SAVE.006M:アキト√ after①
暗く湿った地下牢に、足音が静かに響く。私と、ルーク殿下とダンテと。
三人分の足音は、うるさいぐらいに響いていた。
――ひどい悪臭。
カビと排泄物の混じったそれは、鼻を曲げるには十分すぎた。それでも私は、まだ足りないと思っていた。彼女が犯した罪の重さには、到底釣り合いはしない。
例え彼女が、一国の王女だとしても。
許されない、許さない。その罪だけは何があっても。
「……ここだ」
ルーク殿下の神妙な声が響く。ダンテが鍵を取り出すと、その重く錆びた扉を開けた。
かつて学園で過ごした姿は、とうに消え失せていた。髪は伸び鎖に繋がれ、眼窩は窪み生気もない。両の目は光を失い、ただその場所で呆けている。その死人のような姿が、私を見ようともしなかった事が。
私を怒らせるには十分過ぎた。
「あなたは……っ!」
身を乗り出す私の体をルーク殿下が制止する。彼を睨みつけたところで、ただ目を伏せて首を振るだけ。
「どうしてまだ、この女が生きて……っ!」
わかっている。この女の処刑なんて、この国には出来ないという事ぐらいは。だって彼女は聖女だから、この国の王女様なのだから。
女は何も答えずに、ただ虚ろな目をしている。まるで私達の事などいないかのように、感傷にだけ浸っている。
それが私には……どうしても許せなかった。
「……あなたのせいでっ!」
私は彼女に詰め寄り、その胸ぐらを掴んだ。それでも彼女の瞳は私を映す事はない。
「返してよ、あの人を! 貴方が奪った、たった一人の私の家族を!」
私はクリス=オブライエンに……クリスティア=フォン=ハウンゼンを怒鳴りつける。
「アキト兄さんを返してよ!」
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