ゴールデンウィーク初日
翌日の、四月二十九日に突入することにより、世間的には、ようやく待ち望まれたゴールデンウィークが始まった訳であるのだが、しかし、そんな記念すべき初日であるにもかかわらず、僕はいつも通りの時間に目を覚ましていた。
いや、いいや。別にそれ自体は構わないのだ。どうせ、意識の有無は関係なく、僕の身体はもうとっくに、朝早くに起きるようになっているのだから。
だから、問題があるとするのなら、「二度寝チャレンジでもしてみるか」であったり、「今日は何をする日にしようかな」なんていう、未定となっている予定に、思いを馳せることが出来ないという点にあった。
つまり、予定が埋まっていた。しかも、朝早くから行動を起こさないといけないタイプの、実に面倒そうな予定が。
それがどれほど面倒であるのかと言えば、長々とそれについて語るより、真横でニコニコとした笑みを浮かべている、
僕たちは今、新幹線に乗車して、隣合うように座っていた。だいたい時速300kmのスピードで、景色が流れていく。
僕が窓際に座り、神騙が通路側の配置である。
特段、そうした理由は無かったのだが、やたらと神騙が窓側に座ることを推してくるので、素直にそうしたという経緯がある。
何だろう……滅茶苦茶乗り物酔いする人間だと思われてるのかな。
生憎そんなことはないのだが、まあ、景色が見やすいというのは良い。
目的地は、
最寄りの駅名も似たような名前であり、ざっと調べたところ、まあまあしっかりとした田舎であるらしかった。
と言っても、元より都会生まれの都会育ちという訳ではない僕である。
むしろ、田舎の方が肌に合うと言って良いだろう。
お陰で、乗車するまではローテンションだった僕も、乗車してからはそれなりにテンションを持ち直していた。
いや、まあ、単純に眠気から解放されただけとも言えるのだが……。
起きるのは早くとも、体質的に、あるいは精神的に、朝には弱い僕だった。
「無理して起きてなくても良いんだよ。先は長いんだし、わたしが起きてるから、安心してて寝てて?」
「いや、それは流石に申し訳ない……っていうか、一人旅ならまだしも、二人旅なんだから、道中だって、互いに楽しめた方が得だろ」
「わぁ、とても出不精なきみから出た言葉とは思えない台詞だったねぇ」
「お前ね、僕を何だと思ってるんだよ……」
確かに、元よりそういう性質の人間ではあるが、最近はそうでもないだろ!
何なら家に寄り付いてない分、外出率はうなぎ登りである。
まあ、それも外を動き回っているのではなく、室内でゆっくりできるところに腰を落ち着けているだけなのだから、インドア派であることに変わりはないのだが……。
人間、そう変わるもんじゃないからね。仕方ないね。
「でも、楽しめるって言うのなら、きみが寝てても、わたしは全然楽しめるよ」
「おい、僕の遠回しな戦力外通告はやめろ! や、確かにスマホの一つでもあれば、暇潰しには事欠かないのはそうだろうけれど……」
ついでに言えば、仰る通り、人を楽しませるなんてことは、不得意中の不得意である自負がある僕である。
起きてるより寝てる方が、確かに役に立つかもしれない……。
「まあ、ある意味そこにいるだけで、役に立てると考えるのなら、悪くはないのか……?」
「まーたネガティブな方向に思考飛ばしてる……もうっ、わたしがそんな意地悪言う訳ない……こともない、かもしれないけど!」
「無くはないのかよ。せめてそこは否定しておかない? ねぇ……」
「だけど、きみと一緒にいられるのなら、それだけで幸せっていうのは、本当だよ。だってわたしは、きみのことが大好きなんだもん」
「あ、そう……」
相変わらず、ふとした時に出す感情がデカすぎる神騙であった。素直に喜べるものでもなければ、翻ってドン引きするものでもなくて、反応に困ってしまう。
こういうところが、得体が知れないというか、どう相手して良いのか分からなくなるところなんだよな。
前世電波をキャッチしてる時が一番可愛いっておかしいだろ。神様は何物もこいつに与えたというのに、肝心な部分でエラーを起こし過ぎだった。
世界はもうちょっと僕に優しくしてくれても良いんじゃないかな、と窓の外を見てしまう。
「ふふっ、照れちゃった?」
「照れてない」
「わあ、即答。それでほっぺたが赤くなかったら、完璧だったね」
「は? おい、あんまりこっちを見るな! 恥ずかしいだろ!」
「あはは、可愛い可愛い」
つんつかつんつん、と頬を突いてくる神騙。普通に玩具にされていた。
衝動のままに振り払いたくなるのだが、あんまり車内で騒ぐのもな……という、常識的な思考がそれを邪魔する。
しかも窓側の席であるせいで、席を立って逃れることも難しかった。
クソッ、全体的に、僕に不利すぎるだろ。もしかして、これを見越した上での配置だったのか?
神騙かがり、恐ろしい女だ……。
「ま、起きてても問題ないってのなら僥倖だ……つっても、遊び道具何かは持ってきてないから、結局雑談くらいしか出来ないんだけど」
「きみは意外と、お喋りが好きだよね」
「まあな。人と話すことが不得意で苦手で、なおかつ緊張するってだけだ。ついでに頻度もかなり低い」
「うんうん、致命的な問題だねぇ……」
辛辣な一言を、容赦なく差し込んできた神騙に、頭を良し良しと撫でられる。
あんまり優しくするのやめてくれないかなあ。何か泣きそうになっちゃうだろ。
全肯定神騙は今日も絶好調のようだった。
その内、明日はもっといい日になるよね! とか僕が問いかけなきゃいけないのかな。
ハムスターになった神騙、滅茶苦茶ケースから脱出しそうで嫌だな……。
「まあ、神騙は流石に慣れたけどな。緊張しても無駄だし」
「一言多いなあ、きみは。でも、えへへ、そう言ってくれるのは嬉しいな。きみの特別、だね」
「いや、そういう意味合いで特別って言うなら、多分一番特別なのは、高槻先生だけどな……」
「きみ、高槻先生のこと好きすぎでしょ……」
先程の笑顔から打って変わって、ジト目をガンガンぶつけてくる神騙だった。
いや、仕方ないじゃん……。
付き合いの長さもあるだろうが、それ以上にあの人ほど、緊張しないで相手できる人、そういないんだって。
つまり、先生と言うのは偉大って訳だな。
そう伝えれば、神騙はムスッと頬を膨らませるのであった。
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