前世は鮫じゃ!
「ふぅぅうむ……見えた! お主の前世は鮫じゃ!」
「マジかよ」
放課後。早めに学校を出て、繰り出したショッピングモール。
ふと見かけた占い屋さんに、何となく占って貰ってみたところ、占い婆さんはカッ! と目を見開き、堂々たる力強さでそう言った。
「水深1000m以下の暗い深海を好むボッチの鮫だったようじゃな」
「前世でも群れからハブられてたんだ」
「うむ。どうやらその呪いが現世にも続いているようじゃ」
「……呪い!? 今呪いって言ったか!? 一体誰にやられたんだよ」
かなり恨まれてないとかけられ無さそうな呪いだった。
当時の僕は何をしたって言うんだよ。
衝撃の真実に思わず絶句すると、街角の怪しい占い婆は厳かに頷く。
これ……もしかして、お祓いとか行った方が良いやつなのか? と震えていれば、占い婆が「そこでお主に朗報じゃ」とツボを取り出した。
「これは退魔のツボ! 家に置いとくだけで呪いを徐々に解いてくれるぞい」
「うお……今時見ないくらい怪しいツボだ……」
「お値段はきっかり十万円じゃ」
「学生に要求していい金額じゃないだろ」
「安心せい、分割支払いも受け付けておるぞい」
「そこまでして求めるほど追い詰められてはいねぇよ……!」
ていうか、完全にただの詐欺だった。最近は高校生までターゲットにするんだなあ、としみじみと思う。
まあ、子供と言っても、最近は配信や動画投稿なんかで、がっつり稼いでるやつがいるくらいだもんな。
だから、むしろ今時は、そういう子供を狙って、声をかける方が多いのかもしれない。比較的騙しやすいだろうしな。
とはいえ、もちろん僕はそういった類の学生ではなく、普通に普通な高校生なので、財布には野口さんが数人いる程度であった。
バイトもあまりしてないからな。
どちらかと言えば、お金を持っていない方になるだろう。
「しかしのう、お主……前世からの繋がりに困らされておらぬか?」
「っ! な、なぜそれを……」
「そういう相が出ておるからのう。ふむ、相手は……
「す、すげー! 詐欺じゃなかった!」
こんな、どう見ても怪しさしかない婆さんだっていうのに、まさかの当たりとは思わなかった。
これは本当に、ツボを買った方が良いのでは……? いやでも、十万だしな……。
加えて言えば、確かに神騙は妖怪レベルで頭のおかしい女ではあるが、真っ当な呪い扱いするのは気が引けるところである。
つーか、ツボとか通じないだろ。
いざとなったら物理で破壊されそうなもんである。
神騙のフィジカルを嘗めてはいけない。
「ふぉっふぉっふぉ……そう不安そうにするでない。なに、儂もまさか、お主がツボを買えるとは思っとらんよ」
「本当? 大分強めの眼力で推してたと思うんだけど……大丈夫そう?」
「しつこい男は嫌われるぞい。お主に薦めたいのはこっちじゃな」
「えぇ何この安っぽい数珠は……」
占い婆さんが取り出したのは、如何にも手作りみたいなちゃっちい数珠だった。
とてもではないが運気がアップしそうな代物ではない。
むしろビジュアル的にはこれこそ呪いの一品って感じで、運気が下がりそうな胡散臭さがあった。
つまり、あまり触れたくなる感じではない。
「失礼なガキじゃな……これこそは、儂の全盛期のパワーを込めた解呪の数珠じゃ。身に着けておくと良いじゃろう」
「百歩譲っても持ち歩く程度にしときたいんだけど……で、いくら?」
「500円じゃ」
「全盛期パワーしょぼ……」
「──ってことがあってさ。で、それがこの数珠ってわけ」
「だっ、騙されてる! 騙されてるよ!? どうしてわたしがちょっと目を離した隙に、きみはそんなことに巻き込まれるのかなあ……!?」
「いや何か、10万のあとに500円とか言われたら、安いどころじゃないなって思えてきて……」
「しかも典型的な詐欺の引っかかり方してるよ、
完全にアホを見る目を向けてきたのは、当たり前というかなんというか、まあ、神騙──
ショッピングモールに到着し、当たり前のように二手に分かれたつもりであったのだが、神騙的にははぐれたという認識だったらしい。
偶然合流することになった休憩スペースで、もー! と神騙は頬を膨らませていた。
「ところで効果は実感するか? 例えば……そうだな。この数珠の近くにいると、寒気がするとか」
「きみは本当に、わたしを何だと思ってるのよ……。ぜーんぜん、何にも感じません。呪いなんて、あるはずないでしょう?」
全く、失礼しちゃうなあ……とジト目をぶつけてくる神騙であった。ついでに、占いなんて真に受けちゃダメだよ! と、可愛らしく怒られる。
いや、でも……そもそも占いに興味を惹かれたのが、神騙のせいみたいなもんだしなあ。
だってあの占い婆さん、貴方の前世を占います! とかいう看板掲げてるんだもん……。
思わず声かけちゃってたもんな。
知り合いである無しに関わらず、自ら他人に接することをほとんどしない僕であることを考えれば、非常に珍しいことだと言えるだろう。
「ちなみに前世が鮫ってマジなのか?」
「全然違うよ!? きみはちゃんと人間でしたっ」
「そうなのか……」
「むしろ邑楽くんが、鮫の方が良かったみたいな顔してることにびっくりだよー……。そもそも、きみはカナヅチなんだから、その可能性が一番無いに決まってるでしょ?」
「さも当たり前のように僕が泳げないことになってるんだが?」
「え? それじゃあ泳げるの?」
「い、犬かきくらいなら……おい、生温かい目で見るのはやめろ! 良いんだよ、僕は海は鑑賞する派なんだ!」
だいたい、海なんて潮の匂いが結構きついし、夏の砂浜なんて熱されすぎて一種の拷問器具みたいになってるだろ。
その上、海に入りなんてしたら、普通に流されて、普通に溺れて死ぬ可能性まである。
好き好んで泳ぎに行くやつの気が知れないね。
”命大事に”は基本コマンドだぞ。
「ふふ、それじゃあ夏は水泳の特訓だね。大丈夫、わたしに任せて?」
「絶対に嫌だが……」
「えー? 手取り足取り教えてあげるよ?」
「それが嫌だって言ってるんだが……?」
嫌だろ、高校生にもなって、同級生の女子に浅いプールで手を引かれながら泳ぎの練習してる男子。
良し悪しの問題というか、単純に僕のプライド的な問題があった。
恥ずかしいに決まってるんだよな。
小学生に指さされて笑われでもしたら、その場で精神崩壊する自信があった。
「しかし、まあ、やっぱり占いなんて当てにならないな」
「まあ、どうしても不確かなものだからね。結局はきみの好きな、信じるか信じないかっていう、気持ちの問題だと思うよ?」
それもそうか、と当たり前の結論に達したところで一息を吐く。
前述の通り、はぐれたのではなく、二手に分かれて効率的に買い物をするものだと思っていた僕は、既に必要なものは買い揃えていた。
それに比べ、神騙の進捗はイマイチなようである。
多分、僕を探してたのだろう──思ってもみれば、やたらとスマホが震えていた気がしなくもない。
流石に一抹の申し訳なさを感じた僕は、せめてここから買い物に付き合うか……と嘆息をした。
「邑楽くん。んっ」
「……?」
「んっ!」
「いや伝わんないから。なに両腕広げてるんだ、ハグなんかしねぇよ……」
「伝わってる、伝わってるよ!? もう、きみは恥ずかしがり屋さんだなあ。人ってね、好きな人にぎゅーってしてもらうと、何でも許せちゃうくらい、嬉しくなっちゃうんだよ」
だからほら、ね? と喜色が見て取れる足取りで、神騙が身体を預けるように飛び込んでくる。
──瞬間、パチン! と音が鳴って。
僕の手首に巻かれたままだった数珠が弾け飛んだ。
「………………」
「………………」
「…………の、呪いだーー!」
「ちっ、ちーがーいーまーすー!? 劣化してただけです! そうに決まってるもん!」
ばかーっ! と叫びながら抱きしめてきた神騙に、小さく悲鳴を上げた。
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