図書館デート?-02
「思ってたよりしっかりレストランだな……」
「ね、しかもとっても美味しいんだよっ。邑楽くんはハンバーグで良かったよね?」
「良いけど何で分かるんだよ」
「長い付き合いですから」
「まだ会って、二日目なんですけど……!?」
時間感覚バグってんのかな? みたいなことを言う神騙だった。あまりにも平常運転すぎて、どこもおかしくないなと頷いてしまうところだった。
前世電波のキャッチの仕方が巧みすぎるだろ。
実際、ほとんど初対面であるにも関わらず、ここまで波長が合う相手というのは、僕からしてみれば珍しいものであり、そういう点も含めて段々と、神騙の言うことを否定しきれなくなってきた僕がいるのが超嫌だった。
何が嫌って、神騙の語る荒唐無稽な前世なんて話を、真面目に受け入れるための要素を、無意識的に探してしまっているという点である。
信じないのなら信じない、信じるのなら信じる。他人の言うことに対して出来ることは、いつだってその二択だけなのだから、せめてどちらかだけを選んでいたかった。
中途半端な状態にいると、何でも中途半端になってしまう気がするから。
ただでさえ、中途半端なことにしていることが多すぎて、全身中途半端人間みたいになっているのである。
せめて神騙に対してくらいは、毅然としたスタンスで向き合いたかった。
「わたしにとっては、二日+αだからね。何でもお見通しだよ」
「ふぅん……それじゃあ、僕が今、頼もうと思っていた飲み物も分かるんだな?」
「ファンタグレープでしょ。きみってば本当、子供舌なんだから」
「……やるな。凪宇良邑楽検定三級をやろう」
「残念、もう一級は取得済みなんだなぁ、これが」
リーンと呼び鈴を鳴らし、ニコニコと言う神騙であった。
僕よりも、僕のことを把握しているとでも言いたげな表情である。
ふん……仕方がない。この場を負けを認めてやろう……と潔く引き下がり、代わりにスマホを取り出した。
個人的には、誰かと一緒の時間を過ごしている時に、スマホ等を触るのはあまり好みではないのだが、まだ沙苗さんにも、旭さんにも連絡していなかっただけなので、許して欲しい。
メッセージアプリを開き、「すいません、今日は夕飯食べてから帰ります。結構遅くなるとは思いますが、帰りはするので気にしないでください」という、いつも通りの定型文をトントンと打つ。
改めてログを見返してみても、事務的な会話しかしてないな……と、何となく申し訳なさを覚えるが、どうしようもないのでそのまま閉じる。
「よしよし、良い子良い子。きみは頑張ってるよ」
「なっ、おい、急に頭を撫でるな! 僕は子供か!」
「だって今の邑楽くん、とっても幼い、迷子の子供みたいだったんだもん」
「何だそりゃ……迷子、ね」
神騙の軽口に、しかし思わず考えてしまう。
迷っているというのは、あながち間違った比喩でもないのかもしれない。
目的もなく、ゴールに寄り付かないでフラフラとしているというのは、確かに見ようによっては、迷子みたいなものだろう。
高槻先生は、それを良しとしてくれているが、ずっとずっと、いつまでもこうしている訳にはいかない。
いつかはゴールにたどり着くべき時が来る。
その時、僕はあの家に馴染んでいるのだろうか。あるいは、完全に決別しているのだろうか。
極端ではあるが、きっとその二択のどちらかだと思う。
そして今のところ、イマイチどちらの未来も見えないのが、正直なところであった。
「思い詰めてる時のきみの顔、久し振りに見たなぁ。大丈夫? 何でも話してくれて良いんだよ?」
「そりゃ流石に悪い──つーか、話したところで、解決するようなことでもないしな」
「分かってないなあ、邑楽くんは。人に話すだけで、楽になることってあるんだよ。ただでさえ、きみは何でもかんでも、抱え過ぎちゃう人なんだから」
「良いんだよ、抱えられるだけ抱えられた方が、大切に出来る気がするだろう?」
「……またきみはそうやって。良くないと思うなっ、そういうのっ」
「前世電波を受信しながら怒るのはやめろ、申し訳なさが微妙に生まれないだろうが」
いや、別に申し訳なさを感じたい訳ではないのだが……。どういう顔で聞けば良いか分かんないんだよね。
やれやれ、と肩を竦めながら、ちょうど運ばれてきた飲み物を一口含む。
シュワシュワとした炭酸が、乾いてた喉をパチパチとしながら潤してくれた。
「ま、気遣いありがとな。でも、大丈夫だ。どうせ家の問題だし、もっと言えば、僕個人の問題だから。それに、あんまり安易に楽にはなりたくないから」
「……そっか。それじゃあ、わたしの役目は一つしかないね」
「一つ?」
何言ってんだ、一つも無いって言ってるのが伝わらないのか? という僕の視線は見事にスルーされるのだった。
代わりに、運ばれてきた僕のハンバーグに、神騙がナイフを入れる。
え? いや何やってんの? お腹ペコペコになり過ぎて、先に来た僕のが欲しくなっちゃった?
言ってくれれば一口くらい、全然あげるんだから、そんな食い意地張らなくても良いのに……という考えは、しかし的外れだったらしい。
「ほら、邑楽くん。いただきますして」
「えっ? い、いただきます……?」
「はいっ、良く出来ました」
だから何なんだよ? と口を開けば、狙ってたように”あーん”をされる。
すぽっと入り込んできたハンバーグを、モグモグと咀嚼して飲み込んだ。
「おいしー……じゃなくて、何するんだ。自分で食べれる、食べさせろ」
「だーめっ。だって、きみのお嫁さんであるわたしに出来ることは、目一杯きみを甘やかすことだけなんだから。このくらいはさせてくれないとっ」
「いや、余計なお世話なんだが……」
微妙に食べづらいし、他のお客さんからは生暖かい目で見られるし、一刻も早く返して欲しいのだが、神騙にそうする様子は全く見て取れない。
はぁ……と深めのため息を一つ。
こうなったらさっさと終わらせて満足させるしかないか、と心を無にする僕だった。
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