SAVE.101-3:婚約破棄とセーブ&ロード⑥
医者の診断は両足首捻挫で、全治二週間の絶対安静というものだった。
「ほんっっっっとうにあなたはどうしようもないわね……」
自宅のベットで寝転ぶしか能の無くなった俺に、容赦のない言葉をため息交じりに浴びせる姉貴。
「まぁまぁ、良かったじゃないですかシャロン様。アキトが死ななくて」
見舞いに来てくれたクリスがそれを宥めるものの、姉貴の眉間の皺を消すような効力は全く無かった。
「それで、認定式の方は……」
「それはもうつつがなく終わったわよ? どこかの阿呆が吹き抜けから転げ落ちなかったら、さぞ完璧だったでしょうね」
なら良かった、という事にしておこう。そうでもしないと後二週間この嫌味を浴びせられ続ける価値がないというものだから。いや本当、暫くは続くだろうなこの小言は。最悪死ぬまで聞かされるなんて事も――。
「何笑ってるのよ」
「ああいや」
一回死んだくせに、という言葉がつい喉から出そうになる。その事実を飲み込みさえすれば、今回のやり方は最善だったように思えた。
「案外悪くないかもなって」
今際の際まで『あんたの間抜け以外あの認定式は完璧だった』なんて聞かされ続ける未来は、俺が願う日常の一つの結末のように思えたからだ。
「悪いに決まってるわよ最悪よ一体誰のせいで完璧だった認定式に傷がついたと思ってるのよ」
悪い、やっぱり今のなしで。
「ほらほらシャロン様、これでも怪我人なんですから文句は治った後にでも言いましょうか」
クリスがそれらしい助け舟を出してくれたが、よく考えたら助けてないなこれは。
「そうね、あなたの言う通りだわ。お茶でも飲んで落ち着きましょうか……今日のところはね」
「あ、俺の分は」
「あると思っているの?」
当然のように返ってくる、冷たい言葉と汚物でも見るかのような視線。そのまま布団をかぶった俺は、精一杯声を張り上げようとしたものの。
「……何でも無いです」
出てきたのは悪役にすらなりきれない、小物のような情けない台詞一つだった。
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