第36話・褒め伸び
「さて、植物は取れる時期って言うもんがある! でだ! もうすぐ寒い時期になるんだ! これを、あたしたちは
そう、季節はもうすぐ冬である。
アフリカというのはこれはこれでチートなのだ。よほど厳しい乾季にでもならない限り、一年中何かしらの実りがある。エネルギー源となる果実穀物が豊富なのだ。しかもこの時代は最終氷期前の温暖期。つまり、暑くて湿度が高い。アフリカは食べ物が一年中余っている。
だが、アダムとエヴァがたどり着いたのは現在のイラン南東部。四季がある温帯である。だからこそ、実りには季節によって偏りが生じるのである。
「ウカ! 家の壁に砂を濡らして塗るんだ! そうすると、少しは暖かくなると思うし、家の中でも火を使えるんじゃないか!?」
「天才! 採用!」
「食べ物を入れる用の家は!? 逆に寒くなりやすくする!」
それに続いて時代の農業王アベルが、案を出した。
アダムもエヴァも思わずびっくりしてアベルを見てしまった。なにせこれもまた、超天才的な発想だったのである。
「何!?」
そんな風に見られるものだから、アベルはびっくりしてしまった。
「いや、アベル! お前、さすがアダムの子だなぁ! 天才だ!」
「お肉干すのは!?」
と、カナンまで天才的発想を次々と口にする。
もはや原始を駆け抜け、日本で言う縄文時代風の文化にすら手をかけ始めていた。そう、文明は一旦飛躍的に加速したのである。これが古代超文明の痕跡の原因だ。
「アダム! エヴァ! あんたらの子、どうなってんだい!?」
「そういえばさ、白くてもこもこな子いるじゃん? あの子達から毛を分けてもらうのはどうかな!?」
ユダヤ人と言えば、遊牧民である。牧羊犬とヤギの群れ、それこそ彼らの財産である。
もちろん、アダムとエヴァだ。ユダヤの祖アブラハムの19代前となる。だが、古代である。サピエンスにはまだ、文字がない。よって、記録もないが故に、大きな誤差を孕んで後世に伝わってゆく。19代などこの時代の出産適齢期で計算すると、たった300年弱の出来事だ。
「すごくいい! だが、どうやって毛だけを貰うんだい?」
と、
「それがよ! 透明で変な石! あれがよ、何かしらねぇけどカナンがいろいろやってるんだ。もしかしたら、実現するかもしれねぇぞ! そういうことだよな? エヴァ!」
カナンがその石を、ほんの短い時間でも細かくたたくのだ。だが、カナンには力が足りず割ることができていない。
そう、細石刃の製法が発見される可能性が高いのだ。細石刃はこの世で最も鋭い刃物であり、原初の単分子カッターだ。だが、切れ味が絶望的に長持ちしないのである。
「うん! そうそう!」
だから、エヴァは当然それに期待していた。
「この一族は……ほんっとうに……」
あまりの発明家だらけな一族に、唖然とする
「食べ物の家! 床を上げる! 肉を干す家! 骨だけ!」
子供とは、得てして負けず嫌いなところがあったりもするものだ。
だがどうして、言っている事のレベルが子供らしからぬ。肉を干すうんていのようなものや、高床式倉庫がカインの脳内に浮かんでいた。
「マジかよ……」
神なのに、驚きの連続である。一応ネアンデルタールで似たものはあったが、自力でそれにたどり着いた超発明家がそこに居た。
「エヴァ……俺らの子、天才では!?」
「うんうん! びっくりだよ!」
ただ、そんな風にそだったのは、この二人のせいである。新しいことに次々挑戦するアダム。他種族と心を通わせるエヴァ。この親にしてこの子ありだ。
カインとカナンの心の中には、好奇心の業火が燃え盛っているのである。だからこそ、考えることをやめられない。咀嚼時間及び消化時間は、この一家にとって考えるための時間である。
「いやぁ、こりゃ二人のおかげで、
要するに冬備え万全ということである。
褒められて、考えることにも快楽が伴うような思考回路がカインとカナンの中に生まれる。褒められれば褒められるほど、頑張りたくなるものである。
逆に、大して褒められたことのない人間は成長が止まる。上から押さえつけっぱなしでは、背丈は伸びないのだ。
これが、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます