5話  好敵手

 試験日まであと一日。俺達は極めて順調だった。なんと以外なことに、アリアはかなり勉強ができる方だった。…以外すぎる。


 あ、そういえば、ギルド成立祝いに、アリアに何か買ってやるのを忘れていた。メノウの職員から聞いた話だと、俺達はもう間違いなく合格ラインを突破しているらしい。なら、ここで息抜きがてら、アリアに何かプレゼントするか。


 「アリア、ちょっと出かけてくる。ちゃんと復習しとけよ。」


 「もーう!私全部合ってるもーん!」


 「はいはい。行ってきまーす。」


 この一枚だけ切り取るとなかなかなラブコメだな…実際違うけど。とりあえず、街の東の方にある石屋を覗いてみるとしよう。


 「こんちはー」


 出てきたのは、なかなかにガタイのいい爺さんだった。


 「おぅ坊主。どうした。ここは服屋じゃなくて石屋だぞ?」


 「わぁってるよ。流石に石屋を服屋と間違えたりしねーよ。」


 面白い爺さんじゃないか。てっきり、なんかこう…職人気質ってゆーの?そーゆーのを想像してたんだけど、かなり接しやすい人でよかった。


 「友達にプレゼントを買いに来たんだか…これなんかどうだろうか。」


 そう言い、俺が指したのは水色のアパタイトだった。」


 「なんだ坊主。女か?」


 「・・・よくわかったな。まぁ友達だけど。」


 「この仕事を長くやってると何の石を買うかだけで誰に贈るか想像がつくんだよ。…いい石を選んだじゃねぇか。あんちゃんセンスあるな。」


 当然だ。大賢者をなめるな。


 「まぁ…そうだな。とりあえず、この石を買いたいんだが、ここで加工もできるか?」


 「あぁ。奥に客用の工房がある。そこなら好きに使ってくれていいぞ。ついでに、特別にその石はタダでくれてやる。」


 「いいのか?」


 「おぅ。その代わり、俺の店の石を使うんだ。絶対にいい物作れよ。」


 「当然だ。」


 そのまま俺は奥の工房へ向かった。やった!金が浮いた!今は余裕あるけど、金はあって損しない!


 工房へ向かう途中、しがれた声が背後から俺を追いかけた。


 「坊主、工具の使い方は分かるのか?」


 「あぁ、熟知してる。安心しろ。この店に似合う最高の代物を作ってやる。」


 さてさて、始めますか。《大賢者》


 〈かしこまりました。私の指定した通りの順に作業してください。〉


 とりあえず、大賢者の通りに作業してれば問題ないだろう。なんなら、普通に店で高値で

売れるような代物になるだろう。


 〈違います。〉

 〈そうではありません。〉

 〈指示した通りの行動をして下さい。〉


 と、大賢者に何回も怒られながら、やっとの思いで完成した。アパタイトのピアス。光を反射し、美しい模様を施したそのピアスは、オークションとかで出品されてても不思議ではなかった。なかなかの出来じゃないか。さすがだわ。


 「爺さん。できたぞ!」


 「おぅ。随分長いと思ったら、どんなのを作ってたんだ?・・・おぉ!こいつはスゲェ!まるで一流の職人じゃねぇか!絶対に成功させろよ!」


 「だからそんなのじゃないよ。ま、ありがとな爺さん。また来るよ。」


 さて、宿に帰るか。そう思った矢先、あの声が聞こえてきた。


 〈条件を達成しました。スキル『物質支配』を獲得しました。スキルの効果により、この世界全ての物質の変更、構築が可能となりました。〉


 ん…?『物質の変更、構築』…?試してみるか。とりあえず、人のいないところに移動しなくては…


 さ、ここならいいかな。


 「やってみますか。」


 一言だけ発し、スキルを発動させてみる。まずは物質変更からだ。


 「は——?」


 それだけ。ちょっと魔力を込めただけで地面に大穴が空いた。見たところ底無しだ。比喩なんてもんじゃない。本当に、物理的に底無しだった。


 このスキル…やばい気がする…なんか…もう一個の能力もわかった気がする…まあ…やってみるけど。


 「・・・」


 やっぱりそうだよね!物質の変更はそのまま文字通り物質が変わったんだから、構築もそうだよね!


 まぁ無理だろうと思いつつ、いや、そうであってほしいと願いながらも、予想は的中。


 本当に何もないところに石の壁が出てきた。これ、大賢者の説明的にどんな形にでも変更できるしいくらでも出現させられるよな…やっぱりぶっ壊れでした。はい。なんとなく予想はしてました。なーんか俺が獲得するスキル、ことごとくおかしい性能な気がする…おっと、かなり時間を使ってしまった。帰らなければ。


 「ただいまアリア。」


 「おかえり!見て!あの問題集、全部正解したよ!」


 おーやるな。そこそこ難しめなのを受け付けから貰ってきたのに。


 「凄いじゃないか。じゃぁこれ。ご褒美のプレゼント。」


 そう言い、俺はアパタイトのピアスを差し出した。やっぱり綺麗な模様だ。…微かに大賢者のドヤ顔が浮かんでくるのは気のせいだろうか。


 「わぁ…ありがとう!!ぜっっっっったい大事にするね!!」


 早速ピアスをつけたアリアはその場でくるくる回っていた。こーゆう女の子っぽい所作だけ見るとかなりかわいい部類に入るんだがな…


 「じゃ、試験までの残り日数、頑張りますか。」


 「うん!!」

 

 待ちに待った試験日、お約束のように問題を起こしていた俺たちは、なんか偉そうな貴族様に決闘を申し込まれていた。


 「オイお前!決闘のコールをしろ。ルールはどちらかが気絶するか降参するまでだ!」


 「は、はい!!」


 あぁ〜彼もかわいそうに。ただ通りかかっただけで決闘の審判なんかさせられて。


 この世界において、『決闘』とは大きな意味を持つ。今回のような争いの決着や腕試しなど、用途は多岐にわたるが、ときには政治に使われることもあるほどの意味がある。


 まぁなんでもいい。俺の力がバレない程度に戦いますか。


 こうなったのは約12分前、アリアが面倒事に首を突っ込んだせいだった。


 「どけ!庶民!!俺は『マスタード家』の長男だぞ!」


 うわーしょうもな。ほんとにこうゆう人いるんだ。まぁいいや。彼には気の毒だけど、触らぬ神に祟りなしってね。


 「ちょっとあなた!!順番守りなさいよ!」


 ちょ、アリアさん…?


 「貴族だからって、みんなやってることをやらなくて良いわけないでしょ!」


 やめろ‥やめてくれ…


 そんなルイの願いが届くことはなく、最も面倒な展開に発展した。


 「俺に楯突くのか?黙ってろ!!『ファイア』!」


 「キャ——」


やっぱりこうなった!!なんでお前はいつもいつも面倒事を持ってくるんだ!?俺の身にもなってくれ!


 「『千妖刀 壱の太刀—雲散霧消—』」


 咄嗟にルイがアリアの前に飛び出して構えを取る。『雲散霧消』は刃に当たった魔力を全て掻き消す型。よっぽどの魔力、国のトップほどの魔力でなければ簡単に掻き消せる。


 「私の連れが大変申し訳ありません。恐縮ですが、ここは水に流していただけないでしょうか。」


 ハッ、我ながら反吐が出る。こんなやつに頭を下げないといけないなんて。


 「ふざけるな!庶民のクセに!俺の魔法に何をした!オイお前!決闘のコールをしろ。ルールはどちらかが気絶するか降参するまでだ!」


 「は、はい!!」


 あぁ〜彼もかわいそうに。ただ通りかかっただけで決闘の審判なんかさせられて。


 まぁなんでもいい。俺の力がバレない程度に戦いますか。


 「それでは…始め!!」


 「喰らえ庶民!!『フレア』!!」


 まーた同じ技か。それに、さっきから庶民庶民と。ちょっとキレそう。いやいや、落ち着け、負けることはないんだから。


 「『物質支配』」


 「なんだそのスキル!!」


 とりあえず地面から金属の柱を出現させ、その上を移動することで攻撃はかわしている。が…周りはやっぱりざわめいている。確かに派手だもんな。コレ。でもま、後は持久戦だ。


 『呪殺の邪眼』は対象者のHPを時間経過で減少させていく。耐え切れば勝ちだ。まぁ俺のMPが尽きる訳無いケド。


 「クソ!それなら…!」


 分かってる。『鬼火』だろ?ただの火炎放射だ。無駄だよ。


 「『鬼火』!!」


 やっぱり。『予見』のおかげで大体の行動は先読みできている。


 どんな技でも、分かっていれば避けるのは容易い。さぁ。そろそろ邪眼が効いてきたんじゃないか?


 「あ…れ…なんか…おか…し…い…」


 バタッ


 「そこまで!」


 はい終わり。持久戦に持ち込めば勝ちだ。


 「ありがとうございました。では、先を急いでいますので失礼します。」


 それだけ残して俺は、アリアの手を引いて会場へ走った。

 

 「さっきは…ごめんなさい…助けてくれてありがとう、ルイ…」


 「うん。これからは何でもかんでも首突っ込むんじゃないぞ。」


 そうそう。分かってくれればいいのだ。


 「じゃ行こうか。最初は筆記試験だって。アリアなら余裕だよ。」


 「うん!私、頑張る!」

 



 「筆記試験…始め!!」


 さぁ。試験が始まった。きっと問題ないだろうが、どうだろうか…ん?なんだ。かなり簡単じゃないか。思っていたより単純な構成の問題が多くて安心した。まぁ本命は実技試験だろうけどね。




 「そこまで!!答案用紙を回収する。」


 「アリア、どうだった?」


 「余裕よ!私にかかればこんなの12分程度で終わるわ!」


 ふむ。悪くないな。試験時間は五十分。かなり早く終わったじゃないか。後は筆記試験の結果を待つだけか。

 

 「アリア、昼食にしよう。」


 「うん!」

 

 


 「それでは、筆記試験の結果を発表する。・・・」


 沢山の人が呼ばれていく。他の人にとっても簡単だったんだろう。


 「以上!!」


 ん?おかしい。俺とアリアの名が呼ばれていない。どうゆう事だ?間違いなく俺らは筆記試験は突破できているはずなのに。」


 「以上の者は不合格だ!!帰ってよろしい!」


 「え…」

 

 あーそーゆーことね。なんかいたわ。こうゆう意地悪げな先生。


 「呼ばれなかったものは速やかに屋内闘技場に集合するように。」


 「びっくりした〜。ルイ、私受かったよ!!」


 あんなに大口叩いて、逆に受からなかったらどうしていたんだか。


 「やったな。じゃあ移動しようか。」

 



 「これより、実技試験を開始する。ルールは簡単!複数のブロックに分かれ、トーナメント方式で模擬戦を行う。勝敗はどちらかが気絶するか降参するまでだ!」


 よし。始まったな。まず俺が負けることはないだろう。そしてアリアも、よほどの逸材がいない限り、負けることはない。それこそ、多数の盗賊を同時に相手できるような逸材でないと。え?皮肉じゃないけど?


 「よし。決勝で会おうな。アリア。」


 「うん!絶対ルイと戦うんだから!」

 

 こうして始まった実技試験。俺は順調に勝ち進めていった。・・・全て相手の気絶によって。『呪殺の邪眼』を常時発動して戦うことで、自分は一切攻撃しなくても勝てる。なんかだんだん勝ち進めるごとに周りの目が痛くなってきたが。


 さ、残すは決勝。ここはアリアに勝利を譲ってやりますか。あ、八百長とかじゃないからね。別に。

 

 「決勝戦、ルイ対、『ソフィア』!!」


 『ソフィア』・・・誰だ?まさかアリアを倒したのか?でもスキルを3つ持ってるアリアに勝つなんて…


 「アナタが『逃げ腰ルイ』ですか?」


 は?なんだその名前。


 「あ?なんだそれ。」


 「あら、知らないのですか?この試験生の間では有名ですよ。『一切攻撃をせず、ずっと逃げてばかりいる試験生がいる』と。」


 そうゆうことか。確かに、この試験で俺は一切攻撃していない。あの視線はそうゆう意味があったのか。


 「私はアナタなんかに負けない…私は、この学校に入学しなきゃいけないの!!」


 ほぅ。大した自信だ。じゃここは彼女に敬意を払い、攻撃はしてやろう。っていうか、彼女にアリアを倒す実力があるのか?『鑑定』!

————————————————————

HP785/785 MP691/691


スキル

『矢無限製造』『弓適合Lv8』『気配消去Lv1』


称号

・弓の異端児

————————————————————

 あ・・・これは勝てるわ。全体的な数値がアリアより高いし、何より弓の適合が高い。それに、『気配消去』はアリアの持ってる『消音歩行』の上位スキルだ。だからアリアは負けたのか。・・・でも、このスキルなら、アリアの得意な近接戦に持ち込めば勝てたのでは?・・・まぁ、いろいろ試していこう。

 

 「始め!!」


 早速彼女は弓を放ってきた。だが…遅いな。いや違うか。『思考加速』が強すぎるだけだ。簡単に首を倒すだけでかわせた。


 「・・・アナタが『逃げ腰』というのは本当のようですね。この試験を舐めてるとしか思えません。私は…アナタなんかに負けるわけにはいかないんです…!」


 今度は同時に2本の矢を放ってきた。避けるのは簡単だが、さすがに我慢の限界だ。あれだけ言われてまだ避け続けるのは癪に触るな。…ま避けるしかないんだけど。


 「さっきから聞いてると、流石に逃げ腰だ逃げ腰だと言われて、イラついてきたんだが。」


 「しょうがないじゃないですか。事実なんですから。」


 「なんで俺が攻撃しないか教えてやるよ。」


 「この期に及んでいい訳ですか?見苦しいですよ?」


 やっぱこいつムカつく。でもなんだろう…何か必死さを感じる。その正体は掴めないが…


 「俺が攻撃しないのは・・・」

 『重力操作—穴詰め—』捉えた。このまま鳩尾みぞおちに一撃入れて終わりだ。


 「攻撃すれば戦いにならないからだ。」


 勝った。完全な拳の入れ方をした。・・・したはずだった。


 「ハッ!」


 「!!」


 弾かれた…?穴詰めの速度に反応するなんて、常人の反射神経じゃない。さすがだ。アリアに勝っただけのことはある。


 「その突き…アナタ、『無心成鬼流』ですか?」


 ゲ…バレた。


 「あなたにピッタリの流派ですね。不意打ちしかできないアナタにぴったりな。」


 まぁ…彼女の言ってることは間違いじゃない。『無心成鬼流』は字の通り、「心を無くして鬼に成る」という流派だ。礼儀なんてあったもんじゃないし、禁じ手なんて存在しない。勝つためになんでもやれ。そのせいでどの流派からも忌避されているが、戦闘に関してはピカイチの流派だ。小さい頃、大賢者に習っていた。


 「よく分かったな。そーゆーアンタは…なんだっけ。忘れちゃった。人気な流派だったな。」


 「私のは『近衛流』です。騎士に施されている訓練とほぼ同等の流派です。」


 へーそうなんだ。そこまで知らなかったな。・・・飽きた。めんどくさいからもう終わらせよう…


 「『重力操作—穴詰め—』」


 「分かってましたよ。」


 かかった。また来ると思ったアンタは今度はカウンターとしてゼロキョリで矢を打ってくるはず。その矢はこちらが使わせて貰おう。


 「爪が甘いな…」


 その瞬間、彼女の放った矢をしっかりと握りしめた。


 「なッ!」


 「『重力操作』」


 ソフィアを重力操作で後方に飛ばし、壁にぶつかったところで左右に物質支配で壁を作る。そこにさっきの矢を突き立てる。完璧だ。勝った。


 「グァ!・・・ク!」


 「『物質支配』」


 「しまっ——」


 「チェックメイト。」

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