SAVE.102-83C:密談
シャロンを助けた後、アキトと別れた私は三階の空き教室へと足を運んでいた。日が沈み暗闇で染められた校舎には、自分の足音だけが静かに反響する。そのせいで私は余計に孤独を実感してしまう。
――私はずっと一人だ。これからも、この先だって。
それは空き教室で私を待つ男に会っても消えることは無いだろう。
目的の相手は窓辺に腰をかけながら、気取った顔で空を眺めている。
「すみませんね、お手を煩わせて」
心にもない感謝を述べれば、彼は傲慢さを隠そうともしない笑顔を向けてくる。相変わらず気取った男がそこにいた。伸びた長髪を後ろに流し、シャツの襟元を開けた軽薄な男だ。
「構うかよあんな程度……見張りを三人ぶん殴るぐらいはな」
この男に頼んだのはシャロンを拐かした連中の『仲間』の処理だ。アキトに事情を聞いた時に引っかかったのは、相手は何人いるだろうかかという事だった。彼が倒れた隙に見晴らしの良い場所へと向かえば、案の定手鏡で倉庫に向けて合図を送る男が一人いた。だが手が足りないと判断して、この男を頼った。
「しかしお前よく気付いたな、お仲間がまだいるって」
「聖女を拐かすんです、たった二人でやるわけないでしょう」
「ま、それもそうか」
当然の事を口にすれば、彼は納得したように手を叩く。そのわざとらしさが癪に障るものの、彼は距離を詰めてきた。
「にしてもお前……頼む相手間違えてないだろうな。いいのか? これでルークはオレに貸し一つだぞ」
「間違えてませんよ、あなたが適任だったのは事実ですから。口が固くて、腕が立って、損得で動く……ね、これ以上にない人選でしょう?」
「へぇ、だったらお駄賃は弾んでくれるんだろうな」
人を舐めたような言い方に呆れながら、私は彼が気に入りそうな言葉を贈った。
「ええ、期待して良いですよ」
わかっている。
「あなたが喜ぶ贈り物ぐらいわかってますから。腹違いとはいえ」
第二王子ダンテ=フォン=ハウンゼンの願いなど当の昔に知っている。
「兄妹ですから」
王の冠へと続く唯一の手段――『翠の聖女』だ。
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