SAVE.101-3C:最初の聖女

 彼女に招かれるまま、私は出された紅茶を口にした。流石アズールライト家とでも言うべきか、上等な茶葉が使われたそれは、こんな高級品を久しく口にしていない事を思い出させた。


 窓辺から差し込む光が彼女の顔を撫でるように優しく照らす。零れ落ちた月の光を思わせる銀の髪を、背負わされた称号に相応しい上品で端正な顔立ちを、天が祝福するかのように。


 ――陽光はもう、私を照らすことはない。


「こうしてあなたとお茶を飲むのは……本当に久しぶりね」


 今この部屋にいるのは、私と彼女だけだった。侍女が下げられた意味は理解していたが、こんなにも早く本題を切り出すのかと少し驚く。


「ええ、そうですね」


 その質問に否定をする気は無いから、私は笑顔で相槌を打った。そこでふと、紅茶に映る自分の顔に気付く。取り繕えたと思えた笑顔のくせに、その瞳は随分と冷たい色をしていた。どこかの誰かといる時とは別人のような、冷めた悟ったような表情。


「今回の一件は」


 言葉を中断した彼女は、もう一度紅茶を口に含んだ。それで覚悟がついたのか、また話を切り出した。


「何か……考えがあったのかしら?」


 彼女のカップを持つ手が少し震えている事に気付く。それはそうだろうと一人自嘲する。何せ私は本来なら、この世にいない人間なのだから。


「クリス=オブライエンとしてではなく……クリスティア=フォン=ハウンゼンとして」


 その名前で呼ばれたのは、遠い昔に彼女と茶を囲んだ時以来だった。幼くして命を失ったこの国の第二王女の名前は、墓誌にも刻まれているというのに。だが私の素性など本題ではないのだろう。


 彼に協力し、認定式の筋書きを変更する……それは本来なら、絶対に有り得ない、あってはならないというのに。


 だって私は、この国に認められた。




「『緋の聖女』として」




 最初の聖女なのだから。

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