4話  冒険者登録

 結局、七大罪スキルの事は何も分からず、俺たちは正式な冒険者登録をしていた。


 「それでは最後に、この水晶に触れてください。」


 そう言い、ギルド職員が差し出したのは真っ白な水晶だった。


 これは…日本ならかなりの値がつくな…


 これが何かはわかっていた。触れた者のスキルを測る水晶。俺にとって、この上なく厄介な代物だ。


 俺は『ステータス偽装Lv10』を持っているが、それは『鑑定』に分類されるスキルに適用される。鑑定は、対象者の纏う“気質”からスキルを測定するが、この水晶は違う。この水晶は対象者の“魂に干渉して”相手のスキルを測定する。


 クソ!この上なく面倒なものを作ってくれたなギルドマスター!


 おっと口が悪くなるところだった。危ない危ない。


 そんな猿芝居をしながら、どうしたものかと思案していた。


 「ルイ!見て!私のスキル、3つもあるよ!」


 水晶に写った結果はこうだ。

————————————————————

HP622/622 MP586/586


スキル

『ナイフ適合Lv2』『急所突きLv1』『無音歩行Lv1』

————————————————————

 確かに凄いな。この世界では、スキルが2つもあれば間違いなくエリートだ。それなのに3つも持っているなんて…さすがだ。


 ん?じゃアンタはなんだって?そりゃ決まってるでしょ。化け物だよ。・・・自分で言ってて悲しくなるな。


 恐らく、この水晶をパスする事はできない。ここは…腹をくくるしかないのか…?仕方ない。いつまでも隠し通せるとも思ってなかったし。それにギルドには冒険者情報の守秘義務がある。基本的に、冒険者のスキルや個人情報がギルドから漏れる事はない。仕方…ないな。


 俺は観念して水晶に手を触れた。当然、二人は言葉を失った。

————————————————————

HP300000/300000  MP 300000/300000


スキル

『神託』『大賢者』『重力操作』『千妖刀召喚』『鑑定眼』『ストレージ』『言語翻訳』『魔導の極み』『恐怖の邪眼』『呪殺の邪眼』『死滅の邪眼』『傲慢』『暴食』『HP自動回復Lv10』『MP自動回復Lv10』『ステータス偽装Lv10』『炎魔法Lv4』『水魔法Lv3』『風魔法Lv3』『土魔法Lv3』『光魔法Lv3』『闇魔法Lv3』『深潭魔法Lv3』『治癒魔法Lv3』『物理耐性Lv3』『魔法耐性Lv3』『恐怖耐性Lv3』『邪眼耐性Lv3』『状態異常無効Lv3』『探知Lv3』『予見Lv4』『危機察知Lv4』『隠密Lv3』『思考加速Lv3』『調合Lv3』『各種武器適合Lv5』


称号

・異界人       ・重力の覇者

・神に愛された者   ・処刑人

————————————————————

 「これは…一体…?」


 「嘘…」


 絶句。それしかなかった。


 「あなた…一体いくつのスキルを…しかも…この称号…」


 当然だ。二つあれば尊敬される世界で、いきなり四十弱のスキルを持った冒険者志願者が来たのだ。


 「これが…俺のスキル・・・」


 「ししし、失礼しました。本当に…素晴らしい才能を…お持ちですね。」


 「どうゆう事…?ルイ、私に、成人の儀で冒険者に向いてないって言ったじゃない。」


 「自分でも分かってたんだ…このスキルの数は異常だって。だから、穏便に暮らす為にスキルを隠してきた。本当は、薬草採取のとき、盗賊に襲われたけど、俺が制圧した。」

 

 そう言い、俺はストレージから盗賊の死体を引っ張り出す。かなりの数だ。


 「この事は…誰にも言わないでくれ。俺のせいで、誰かを面倒ごとに巻き込みたくない。」


 これは俺の本心からの願いだ。こんなことが露見したら、いよいよ何が起きるかわからない。


 「凄い!凄いよルイ!!!」


 は?


 「え?」


 「私なんか三つではしゃいでたのに、ルイはこんなにスキルを持ってたんだね!すっごい尊敬するよ!当然、誰にも言わない。これは私とルイと、職員さんだけの秘密ね!」


 「えぇ。ギルドは冒険者の方々の情報を守る義務があります。安心して下さい。こちらから漏れることはありません。」


 予想外すぎる展開に一瞬目眩がしたが、結果オーライだ。やった!全部いい方向に進んだ!これだけがほんとに俺の悩みだったから…


 ——だが、俺は見逃さなかった。七大罪スキルを見た時の、二人の焦点のズレを。七大罪スキル…そんなに忌諱されるものなのか…?

 

 「では、こちらのパーティーのお名前をお決め下さい。」


 ム…パーティーに名前がつけれるのか…ま、もともとはアリアが誘ってくれたことだし、アリアに押し付け——委ねよう。


 「アリアが決めていいぞ。」


 「いいの?私、冒険者になるって決めた時から付けたい名前があったの!『No.Name』よ!カッコいいでしょ!」


 おぉ。あえての『名無し』。確かにカッコいいな。

 

 「それでは、こちらがお二人の冒険者ライセンスです。ライセンスには個人情報と所属ギルド、スキルが記してあるので決して無くさないようにしてください。再発行には手数料が発生します。ギルド『No.Name』を正式に設立しました。あと、その盗賊の死体もこちらで買い取らせていただきます。」

 

 よし!思わぬ収入だ!これは設立祝いにアリアに何か買ってやるか。


 っていうか、『メノウ』もギルドなのに、パーティーもギルド扱いなのか。傘下ギルドってことだろうか。

 

 「あ、そうだ!お二人とも、冒険者学校にご興味はありますか?」


 冒険者にも学校があるのか。でも、もう冒険者として登録したのに、学校に入る理由はあるのか?アリアも何か言いたげな顔をしている。


 「私たち、もう冒険者になったのに、なんで学校に行くの?」


 おぉ〜俺が言いたいことをそのままそっくり言ってくれたな。さすが。やる時はやるじゃないか。


 「最近、新しく冒険者になった方のクエスト中の死亡事故が増えていまして、新しく冒険者になった方に、受験費と学費の免除を条件に、冒険者学校をお薦めしているんです。」


 「どうする?今の話を聞くと、俺たちには得しかないように思えるが。判断はアリアに任せる。」


 今説明された限りだと、これを断る理由はない。後はアリア次第だ。


 「確かに…私たちにマイナスになることはない…うん!その学校を受験してみる!」


 うんうん。そう言ってくれると思っていたぞ!この話は本当に自分達にとってプラスしかない。アリアも正しい判断ができるようになったじゃないか。

 

 「かしこまりました!では、三日後に試験がありますので、そのおつもりで。場所は『王立冒険者学校』になります。試験内容は、冒険者に最低限必要な筆記試験と、実技試験の2つです。」


 シンプルだな。まぁ、実技試験はまず問題ないとして、心配な要素はアリアの頭だな。彼女がどのくらい勉強できるのか、俺は知らないからな。


 「わかりました。それじゃあ3日後、試験を受けます。」


  それだけ伝えて、俺たちはギルドハウスを後にした。


 さぁ、とりあえずある程度は勉強しますか。…めんどくさい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る