第27話・神のよもやま
エヴァの子育ては完全にイージーモードだった。なにせ、いついかなる時でも二柱の神からサポートを受けることができた。栄養満点の食事が用意され、エヴァの母乳は保存され、そして時によっては
なにより嬉しいのが、乳が滞りなく出ることだった。ストレスフリーな生活で、栄養満点の食事。
授乳の際、その母体には二つのホルモンが分泌される。それが、プロラクチンとオキシトシン。このうち、プロラクチンは母乳の分泌を促すホルモンである。そして、もう一つ、オキシトシンは幸せそのものをホルモン化したような物質だ。
「あー、いっぱい飲めたねぇ! お腹いっぱい?」
故に、母親が我が子にメロメロになるのは仕方のないことなのだ。それはもう、アダムとエヴァよりずっと遠い祖先から連綿と続く本能である。あるいは、哺乳類という種の誕生こそが起源である可能性すら高い。
「けぷっ。だぁ!」
それに、カインは意味をわからないながら、一生懸命声で返事するのだ。
「けぷっ」
そして、カナンはまるでわかったかのように、腹へ手をやるのだ。
もう、愛らしくて仕方がない。もちもちの肌をした、ぷにぷにの塊が一生懸命に主張するのである。
「可愛い……」
エヴァは狂った。わが子への愛情が心の中をのたうち回り、飽和して、有り余って瞳から溢れた。
「こいつめ! 賢いじゃないか!」
「さすが、俺の子!」
アダムだって、
「いっぱい飲みやがる! コイツらは立派になりやがるぜ!」
人間が子猫を愛らしいと思うように、神も子供を可愛らしいと思うのは必然だ。少なくとも、すべての哺乳類はそのように作られている。そう、子供は例え異種族でも可愛いのである。
神は哺乳類に近い。ただ、親から子へ与えられるのが概念的な母乳であるというだけの話だ。故に、例にもれない。
「ところでさ、スサ! 蛇たちはいいのか?」
ふとアダムはそんなことをが気になった。
すると、二柱の神は同時にため息をついたのだ。
「あんまり世話することがねぇんだ……」
「ホント、みんなすぐ育っちまう……」
二柱は個体単位ではなく、種族単位の話をしている。
そう、蛇に生き方を教えた
道案内をしつつ、人類からもいろいろなことを教わる。それが今の神の生き甲斐である。
「へー、旅立つのが早いんだな。みんな大体どのくらいで?」
二人で近寄って、何やら木をガリガリと削っているようにしかアダムには見えなかった。そう、筆談である。数学の概念がない人類にどう伝えるかと相談しているのだ。
そして、思い立ったように
「空が光に包まれるだろ? その後、闇に包まれる。ここまではいいな?」
「う、うん!」
当然だとアダムは受け入れた。
「これを、一日とする! で……その度に石をかごに投げ入れたとしよう」
人類は一という数字を教えられた。数学の祖は神であり、その概念に音を乗せたのはエレクトロスだ。
「あ、それ便利だ!」
アダムは数学の概念に飛びついた。
「まぁ、待ちな」
そう言って、
そして、言ったのである。
「かごの中はこんな感じだ」
サラサラと溢れる砂。それは、極小の石の粒である。それが、
「え!?」
いくらなんでも、そんなに長い時間を自分は生きれないと冷や汗をかいた。
「ホント、あっという間だよな……」
「いやいやいや、スサ・ナール族ってそんなに生きるのか!?」
蛇とは長寿、むしろ不死なのだとアダムは思った。蛇が不滅の象徴、そしていつか龍になるという伝承はこれの名残だ。
「あ、いや。ほら、子供生まれるだろ? その次の子供が生まれてって……。何回も繰り返して独り立ちしたんだ」
何代も何代も見ていた。むしろ何万である。
だから、
「あ、そういうことか……。って、ウカ!? スサ!?」
ただ、
「ま、あたしらは長生きだね! あんたらがまだ、丸っこい目に見えない位の種族だった頃から居る! スサはもっとだね!」
「うっわぁ……」
アダムにはもう想像すらつかなかった。
「物知りなわけだねぇ」
エヴァはそんな悠久の話を聞いたが、納得しかなかった。なにせ、聞いてみれば大体答えが返ってくるのだ。おばあちゃんの知恵袋ゴッド・スケールである。
「長生きなだけだよ! あんたらにもいくらか教えてもらって、また知恵袋が増えたんだ!」
「どいつもこいつも、身入りが多いよな!」
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