はたらかないてんし

ハタラカン

甘やかしVS甘やかし


天使が帰ってきた。

「ただいま…」

悪魔がそれをニコニコと出迎える。

「おかえりなさ〜い。ご飯できてるよぉ。

…どうしたの?」

天使はなにやら気落ちした様子だった。

「お前さあ…人間になんかした?」

「えっ?」

「な〜んか知んないけど全然俺のアドバイス聞こうとしないんだよねあいつら。

妙に疑り深いっつーか」

「ああ〜、それたぶん私が『私以外のすごい存在は全員悪魔だから言う事聞くなぁ〜』

…って脅かしたせいじゃないかな〜?」

「何してくれてんだこの悪魔!

退治してやるからケツ出せオラッ!」

「やあ〜ん!悪魔が悪魔やって何が悪いのよぉ〜!神様助けて〜!」


それ以来、天使は真面目に働かなくなった。

「ただいまぁ」

「おう」

「すぐご飯作るねぇ」

「ああ」

「…今日もずっとお家に?」

「んー」

「だめだよぉ、ちゃんと働かないと…善悪のバランス崩れちゃうでしょ」

「だーってよおー、あいつら根が腐ってね?人間に金払えば善として救われるだの、自分は神の言う事に従ってんだから何やったって間違ってるわけねえーだの、自分らで勝手に作ったわけのわからん呪文唱えりゃ誰でも極楽行けるだの、やりたい放題やるから後で救ってくださいってそればっかじゃねーか。

バランス取れる気がしねえわ。

善の欠片も無い」

「んもう。

そこを頑張るのが私たちのお仕事でしょ?」

「お前はよく働くよな」

「日曜日以外はきっちりやってます、ふふん。ここの人間は私と相性いいかもねぇ〜」

「このアマ…ムカついた。

退治だ退治。ケツ出せオラッ!」

「やんっ…だめだよぉ…」


またしばらくして…。

「ただいまぁ」

「おう」

「なに食べたい?」

「生寿司」

「はぁ〜い」

悪魔は嬉々として調理し、天使は出てきた料理をいつもの事として食べた。

悪魔はそのさまをニコニコ微笑みながら見つめる。

「いい加減飽きろよ…俺のメシ食ってる姿なんか」

「飽きてあげない♡」

甘ったるく断ると、人畜無害な微笑みが少しだけ悪魔らしくなった。

その後食器を片付け終えた悪魔が大事な話があると切り出す。

「最近ねぇ〜、人間の武器がすご〜くすご〜く強くなってきててぇ〜、だからぁ〜、そのぉ〜」

「そろそろ働け?」

「うん…」

「実は最近面白い奴を見つけてな」

「ん?うん」

「そいつは珍しく『神は死んだ』とか言ってたんだよ」

「へぇ〜。でもぉ、人間の指してる神ってただの妄想っていうか、生き死に以前に存在した事ないと思うんだけどぉ~」

「まあ多分本人はそういう意味で言ってないし、この際そこはいい。

俺は奴の発言からヒントを得たんだ」

「というと?」

「神が死んだと聞けば神から影響される奴は減っていく。

神でも何でも、介入する奴がいなくなればその影響は嫌でも減るわけだ。

だとしたら日曜以外全部、熱心にくそ真面目にコツコツ働いてる悪魔がいなくなれば、悪に傾いた人間のバランスは自然と平らぐって事だ…そうだろ?優等生君」

「ふぇえ!?私をどうするのぉ!?」

「今からお前の退治に専念する。

しばらく悪さできんようにな!」

「いやぁ〜だめぇ〜助けてぇ〜!」

「…お前、いつも口ばっかで全く逃げないよね」

「そういう鋭い事言っちゃだめぇ〜!」

「やっぱやめ。簀巻きにしてしまっとく」

「何秒くらい?」

「300年くらい」

「い〜や〜!退治〜!退治して〜!」

「具体的に」

「ん…天罰で…貫いてください…。それで、聖なる…せ、聖…あの〜あれをぉ〜…」

「まあいいか。こっち来い」

「うん♡」

ついに天使と悪魔の闘いが本格化を迎えた。

これ以降、悪魔の囁きを聞く者は絶え、人間はようやく自らの足で歩み始めたのだった。


またしばらくして…天使と悪魔の家のテレビが独裁者を映していた。

〈…我々が神の祭りを開いている間、敵は死んでいるべきだ〉

「うーわー引くわー」

「また戦争?」

「ああ」

「ちょっと自信なくしちゃうなぁ〜、私のお仕事ってあんまり意味なかったみたい…」

「お前が手ぇ出してたら今ごろ地球なくなってたと思う」

「うん…ありがと」

「さて、と…予想はしてたが、こいつら放っといたらろくな事にならんみたいだし…いよいよ働くか!」

「うぇえ〜?」

「なんだよ」

「…退治ぃ」

「ずっとしてたでしょ!」

「や〜あ〜!

退治してくんなきゃ地球壊すぅ〜!」

「お前ねえ…」

「ほら、今までだってず〜っと働かなくても滅びなかったでしょお?大丈夫!ね?」

「武器強くなってきてるからって煽った日を忘れたか」

「ん〜、ん〜、ほら、私たちってぇ、別に働いて何かを得たいわけでもないしぃ…。

お食事だって本来必要ない私の趣味なわけでぇ…ね?」

「元々俺たちは自分のために働いてるわけじゃねえ。

悪魔ならもうちょい悪知恵絞ったらどうだ」

「や〜ん、しっぽがスカートに引っかかったぁ〜お尻が出ちゃったぁ〜。…ちらっ」

「…………………」

「汗かいちゃったぁ〜ぬぎぬぎ。…ちらっ」

「…………………」

「…うぅ〜!」

「泣くなよ…わかった、わかったから、はよケツ出せ」

「わーい♡」


天使と悪魔の闘いはさらに長引いた。

そうこうしてるうちに、地上ではなんやかんやあって…。

「…………………」

「…………………」

天使と悪魔は変わり果てた職場を見下ろしていた。

地球は水分を全て蒸発させ、緑を焼失させ、爆発で大胆にかき混ぜられた大地を土色が占めていた。

外見はもちろん、そこに至るまでの過程も含めて糞塊と呼ぶにふさわしかった。

「俺たちはやれるだけの事をやったな!」

「そうね!」

「俺たちの仕事は終わったな!」

「そうね!」

「じゃあ次行くか」

「はーい」

「いや、別の悪魔と組むつもりだけど」

「ええ〜!?」

「もっとオトナで距離感わかってるセクシー悪魔と」

「だめぇ〜!だめぇ〜!」

「…………………」

「うぅ〜!」

「しょうがねえな…ほら、来い」

「うへへ♡」

天使と悪魔は固く抱き合い、宇宙の法則を逸脱した速度で飛んでいく。

両者の闘いは永遠に終わらなかった。

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