03 幸福

 ここで、読者諸君の中には長門の口から、恋愛絡みののろけを聞かされる、と身構えたヤツもいるだろう。

 俺だって聞きたくなかったよ。

 娘から急に彼氏を紹介された父親の気分だった。

 だから、長門ののろけはナシにして、俺がかいつまんで説明するとしよう。


 まず、始まりは長門がハルヒと、仲良く東京の国立大に入学したことだった。

 ……ちなみに俺が通ったのは、地元の私大である。

 それはさておき、ハルヒは長門に、こう言った。

「有希、一緒に髪伸ばさない?」

 と。

 それで長門は、髪を伸ばした。

 すると、長門は大学内で、声をかけられることが増えた。先輩からが多かったという。

 しかし、長門がいくらAマイナーからAAAクラスに見た目がランクアップしたからと言って、機械的な態度をとられたヤロウ共は、すぐにあきらめたという。

 それをよしとしないのが、SOS団本部団長(ちなみに俺は地元の支部長である)である、ハルヒだった。

 ハルヒは二回生になるとき、長門にこう言ったという。

「有希、愛想をよくしなさい。みくるちゃんくらいに」

 言われた長門は、その通り、男子に対する態度を柔らかくした。

 朝比奈さんの性格をした髪の長い長門を想像してみて欲しい。十人中九人は惚れる。残り一人はハルヒを選ぶ変人である。

 二回生で、たちまち長門はキャンパス内のアイドルになった。ファンクラブもできたという。

 そうして三回生になり、ハルヒはまたもこう言った。

「有希、そろそろ恋人作ったら?」

 長門は、言われた通り、ナンパしてきた男子の内の一人ーー仮にF君としようーーを選び、付き合うことにした。

 F君は頭も良く、優しく、ユーモアがあり、イケメンで言う事なしだという。

 ……まあ、のろけなので、イマイチ信用はできないが。

 さて、長かったな。以上が、本好き無口っ子だった長門が、大学でイメチェンできた経緯である。

 ……ほぼ、ハルヒの言う事聞いただけじゃねーか。

「でね、F君が就活がふたりとも終わったら、沖縄旅行にでもいこうか、って言ってくれて……、どうしたの、キョンくん?」

「いや、シャミセンにひっかかれた傷がまだいたくてな」

 正直に言うと、長門ののろけが甘すぎて、吐きそうなのである。

 長門をここまでメロメロ(死語か?)にさせるとは、F君の顔が見てみたいような、いや、見たら見たで父親でもないのに殴ってしまいそうだった。

 F君、恐るべし。

「あっ、そろそろ、バイトの時間だ! またね、キョンくん!」

「……ああ、また」

 長門はぬかりなく俺の分まで支払いをすませ、店を出ていった。

「……はあ」

 疲れた。テンションの高い長門の話に付き合わされて、クタクタだった。

 俺もそろそろ店を出るか、と席を立とうとしたとき、ピロン、とメッセージが来た。

 通知を見ると、古泉からだった。

 ちなみに言っておくと、ヤツが通ったのは東京の私大である。ヤツならハルヒが行くと言えばアメリカの某有名大学でも簡単に入れるだろう。

 メッセージには、

『長門さんについてお話があります』

 と、あった。

 やれやれ。

 ひさしぶりの、超常現象コースだろうか。

 いっそ高校時代に戻してほしい。

 そうしたら、


 長門に告白でもしてやるさ。

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