第34話・ターニングポイント
時に、アダムとエヴァは既に19歳である。30歳程度での死亡が多い時代、アダムとエヴァはおっさんとおばさんである。そんな風に自分たちを思ってた。
「うーん。おかしい……。若々しい……」
「あぁ、老化が始まっておかしくない年齢か……」
この当時ネアンデルタールの平均寿命は50歳。サピエンスに比べ圧倒的に長かったのである。
閉経前の女性はネアンデルタールでは無料で医療を受けることができる。妊娠機能の有無が最も重要なのだ。だからこそ、平均寿命が長いのである。
「ママ、可愛い!」
カナンにとってエヴァや
「パパツエー!」
アダムも価値の高い男である。だから、カインもカナンも両親が大好きである。
「お、おう……」
アダムは照れた。我が子二人組の褒め殺しにあっては、たまったものではなかった。
「もー! 二人共大好き!」
エヴァは我が子の愛しさを再確認して、抱きしめずにはいられなかった。
「スサ! こいつら、ちょっと若すぎるんだ。こいつらの種は、このくらいで死ぬ」
と、木に書いた文字を
神は
「まじか!? 全くしょぼくれてねーじゃん!」
子作り適齢期とは、この時代15歳である。自分の子供を15歳まで育てて、その子供の妊娠を知ってから死ぬことができる。最も幸福度が高い妊娠年齢である。だからエヴァは一年遅かったのだ。
「なんでこうなったんだ……?」
「腹いっぱい食えるからだろ!」
アダムはそう言って笑った。自分にとっての最大の幸福はそれなのだ。
この頃のサピエンスは一日一食。それでも、量も栄養バランスも良いのである。食い倒れツアーだからと、二柱が様々な食材を用意してくれるから。
「カイン、カナン。食事は満足かい?」
「「うん!」」
子供達は正直だ。毎日いろいろな美味しいものを食べることができて、食文化も広がっていく。不満なんて何もなかった。
この時代、ねこじゃらしですらご馳走である。宇迦之御魂の魔改造途中のもの、チカラグサもどきはもっとだ。なにせ穀物なのである。
穀物はチート食材である。そのほとんどが体内で糖に変換できる。人間、穀物さえ食べていれば、よほど幼くない限りそうそう死なないのだ。
「そうかいそうかい! じゃあこれからもいろいろ食わせてやるね!」
「あーでも。加減はしてね? たまに、お腹苦しいから……」
エヴァは苦笑いをした。美味しい食事であるが、たまに食べ過ぎ感が否めなくなるのである。
肉、野菜、穀物。この三種を食べられる人間など健康そのもの。ビタミンも豊富で、タンパク質も十分。ほかの人類が見たらきっと、彼らは群れの長なのだと思うのであろう。
「ウカ! 食わせすぎだとよ!」
「んじゃあ、穀物は保存すればいいんだ!」
穀物はかなり保存が利く。乾かせばなおさらである。
稲や麦を天日干しにする風習はここから始まった。といっても、この時代にまだ稲はない。だから、干されるのはねこじゃらしである。
「なるほど! じゃあ俺らが乗ってるこれに貯めておこう!」
アダムは言った。
「んー……。どこかで、土にこれを埋めたい」
カインは原初の農夫である。といっても、育てようと思っている作物は現日本の農家ですら手を焼く雑草ランキング第四位、オヒシバ。その原種である。種を埋めておけば、大概の場所で育つのだ。
「よし、じゃあ最初の目的地についたらそれを埋めよう!」
石器という第一ターニングポイントを既に超え、炎という第二ターニングポイントも超えた。農業という第三ターニングポイントをもうすぐ越える。そして動力の第四を迎え、電気の第五、そして現代は半導体という第六を超えた先にある。超えるときにはいつだって天才がいた。
逆に言えば、人類の歴史に天才は不可欠である。天才が生まれない限り、人類史にターニングポイントは訪れない。発見者が全員なかったとしたら、現人類も未だ原始人だったのだろう。
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