1話 旅立ち
グサッ
「ルイちゃーん、もうお昼にするから戻っておいでー」
「はーい」
ルイ…それは今の俺の名前だった。物置に桑を置きに行く。倉庫の埃とカビにまみれた臭いが俺の鼻を刺激する。この匂いは、元研究者として嫌いではない。
「もう少しであれも収穫できそうだったな。」
え?なんであんな大見え切ったのに農業なんてやってるのかって?それは簡単。——冒険者じゃないから!この世界では18の誕生日に『成人の儀」を行う。自分の『スキル』を神父に視てもらうのだ。あの女神から与えられたステータスは次のものだった。
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HP300000/300000 MP 300000/300000
スキル
『神託』『大賢者』『重力操作』『千妖刀召喚』『鑑定眼』『ストレージ』『言語翻訳』『魔導の極み』『恐怖の邪眼』『呪殺の邪眼』『死滅の邪眼』『傲慢』『HP自動回復Lv10』『MP自動回復Lv10』『ステータス偽装Lv10』『炎魔法Lv3』『水魔法Lv3』『風魔法Lv3』『土魔法Lv3』『光魔法Lv3』『闇魔法Lv3』『深潭魔法Lv3』『治癒魔法Lv3』『物理耐性Lv3』『魔法耐性Lv3』『恐怖耐性Lv3』『邪眼耐性Lv3』『状態異常無効Lv3』『探知Lv3』『予見Lv3』『危機察知Lv3』『隠密Lv3』『思考加速Lv3』『調合Lv3』『各種武器適合Lv3』
称号
・異界人 ・重力の覇者
・神に愛された者
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うん。間違いない。絶対にチートだ。大賢者の使い方は天界で聞いていたので、とりあえず多すぎるスキル全ての能力を大賢者に聞いてみた。・・・全てヤバかったが、特にヤバかったのが、
『神託』『重力操作』『千妖刀召喚』『魔導の極み』『傲慢』『深潭魔法』『予見』『思考加速』
だった。
『神託』は神の声を聞く事ができ、『大賢者』や『鑑定眼』でもわからなかった事を聞く事ができる。
『重力操作』は重力を好きに操れるし、『千妖刀召喚』は“千の妖が封印された刀”を召喚する。型を覚えればいくつか技が使えるらしい。
『魔導の極み』は、全ての魔法の構築速度を桁違いに上げ、MPが自動回復する。『MP自動回復』と組み合わせればMPが尽きる事なないだろう。
『傲慢』は本当にチートだ。自分のステータスの成長を格段に早める。何せ傲慢だからだろうか。
『深潭魔法』もなかなかだった。普通の魔法と違い、魔法で“敵の魂”を破壊する。不死身のスキルでも回避できないらしい。ってか不死身なんてあんの?メッチャ強いじゃん。
『予見』は数秒先の未来が視える。戦闘で大きく活躍するらしい。
最後に『思考加速』。これは字の通り自分の思考が加速する。簡単に言うと、周りがスローモーションに見える。
と、かなりぶっ壊れスキルの数々を与えた女神だったが、『ステータス偽装』のおかげで、昨日の成人の儀でこれらのスキルが露見する事はなかった。なんなら神父が視たステータスは、凡人そのものだったらしく、冒険者になるのはやめた方がいい。と言われた程だった。そして俺はそれに従い、実家で農業を手伝っていた。
「ルイー!!」
その声が聞こえた瞬間、俺は急いで身体をそらした。
「キャッ!」
声の主はタックルを俺にかわされ、倉庫の扉に激突した。俺は数々のチートスキルを持っている。不意打ちなんて俺には効かない!いや…なんか恥ずかしい。言わなきゃよかった。
「いたた…もー、なんで避けるのよ!それにいつも寸前とかじゃなくて凸撃する前に避けるし…」
こいつは幼馴染で隣に住んでいる『アリア』。よくうちに昼ご飯を食べに来る。
そういえば、成人の儀では「冒険者に向いている」と神父に言われていたな。一体なんのスキルを持っていたんだろうか。
「いや凸って来るやついたら避けるでしょ普通。来る前にわかるのは…なんとなく!」
さすがに幼馴染とはいえ、親にも言っていないデタラメなステータスを教えてはいない。彼女も、俺が避けられたのは偶然だと思っている。
「今日も農業?毎日毎日飽きないね。」
「うるせー。こっちはお前と違って冒険者に向いていないんでね。」
「もー何その言い方ー。まぁいいや!早くルイん家でお昼ご飯食べよー!」
「お前人の家で食べるのになんだその態度は…」
自由奔放なアリアに若干イラっときたが、農業に没頭して“空腹を感じる”のも事実。家路を急いだ。
「ただいまー」
「おばさーん!おじゃましまーす!!」
「いらっしゃいアリアちゃん。来ると思ってアリアちゃんのも用意しといたわよー。」
何故か絶妙に仲の良い二人の会話を尻目に、俺はさっさと食卓につき、二人の会話が終わるのを待っていた。
「あぁごめんなさい。つい長くなっちゃったわね。さぁ、お昼ご飯をいただきましょう。」
「「「頂きます!」」」
朝からずっと肉体労働していた体に栄養が行き渡るのが分かる…と言うのは建前で、『状態異常無効』の効果でほとんど空腹も、疲れも感じていない。気にしないでおこう!感じていなくても、身体は疲れてるからね!
食事中、アリアがいきなり突拍子もない事を言い出した。
「おばさん、私、ルイと一緒に冒険者になろうと思ってるの。」
「・・・どうして?」
「私、いつもご飯食べさせてもらってるのに、何も返せないから…だから、冒険者になって、おばさんに恩返ししたいの!」
へー、こいつにもありがたく思う気持ちがあったのか。と感心していたが、その瞬間、ある事が頭をよぎった。
「は!?なんで俺も一緒なの!?冒険者になるならお前一人でなればいいじゃん。」
そうだ。こいつが何をするかは勝手だが、俺まで巻き込まれる筋合いはない。
「だって…1人で冒険者やるのは心細いし…ルイがいてくれた方が嬉しいんだもん・・・」
「まぁ・・・」
母親はこちらをにやにやと見ている。いや多分違うよ!?きっと心細いから一緒に来てって意味だと思うよ!?多分…
「私は嬉しいし別に構わないけど…ルイちゃんはいいの?」
ちょっと待て。話を二人で広げるな。そしてなんだ「嬉しい」って。きっとそうゆう意味じゃないよね!?ね!?でも、冒険者を始めるきっかけが欲しかったのは…認める。悪い話ではない。
「・・・分かった…一緒に行ってやるよ。」
「ほんと!?やった!!じゃあ明日の明けに、私の家に集合ね!」
「はいよ。」
そのやりとりを見てやはり母親はにやにやと笑っている。だからきっと違うんだってー!
翌日の明け、俺はアリアの家に向かった。親は冒険者に向いていないと言われた俺を心配したが、ここはアリアの顔を立ててもらって行かせてもらった。
「ルイー!こっちこっち!!」
「分かってるよ!」
アリアはワクワクで昨日、あまり寝付けなかったと言った。確かに俺もあまり寝ていないが、『状態異常無効』であまり眠くならない。・・・あれこのスキルぶっ壊れの中のぶっ壊れでは?空腹も疲れも眠気も、恐らく痺れや毒も効かない…え待ってこれつっよ。
「これからどうするのかプランはあるのか?」
「もちろん!とりあえず街道に沿って歩いたら、途中で駅舎があるから、そこで馬車に乗って王都まで行くつもりよ。」
ほう。なかなか後まで考えているな珍しい…
兎にも角にも、俺とアリアはもう歩き出している。既に冒険は始まっているのだ。さぁ、今度こそ・・・
『理不尽に殺された研究者でも、
物理を無視して無双してやる!!!』
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