SAVE.006C:アキト√ after②
ゆっくりと瞼を上げれば、私の目は怒りに満ちたミリアの瞳を映していた。
「返してよ……兄さんを、返してよ……」
汚れたままの私の服を掴みながら、ミリアはそのまま涙を流す。だけど私にはその涙に返すべき言葉は無かった。
「何か、言いなさいよ……言い返してみなさいよ」
嗚咽混じりの声を張り上げ、涙目のミリアが睨む。それでも彼女の瞳に映る私の姿は、廃人同然で何も答えようとはしない。
「この……人殺し!」
そんな私の態度に耐えられなかったのだろう、激昂したミリアの平手が頬を打った。
「よせよ、ミリア」
「離して、離してよダンテ! こいつが、この女が、兄さんを……!」
ダンテはミリアの手首を掴み、諭すような言葉を彼女にかける。それでも彼女の感情が収まるような気配は無い……当然だ、肉親の仇が何の反応も示さないのだから。
「クリス……一言で良いんだ。ただ彼女に、謝罪の言葉を」
ルークがそんな事を言い出す。おかしいじゃないか、なぜ私がこの女に謝罪をしなければならないのか。彼がその地位を失いあの女の義弟にまで追いやった責任は、この女にもあるというのに。
「すまない」
謝罪の言葉を口にする。だけど、ミリアに向かってなんかじゃない。
「……すまない、アキト」
私が命を奪ってしまった、ここにはいない彼に向かって。乾いた唇がようやく紡いだその言葉は――ミリアを激怒させるには十分だった。
「あなたが、あなたがっ、あなたが! 殺したくせに、殺したくせに!」
ダンテの制止を振り切ったミリアが、何度も私の頭を殴る。焦った二人の王子様がそれを止めても、彼女の鼻息が荒くなるだけだ。
わかっている、私が悪い事ぐらい。恨むなら恨めば良い、殴りたければ殴れば良い。この首を刎ねたいのなら、今すぐ切り落せば良い。それがミリアの願いなら、好きにしてくれて構わない。
だけど、そんな事をしたって彼はもう返ってこない。私が奪ってしまった命が戻ってくる事はない。
もし。
もしも、こんな私に祈ることを許されるなら。
何かを願うことを諦めなくてもいいのなら。
――もう一度彼に会いたい。
他に、何もいらない。何も――。
『ロードしますか?』
血ににじむ視界の中に、そんな言葉を私は見る。それが、見たこともない文字が……何故か私には読めたから。
「……やり直さなきゃ」
声にならない声を絞り出す。朦朧とした意識の仲、たった一つの奇跡を願う。
何度繰り返しても、何度やり直したって。
「今度こそ、私は……」
君を、君の幸福を守ってみせる。
どんな手段を使っても、どんなにこの手を汚しても。
例えこの命すら、投げ出すことになったとしても。
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