スーサ
第35話・原初都市
やがて
「よしお前たち! 特にカイン! 少しの間ここを俺たちの巣にしようじゃねぇか!」
その頃には、アダムとイブにまた双子が生まれていた。
アダムからアをもらった、アの双子である。兄はアベル、妹をアメナ。
アベルの由来はこうである。
アメナは
「喜べカイン! ここなら、種をいくら植えてもいい!」
「じゃあ!」
と言って、袋を取り出して、早速蒔こうとするカインだった。だが、逆にそれがまずい。ねこじゃらし……チカラグサの原種は、ほかの植物を駆逐する勢いで繁殖するのだ。味を気にしなければ、これほど便利な作物もない。
「待った待った! 悪いね、そのまま植えると、それしか食えなくなる……」
「そっか……じゃあ! 囲う!」
カインは植物に対しての発想が優れていた。わけもわからないほどに天才だったのである。花壇のような場所を作ってそこで栽培しようという寸法だ。
「いいじゃないか! 幸い木は……、見りゃわかるがたっぷりだ!」
このあたりにはヤシ科の木がたくさん生えていた。
この時代の建材など木材一択である。他には何もありえない。なにせ人類はまだ大きな石を割る技術を持っていないのだ。
「でっかいやつは!?」
その頃、カナンは動物の生態系の情報を
「おう! いるぞ! ただカナンには早い奴もいっぱいだ!」
大きな獲物を仕留めるためには、大きな武器が必要である。それは当然だ。カナンには、大きな獲物はまだ早いのである。
「石は!?」
現代の金属並みに勤続させられているのが、石である。武器の材料としてはまずこれである。
「そういえば、変な石があったなぁ」
このスーサのあたりにも、鉱物資源はたくさんある。フローライト……蛍石など。ほかにもクォーツなども存在する。クォーツは石英である。つまりは、ガラスであり、黒曜石ほどではないが石器に向いていた。
「見たい!」
カナンはすっかりアダムのような石器技師としての技能を継いでいた。
「よっしゃ行ってくるぜ!」
と、
「なんか、スサって……」
「あぁ、近所の老人みたいだ」
ただ、自分自身の祖父に会ったことのあるサピエンスはとても少ない。おじいちゃんという語彙はまだ存在しないのである。アダムとエヴァの孫の代までは……。
「あ! アベル! 教えてないのになんで知ってるの?」
そんな時である、エヴァはまだよちよち歩きのカインが蛇に挨拶をしているのを見た。一瞬ヒヤリとしたが、礼儀正しく挨拶を交わして、もう友達も同然だった。
「あー!」
言葉はまだである。だが、ボディーランゲージは大分覚えてきた。
そもそも、アベルのこういった行動を多少放置できてしまうのは、
「パパ! 木を切って!」
カインはアダムにせっついた。
「えーっと……」
到着したばかりで大変な時期だ。そうしても大丈夫かと悩むが……。
「行ってきなよ! あ、取り過ぎたらダメだからね!」
言ってくれるのであれば、きっと子供も見ていてくれる。だから、アダムは安心だったのである。
「じゃあウカ! 子供たちをお願い!」
そう言ってアダムは、木を切りに行った。
「アメナはどんな子になるんだろうね……」
アベルはその才能の片鱗を見せるのが早かった。だが、アメナに才能がないなど思っていない。きっと何かしらあるのだろう。
「子供って、いつ芽が出るかわからないよね!」
そこが、エヴァにとって醍醐味である。
遅ければ遅いほど一気に覚醒のような目覚め方をする。
早ければ早いで、ゆっくりと伸びていくのを見守っていて楽しい。
そのどちらも、誇るべき我が子なのだと思っているのだ。
「カインもカナンも言葉がしゃべれるようになってから一気にだったね!」
言葉を覚えてきたと思ったら急に道具の話をしはじめたカナン。植物の話はカインだ。今となれば、本当に一瞬で成長したように思えた。
「アメナ、あなたもどんな子になってくれてもいいからね!」
と、エヴァは、眠っているアメナに頬ずりをした。
やはり、赤ん坊の肌はもちもちかつぷにぷにである。触っているだけで癒されるという、究極の生物である。
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