神様に頼りたくなる
ざっくざっくと田舎道をそぞろ歩く。正直なところ、迷子になってしまう可能性もあって、少しばかり不安ではあったのだが、しかし、良く良く考えてもみると、見晴らしは十分良くて、下手に横道に逸れていかなければ、駅までの道を見失うことはなさそうだった。
まだ遠くの方に、ポツンと一人佇むような駅を見つめると、この辺がどういう立地になっているのかを、ぼんやりとだが理解できる。
駅の背後には、暫く手入れのされていなさそうな野原が広がっていて、更に奥には壁のように木々が立ち並んでいて、林というか、森に近い様相を呈していた。
一方、こうして僕たちが降りてきた側というのも、やはり何も無いことには無いのだが、周辺だけはコンクリートで舗装されており、途中から砂利の道が一本、太く通っていて、その横には緑がふわりと沿うように添えられている。
森や林というほどでもないのだが、やたらと茂る緑には圧倒されそうになる。
まあ、ざっくりと
本格的に夏になってしまえば、さぞ過ごしづらく、けれども概念としては好ましい場所になることは間違いない。
白のワンピースに、麦わら帽子をかぶった美少女なんかが一人や二人、いてもおかしくなさそうなものである──いや、いいや。
いそうというか、既にいるのだが。
正にテンプレートを絵に描いたような美少女が、僕の隣で楽しそうに歩いている。
麦わら帽子をかぶった神騙は、どこに出したって恥ずかしくない、理想的な美少女と言えるだろう。
夏にはピッタリの存在だ──まあ、時期的には、まだ夏とは言えないのだけれども。
流石に五月間近ともなれば、太陽も頑張り出す頃合いで、お昼を少し過ぎたくらいの今、その熱量は夏を幻視するほどだ。
春風がなければ早々にダウンしていたに違いない。
吹き抜ける風が肌を撫でる度に、気温との調和を保ってくれて、まだ暑いと口に出すほどではなかった。
というか、まあ、だからこそ、探索に出るだなんてことを言い出せたのだが。
片手にアイスが必須な気温だったとしたら、黙って駅内で待ってるからな。
テンションが上がっていようが関係ない、僕はそういう人間だった。
何事も、ちょうど良い状態が好ましい。
どちらかがどちらかに偏っている状態は、見ていても関わっていても、不安になる一方だ。
そう、例えば神騙の向けてくる、過剰に大きい矢印とか。
正当性がない──少なくとも、見て取れないものは、偏っていると言えるだろう。
まあ、だからそれを証明する為に、ノコノコとこんなところまで連れて来られたのであるのだが。
いい加減、詳細な目的地を聞いた方が良いかもしれないのだが、何となくそうするのが怖かった。
いや、だって……。
これで本当に幽霊屋敷に行きます! とか言われたら、この場から動けなくなっちゃうぜ……。
だ、大丈夫だよね? 不安になることはないですよね!? と今更過ぎる不安を胸に神騙を見れば、彼女は二ヘラと笑ってみせた。
「きみ、結構迷いなく歩いていくねぇ。本当に、此処に来たの初めて?」
「初めてに決まってるだろ。そうじゃなかったら、この先の予定的に、どこに連れてかれるのか、不安になったりしない」
「あれ? 気になってんだ。あんまり顔に出さないから、もうとっくに覚悟を決めてるのかと思ってたよー」
「ちょっと待って? 今回の目的地って、覚悟を決める必要があるような場所なのか!?」
「……まあ、ある意味では?」
「ある意味では!?」
それは一体、どういう意味を含むんだよ! と叫ぶ僕に、「ちょっと言葉にするのは難しいんだよね……」と曖昧に笑って返す神騙だった。
おいおい、やべーぞ。
不安が加速して動悸がしてきた。もう帰って良いか?
「帰るのも一つの手かもしれないけど、そんなお金がきみにはあるのかな?」
「い、いざとなったら、野宿でも何でもするし……」
「だーめ。そもそも野宿なんてしたら、邑楽くんなんて一発で死んじゃうよ」
「お前は僕を、かなりか弱いタイプの小動物だと思ってないか……?」
それとも何? この辺は熊でも出るの?
いや、確かに自然豊かで、人の住処って言うか、むしろ動物の住処って感じはするけれど……。
駅はあるし、ポツンポツンととんでもない間隔が空いていたりはするが、家はある。
一応、人のテリトリーであるはずだ。
「でも、まあ、そうだね。不自然なくらい話題にしてなかったし、流石に泊まるところの話くらいは、しておいた方が良いよね」
「助かる。あ、でもアレだからな。ちょっとオカルトな話とか、ホラーな情報とかはいらないからな。分かったか?」
「警戒しすぎでしょ……大丈夫、曰く付きとかじゃないよ。少なくとも、わたしたちにとってはね」
「どういうことなのそれは……」
裏を返せば、僕ら以外にとっては曰く付きって意味にならない? それ……。
早速僕の”怖いよゲージ”を溜めにかかるのはやめて欲しかった。
僕の情けなさをあまり嘗めるなよ。
いざとなった時は、神様に頼る選択肢が一番上に出て来るレベルだからな。
「本当に、怖い話じゃないんだよ──これから向かうのはね、きみとわたしが、一緒に住んでいた家なんだ」
「なんて?」
「だから、きみとわたしが、同棲してた家に向かってるのっ」
「……わ、笑うところだったりするか?」
「至って真剣な話ですっ! もう、だから話したくなかったのにー」
ぷくっと頬を膨らませ、ジト目をぶつけて来る神騙。
いつもであれば、まーた妄想しているよと笑うところであるのだが、しかし、そうもいかなかった。
客観的な証拠とは、物理的な証拠とも言えるだろう。
であるのならば。
住んでいた家というのは、正しくその通りなのではないだろうか。
いや、まあ、全部デタラメという線が無いわけではないのだが……。
浮かび上がってきた、形容しがたい感情を吐息に変える。
ぼんやりと逸らした目線の先に鳥居を見つけ、早速神様に「ちょっとどうしたら良いか教えてくれませんか?」と頼ることにするのだった。
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