答え合わせ
答え合わせ。
いいや、答え合わせというよりは、結果発表だろうか。
端的に言えば、やはり僕が見た幻覚だったり幻聴というのは、前世の記憶で間違いないらしい。
もちろん、神騙の記憶ではなく、僕の前世の記憶である。
まさかこの家が本当に幽霊屋敷という訳でもあるまいし、単純に脳が……あるいは魂とでも言うべき部分が、この家の懐かしさとでも言うべきものに刺激されたのかもしれない。
それがあんまりにも急激かつ、強力な刺激だったから、津波の如き遠慮のなさでフラッシュバックした──のではないか、と神騙は語った。
何だか如何にもそういう特殊な専門家みたいな口振りであったのだが、しかし、考えてもみれば、神騙には前世の記憶との付き合い方について、一日の長があるのは事実である。
聞いた話を鵜吞みにするのなら、物心ついた頃には既に、前世の記憶があったというのだから。
いや、いいや。
記憶があったというよりは、神騙の場合は記憶を持ち越して来た……と言った方が、より正しいかもしれないのだが。
思い出すように前世の記憶を見ている僕と、最初から自身のものとして前世の記憶があった神騙。
それは、似ているようで別物だ。
他人ものとして感じるか、自身の過去として感じるか。
ただそれはそれとして、『前世』というのものが本当にあるのだと、言い逃れようもなく知ってしまった以上、まずはやるべきことが一つだけ、僕にはあった。
ソファに座る神騙に向かい合い、滑らかな所作で床に膝をつける。
そしてそのまま、淀みのない動きで頭を下げ────
「いやいやいやいや、なに土下座しようとしてるの~!? いらない、いらないよ!?」
「……ッ! やはり、僕程度の頭に価値はないか……?」
「受け取り方がネガティブすぎるでしょ……
「何で僕が高槻先生にそうディスられたこと知ってんだよ」
高槻先生は僕のような下々の民ではなく、上流階級の人間が下げる頭がお好みだからな。
グルメなのである、あの先生は──なんて、あんまり好きかって言ってたら、その内巨大な雷を落とされそうだから、この辺にしておこう。
「しかしだな、僕は散々神騙のことを頭のおかしい女扱いしてきた訳で……いや、ぶっちゃけ今も、納得いかないことは多々あって、そう見てないことはないとは、言い切れないんだが……」
「言い切れないんだ……」
「まあ、うん……でも、申し訳ないという気持ちは確かにあって、だから、その、ごめんというか、申し訳ありませんでしたと言うかだな……」
「きみは本当に律儀だなあ。そういうところ、やっぱり大好きだけど……でも、そうだねぇ。ここであっさり許してあげるって言っても、きみは納得しなさそうだからなあ」
どうしよっか? とお茶目に笑う神騙。いや、僕としてはあっさり許されてくれて良かったんだけど……。
むしろあっさり許されてくれた方が、心労が少なくて済んだまであった。
やっぱりこれ、ちょっと怒ってない? 言葉と見かけに反して結構怒ってるよね?
いや、そりゃ怒るのは当たり前というか、怒ってしかるべきではあるのだが……。
何せ一方的に頭のおかしい女扱いされていた上に、今もなおちょっとそうである、とか言われているのだ。
僕が逆の立場だったら、さぞ微妙な心境になったことだろう。
「あははっ、しょぼーんってなってきてるよ? そう落ち込まないで。わたしは平気だから──というか、むしろそういう反応は、とってもきみらしくって逆に良かったというか、何というか……」
「うお……特殊な性癖が出てきちゃったな。ちょっと聞かなかったことにしても良いか?」
「せっ、性癖じゃないもん! きみのことが大好きってだけです!」
「一々照れるようなことを堂々と言うなよな……」
ジャイロボールみたいな好意の投げ方も、そろそろ慣れてきた頃合いではあるが、だからと言って素直に受け取れるかは別である。
気持ちとしては、出来れば躱したい感じである。
まともに取ろうとしたら気絶しそうな重みとスピードがあるんだよ、神騙の好意は……。
不快なのではなく、単純にスケールがデカいのだ。
「あっ、でもそうだねぇ。そしたら、一回だけ言うことを聞いてもらう……とかどうかな?」
「なるほど、強制命令権か。くっ、分かった……誰を殺してくれば良いんだ?」
「そんな怖い命令しないよ!? 何でわたしが誰かに対する復讐心を抱えてる前提なの! もうっ……ん!」
「?」
「ん~!」
「だから、何にも伝わんないから、それ……」
両手をパッと広げ、音一つだけ発して何かしらを要求して来る神騙だった。
突然言葉を捨て去り、行動だけで意思を示そうとしないで欲しい。
もし全然違う受け取り方をしちゃったらどうするつもりなんだ。
思春期男子の勘違いほど恥ずかしいものもないんだぞ……と、思いつつも、姿勢を変えない神騙に歩み寄る。
「ま、言うことを聞くって話だしな……間違ってたら、すぐに言えよ」
「はいはい……ふふっ、心配性だなあ」
「心配にもなるだろ……」
言いながら、神騙の華奢な身体を抱きしめる。
こうして神騙を抱きしめるのは二回目か。
「ん、もっと強く抱きしめて」
「こうか?」
「もっと、もーっと」
「こ、こう?」
「も~~っと、壊れるくらい、抱きしめて」
「……ん」
ギュッと抱きしめる。
柔らかな感触に、安心する匂い。
これ以上力を込めれば壊れてしまいそうな身体に、優しい温かみ。
そっと回された腕を感じながら、高鳴る鼓動に耳を澄ました。
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