第29話・アマテメス

「えー!? 私寝てたんだよ! そんなの、大変すぎるじゃん!」


 エヴァは太陽に名を付けるといわれて、驚いた。なにせこの世に二つとないものである。

 人類の語彙に責任という言葉は無い。サピエンスの語彙は増えてはいる。だが、まだまだ足りないのである。この世界は知れば知るほど、定義できるものなど無限にある。星の数以上だ、なにせ後世には夜空にある星には全て人から名前を贈られるのである。


「エヴァ頼む! あたしの家族なんだ!」


 その責任重大すぎる仕事であるが、エヴァたちはもう二度こなしている。全ての生物に生命エネルギーをもたらす宇迦之御魂うかのみたまもとてつもなく巨大な存在なのだ。


「俺の姉貴だ!」


 そして、水という概念を司る素戔嗚すさのおも、凄まじい存在である。


「ごめん! こういう理由じゃ断れない!」


 なにせ宇迦之御魂うかのみたま素戔嗚すさのおもエヴァが名付けてしまった。もはや神の名はエヴァが付けるものである。


「むー、しょうがない……。立派なの考えよ! まず、スサのお姉さんなんだよね!?」


 エヴァは確認から行った。人となりを知って、それにふさわしい名前を付けようと思ったのだ。


「あ……あぁ。そう? そう、だな!」


 天照大神あまてらすおおみかみは極めて特殊な存在である。性別を超越している。産むことも産ませることも可能である。その際性別なども考慮する必要がない。つまり神基準の両性具有である。

 先ほどは姉と言った素戔嗚すさのおではあるが、正確に定義することができない。少し言いよどんでしまった。


「どっちなの!?」


 エヴァは困惑した。なにせ、両性具有など想像すらできないのである。


「あ、姉だ! 姉……だよな?」


 素戔嗚すさのおは本格的に困って、頭の中で天照大神あまてらすおおみかみの性別がものすごくあやふやになってしまった。


「スサの姉だ!」


 宇迦之御魂うかのみたまは言い切った。なにせ、天照大神あまてらすおおみかみ宇迦之御魂うかのみたまに対して、もう一人の母と思えばいいと言ったのだ。


「じゃあ、女の人ね! そうだなぁ、エゼムにいた頃はなんて過酷な太陽って思ったけど、でも今は優しくも感じるね!」


 砂漠の夜は寒い。その寒さを晴らしてくれるのはいつだって太陽である。だからエヴァは最近そんな風に思っていた。


「確かに! ちょっと厳しめの母親って感じだよな!」


 とアダムも賛同する。


「とりあえずアマだね! 絶対入れよう!」


 ママの語源にして、シュメール語の母の意味である。日本語にもこれは残った。女性を罵る言い方としてあるいは海女である。


「ぴったりだ!」


 この天照大神あまてらすおおみかみであるが、非常に母性的である。だから、宇迦之御魂うかのみたまはうなづいた。


「ひったりかぁ?」


 素戔嗚すさのおにはその母性が発揮されたことがない。なにせ、数時間差で生まれた姉弟である。どちらかといえば、この時はまだ若干苦手だったのだ。なにせ、伊邪那岐いざなぎのこともまだ天照大神あまてらすおおみかみは大事にしていたから。


「ぴったりだ!」


 宇迦之御魂うかのみたま素戔嗚すさのおを黙らせる。


「あのさ、テメンはどう? あの光がないと命が成り立たないわけじゃん?」


 テメンは礎を意味する言葉だ。すべての命の礎として、アダムは考えたのだ。


「あ、それいいね! アマ-テメン……。んーもう一声欲しい!」


 と、エヴァはなんとなくそれでは足りない気がしたのである。


「じゃあ、スメルはどうだ? ネアンデルタールの言葉では、祖という意味が有る。俺たちの中じゃ一番先に生まれたからさ」


 最後に一語足したのは、素戔嗚すさのおだった。


「じゃあ、アマテメス! 母なる祖なる礎!」


 最後にエヴァが発音を濁して、アマテラスの名の語源になった。また、アルテミスの名もここから来ている。

 太陽と月の神はどこでも“キョウダイ”だ、太陽を司るのが男である神話は、男性優位思想が現れる場所。女である場所は、女性優位思想、あるいはあまり気にしていない地域である。


「いいね! よし、早速伝えに行ってくる!」


 宇迦之御魂うかのみたまはきっと喜ぶぞと、また可愛らしいいたずらごころを働かせた。


「待て! カインとカナンがもう少し大きくなってからだ!」


 だが、素戔嗚すさのおにそれは止められてしまった。子育てには、人手が必要である。神の手ならなおさらだ。


「ごめんね……」


 と、エヴァは微笑みながら謝った。


「仲いいんだな!」


 アダムとエヴァの気持ちは一緒である。仲の良い家族とは、なんともいいものだと思えてならない。


「いや悪いね、ついつい……。まぁ、仲良しばかりさ!」


 と、宇迦之御魂うかのみたまは言うが素戔嗚すさのおはどこ吹く風。むしろ、どこで吹くか口笛といった感じなのであった。

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