蛇行しながらに走り出す。行き先を特定されないためだろうか。


 さぁ、どこから攻撃する?無難なのはあの最も高い木の上。あそこからなら闘技場の全体を見渡せる。狙撃のポジションとして最高だ。


 どこだ?『気配消去』のせいで明確な場所が分からない…間違いなくあの木の上ではない。横でもないし後ろでもない。違う…この感覚・・・上か!!

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