SAVE.005C:アキト√①
――憎い。
憎い憎い憎い憎い。
眼の前にいるこの女が、何も知らずに寝ている女が。
私の居場所を、未来を奪った。
この世界の全てを歪めた、ミリアという存在が。
「……クリス!」
現れたのはアキトだった。その後ろにはルーク殿下とダンテの姿があった。
わかっている、私を探しに来たのだろう。雁首を揃えて、ようやく気づいたらしい……全ての元凶がこの私にあったのだと。
「クリス、君が本当に……」
苦虫を噛み潰したような顔をして、ルーク殿下がそんな事を言い出す。そのあまりの間抜けさに、私は思わず吹き出してしまった。
「本当に、だって? ああそうだよ……全部僕がやったのさ!」
そう、全部だ。
「あの馬鹿なシャロンをけしかけたのも、教会を唆したのも、ミリアを攫ったのも、全部! そうさ僕がやったんだ!」
有り体に言えば、だ。僕が物語の黒幕だった。
まずシャロンに、ミリアが時期王妃の座を狙っていると嘘をついた。今すぐ手を打たなければ、君は用済みになってしまうと。それだけであの女は、持てる力を全て使ってミリアを排除しようとした。
次に教会に、ミリアを王妃にさせるべきだと唆した。平民の聖女を王室に送り込めば、より強大な権力を手にできると。そして私にはその道を敷くだけの立場があると。
あとは坂を転げ落ちるように、事態は勢いを増して進んでいった。シャロンが暴走して失脚すれば、教会は大喜び。そしてシャロンの取る手段が過激になる程、教会の正当性は増していった。
私はそれを眺めているだけで良かった。勝手に落ちていくシャロン、勝手に私に感謝をする教会。そしてアズールライト家の面々の処刑が決定したその瞬間、私の教会内での発言力は最高潮を迎えていた。
そして信用を勝ち取った私は難なくこの女を連れ出す事が出来た、という訳だ。
「どうしてミリアを……」
ルーク殿下がそんな事を言い出す。どうして? そんな事、これ以上にないぐらい今更だというのに。
「どうして? 決まっているじゃないか……」
そんな所から説明しなきゃならないのかと呆れながら、懐からナイフを取り出す。この女が我儘で世界を歪めた事も、この女が私をこんな存在にさせた事も、この女が、この女が、この女が。
「この女が、私から」
――彼を。
「奪ったからじゃないか!」
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