バランスボールに二人乗り

うたた寝

第1話

 朝4時。彼女起床。鳴っているアラームを素早く止め、止めたままの姿勢でしばらく停止。起きたのか怪しい時間がしばらく続いたが、その姿勢のままゆっくりと伸びを開始。寝起きのせいか、寝起きの状態でしばらく変な状態で固まっていたせいか、バキバキ腰を鳴らしながらベッドの上で胡坐を掻くと、首を左右に振ってから目を瞑る。寝てるのか瞑想しているのか怪しい時間が過ぎた後、彼女はベッドから降りると部屋を出て洗面台へと向かう。

 同居人はまだ眠っているので、極力音を立てないように移動し、顔を水でバシャバシャ洗う。幾分眠気を飛ばした後、リビングへと移動。更なる活性を促すため、カーテンを開け、日光を浴びる。しばしドラキュラの気分を堪能した後、スペース作りのため、ちゃぶ台やクッションを静かに退かす。

 作ったスペースに階下に響かないようにと運動用のマットを敷き、タブレットを見やすい位置にセッティング。ミュートにしてあることと字幕設定になっていることを確認してから動画リストを再生。内容はストレッチと筋トレ。どちらも極力音が出ないよう静かな動きのものだけを集めてある。それを見ながらマネして動いていく。

 大体1時間くらい静かに運動した後、彼女はグデーっとマットの上にうつ伏せになる。体がポッポしてくる程度の程よい疲労感をしばらく味わった後、彼女は起き上がる。汗はかいているがシャワーはまだ早い。まだ動くのである。彼女は玄関へと向かうと靴を履き、外にウォーキングに出かける。



 朝7時。彼女帰宅。同居人はまだ眠っているので静かに行動。キッチンでお米を朝+一人分にしては多くね? という量を取り出す。何もいっぺんに食べるわけではない(食べれないわけでもない)。半分は今から食べる用で、もう半分はお弁当用だ。研ぎ終わったお米を炊飯器にセットして、彼女はシャワーへと向かう。

 シャワーを浴びて出てくるとちょうどお米が炊けている。彼女は棚に向かい、ふりかけが入っているカゴを取り出す。今日は何にしようかなぁ~、としばらく熟考。決めたふりかけをテーブルの上に置き、お茶碗にご飯をよそい、ふりかけをかけていく。

 ふりかけが好きで彼女としてはご飯があるなら掛けたいところなのだが、料理を作ってくれている同居人が嫌な顔はしないものの無の表情をするため、多分嫌なんだろうな、と思って料理を作ってくれた際にはかけないようにしている。

 食べ終わった食器をシンクに置く。洗い物がまだもうちょっと出るのでまだ洗わない。冷蔵庫から不思議なことにいっぱいある生卵を2個取り出し、熱しているフライパンの上に投下する。カッコつけて片手で割ってみようと思ったところ、1個は軽く黄身が崩れる程度で済んだが、もう1個は加減を間違えて殻と黄身が飛び散った。ひえ~、と慌ててキッチンに飛び散った殻を回収して黄身を拭く。フライパンに混ざった殻は最悪カルシウムと割り切るが、キッチンを汚すと同居人に怒られる。

 ちょっとしたハプニングがあったから(なお、そのハプニングを起こしたのは彼女であるが)、と言い訳しておくが、見事に玉子焼きが焦げた。形もまぁまぁ無骨である。食べたらきっと美味しいハズと、期待してお弁当箱に詰めていく。その隣には自然解凍できる唐揚げも添えておく。

 炊飯器から残りのご飯を全て取り出し、ホッホッホッ、と宙を舞わせておにぎりを作成。不思議とこれは得意分野で、あっという間に整形できる。2個作ったおにぎりを二段弁当のおかずじゃない方の箱にしまい、お弁当完成。後はデザートとしてリンゴも1個取り出しておく。

 もう洗い物は出ないので、朝ごはんの分とお弁当の分の洗い物を洗うことに。洗い物が済んだら、それらを水切り台へと置き、一旦部屋に戻ってリュックを持ってくる。

 中に水筒、先ほど作ったお弁当、デザートのリンゴをしまい、背負う。準備万端、っと玄関で靴を履いて、ドアを開けて外に出る。鍵を閉めて、ドアを引っ張り、鍵が掛かったことを確認したら、階段で今居る階から一階降りる。

「………………」

 クルッと回れ右して今居る階から一階上がり、鍵を開けてドアを開け、鍵を閉めてから靴を脱ぎ、部屋へと向かう。机の上で何かを書いてから、その紙を廊下側から見えるようにドアに貼る。

 これで準備万端、と彼女は今度こそ外に出る。



 朝(昼)11時。彼起床。休みの日はアラームを掛けず、目が覚めた時間に彼は起きる。共同生活をする上で必需品だと思っているアイマスクと耳栓を外すとそれぞれを所定の位置に戻し、部屋を出てリビングに入る。

「………………」

 静かである。ということは、同居人は外出してるらしい。そういえば昨日出かけるとか言っていたような気がする。

 では、昼食は一人分でいいな、と冷蔵庫の中を物色。開けなくても大体中身は把握していたが、昨日と全く変わっていない。いや、よーく見ると卵が減っている。道理で床に殻と黄身が散っているわけだ(恐らくコンロの辺りだけ掃除して、床は見落としたのだろう)。殻は拾って、黄身は拭いておく。

 朝何食べたんだ? とキッチン周りを散策したところ、お茶碗と箸が水切りのところに置かれている。ああ、ふりかけご飯ね、と理解。別に一緒にご飯を食べてる時にも食べればいいものを。嫌な顔はしてないハズだぞ。嫌な顔は。

 主食になりそうな物はご飯、うどん、パン(パスタが切れている、ショック)。ご飯は冷凍の物が無いので炊かなければいけないから却下。うどんかパンかどーしましょ、としばらく考えた後、パンに決定。

 そうと決まれば冷蔵庫から必要なものを取り出していく。レタス4分の1、トマトは無い、ハム数枚、チーズ数枚、卵いーっぱい。え? 何で卵だけそんないっぱいあるのって? どっかの誰かが大量に買ってきたからである。全部賞味期限近いのに。

『安かったんだもん』というのが被告人の言い分であるが、いや、安いからって生鮮食品をそんな大量に買ってこないでくれ、というのが彼の言い分。まぁ多少賞味期限過ぎても過熱すれば食べれるだろう(責任を感じた被告人がジョッキで生で飲むとかアホなことを言ってたが止めといた)、生で食べるのは流石に少し躊躇するが。

 卵を2個取り出してゆで卵を作っている間にサンドイッチに挟む物を用意する。レタス、むしる。ハム、チーズ、適当に切る。準備完了。時間が余ったのでしばらくテレビを観覧。あはは、と笑っているうちにふと時間を思い出す。ゆで過ぎたような気もするが、まぁしっかり火を通しといた方が安全だろうと開き直る。できたゆで卵のうち、1個はタルタル的な感じで細かく切り、もう1個は輪切りにする。トーストにそれぞれ挟めば出来上がり。誰に送るわけでも何かに挙げるわけでもないが、自炊日記として写真を撮っておく。

「………………」

 とは言いつつ、少し考えてから同居人に写真を送ってみる。さて食べるか、とサンドイッチを持ったところ、返事が着た。暇なの? とは思いつつ、先に送ったのはこちらなので一回サンドイッチを置いてから返事を確認。

『あ~ん』

「………………」

 え? どうしろと? 何て返すのが正解? これ。しばらく考えてもよく分からないので、適当にリアクションボタンだけ押しておくことに。さて食べるか、と一口ほうばる。うむ、美味い。



 昼食を終えたら掃除を開始。元々共有部分の掃除は当番制だったのだが、同居人に任せると『掃除前より汚くなる』という誰得魔法を行使するので、汚くされては困ると掃除はもう彼の担当となっている。

 リビングは共有の場所なので掃除。廊下も同じく。廊下にある彼女の部屋はプライベートな空間なので入らずスルー。

「………………」

 スルーした後、引き返す。何か部屋のドアに張り紙がある。何々?

『掃除してっちょ』

「………………」

 いや、自分でやれよ、と思わんでもないが、やらずに後で『やってって言ったじゃーん』と揉めるのも面倒だ。部屋のドアを開ける。

「………………」

 いや、どー掃除しろと? 足の踏み場が無いとはこのことか。ってか、一体どうやってこの部屋で生活してるんだ?

 迂闊に退かして怒られても嫌なので、床の写真をパシャっと取り、その写真に『床』とだけメッセージを添えて同居人に送る。返事来るまで他を掃除してようと思ったら返事がすぐに着た。何々?

『ベッド!』

「………………」

 いや、正気か? 床にある物をベッドに退けて掃除してくれ、という意味らしいが、こんな埃にまみれてるかも分からない物を寝床に放り投げろと? どーこが綺麗好きなのだ? あれは。

 部屋の主が放り投げろというんだから、放り投げても文句は言われまいが、これはもうこっちの気分の問題である。未使用の雑巾を一枚持ってきて、埃を1個ずつ拭きとってからベッドに置いてやる。



 彼女は山を登っていた。何故か? そこに山があるからだ。嘘である。いや、嘘でもない。頂上付近にあるかき氷屋さんが最終目的地ではあるが、山での登山や景色も目的の一つだ。そのために、わざわざカーシェアリングをしてはるばる1時間かけて山に会いに来た。ちなみに同居人は誘っていない。誘えば付き合ってくれるとは思うが、車で1時間の移動も山登りもそんなに気乗りのする方ではないハズだ(たま~にどう~しても一緒に行きたい時なんかはそれを承知で誘ったりもするが)。

 登山家っぽい発言はしたが、本格的な登山経験というのはまだ無い。今日登っている山もハイキングコースみたいなものである。いつか富士山からの初日の出、というものに挑戦してみたいという野望はこっそり持っている(天候に左右されそうなのでちょっと及び腰ではある)。その時は同居人も連れて行きたいものである。流石に嫌がりそうなので、説得を頑張らなくては。

 普段から比較的アクティブに動いている方だとは思うのだが、普段使っている筋肉とかとは違う関係なのか、結構疲れるものである。息が上がるとまではいかないが、息が乱れてきている。おまけに、何度か自分の親の親より年上くらいの世代の人たちにスイスイと横を抜かれていった。マジかい? と思って最初下手に張り合って自分のペースを乱したのがよく無かったかもしれない(途中、張り合うことを止めた)。

 山の中腹辺りにいい感じの休憩所があるので、昼食がてら休憩を取ることに。食事中、下山してきた優雅なマダムたちと遭遇。しばし団らん。途中、マダムの一人が彼女のお弁当を見て、『あら美味しそうな唐揚げね~』と、2つあるおかずのうち、ピンポイントで冷食だけ褒められた彼女の心中は複雑なれど(玉子焼きは見た目的にはあまりよろしくないので、褒めると嫌味になるかもしれないというマダムの配慮はあったのかもしれない)、優雅に『オホホホホ~』と返しておく。

 玉子焼きは誠に残念なことにさほど美味しくはなかった(焦げは思ったほど気にならなかったが、何のアクセントかじゃりじゃり言う)。次回に期待である。傷心を癒すようにリンゴを丸かじりにしてから登山を再開。途中、お子様に『頑張れ~』と応援されながら、頂上到着(誰だ、ハイキングコースとか言った奴は)。

 山登ってまでかき氷食う奴がどこに居るんだよ? なんて思った時期が彼女にもあったものだ。見よ、この列を。長蛇の列、とまでは言わないが、人気店、という感じの長さの列ができている。家の近くでこういう人が並んでいるお店を見ても列に並ぼうとは思わないが、車1時間、登山2時間を掛けて登ってきたのだ。並ばないという選択肢はない。並んでいる間暇なので、登山中に撮った写真を同居人にひたすら送り付ける。そんなにレスが早い方ではないから、順番が来るまでに返事が来るかどうかだろう。多分リアクションだけ来るような気もしている。

 お客さんを捌くのが早いのか、同居人がメッセージを無視してるのかは定かではないが、返事が来る前に彼女の番がくる。一番人気なんですか~? と聞いて、それを注文する。受け取った後、空いている席を探して座る。

 食べる前にかき氷と自撮り。これも同居人に送り付ける。さて食べるか、とスプーンを持ったところ、同居人から返事が着た。おや? と思いつつ、リアクションだけかな? と確認してみると、

『可愛いね~』

「ぶっ!?」

 彼女にクリティカルダメージ。何だ何だ? 飲めないくせに酒でも飲んだのか? 『可愛い』なんて口語で言われたこと一度も無いぞ。どうせなら口に出して言え。

 とは思いつつ、こっそりメッセージを保護する彼女であった。



「………………」

 毎度毎度思うのだが、同居人の洗濯物を彼が洗ってもいいのだろうか?

 一度、『分ける?』と聞いたところ、『何で?』と全力のキョトン顔が返ってきたのでいいのだろうが、毎度毎度、見てもいいのかな、これ、と思いながら同居人の分も洗濯機へ放り込んでいる(干すところを見られたりすると捕まったりしないかな、と内心ドキドキしている)。

 女性物の下着の洗い方のノウハウなんて無い彼は、『これどう洗うの?』とドストレートに同居人に聞いたところ、『洗濯機にそのまま突っ込めばいいんじゃね?』とのこと。んなわけあるか、ブラジャーなんか金具付いてるじゃねーか、と検索履歴が残る恥を忍んでネットで調べたところ、ネットに入れればOKらしい。物にもよるとか云々書かれているが、本人がいいって言うんだからそこまで責任持たん。

 自分の服なら色落ちしようが縮もうが、自分の服なのでどうだっていいのだが、同居人のオシャレ着なんかがそうなったら困るだろうと思っていたのだが、ビックリするぐらい同居人がオシャレ着を着ないので、その辺は杞憂で終わった。

 突っ込め突っ込め、と洗濯機に洗濯物を放り込んでいく。洗剤を入れてボタンを押せばもう人がやることなどない。洗濯機を回している間暇なので、彼はゲームをすることに。

 ストーリーを進めていくゲームなのだが、ストーリーは進めないように遊んでいる。二人で協力して進めることができるゲームなので、ストーリーを進めるのは同居人が居る時にする。

 あんまりレベルを上げ過ぎてもゲームが面白くなくなりそうなので(同居人は下手ぴっぴの下手ぴっぴなので、推奨レベルよりちょっと高いくらいでちょうどいい)良きタイミングで切り上げて、テレビを見始める。

 洗濯機がピー! と産声を上げたので、一旦テレビは中断して洗濯物を取り出し、ベランダに干しにいく。同居人から『乾燥機買う?』と打診は受けているが、安い買い物でもないのでその辺りは慎重に決めたいところ。今のところ無くても支障ないので、とりあえずいいかな、とは思っている。

 通報されませんようにと祈りながら彼女の分の洗濯物も干し終わると、再度リビングへと戻りテレビを視聴。特に観たいテレビがあるわけではないが、チャンネルを弄っているのが楽しかったりする。

 日が傾いてきたので洗濯物を取り込み、畳んでいく。乾燥機よりも自動畳み機の方が欲しいかもしれないと思いつつ、同居人の分も服を畳んで部屋へと持っていく。あら凄い、足を置ける場所があるわ、感動(ベッドに放り投げたままもあれだったので、掃除後綺麗に置き直した)。洗濯物をベッドの上に置いておく。

 さて、晩御飯どうしようかな、と思うくらいの時間帯になってきたので、彼は適当にレシピ本も読み始める。買い出しはまだ行かない。休みの日、同居人は割と外食をしたがるので、その辺りの予定が決まる前に迂闊に動くのは危険である。

 とはいえ、そろそろ準備したいな、と彼が色々広げていたレシピ本を本棚に戻していると、ピンポーン! とチャイムが鳴った。モニターを確認してみると同居人である。はて? 何で鳴らした? 鍵持ってるでしょ。とは思いつつ、鳴らされたので玄関へと向かい鍵を開ける。



「ただいまー!」

 ドアを開けると彼女が元気いっぱいに挨拶をする。それには『おかえりー』と彼は返しておくが、何か彼女が手にいっぱい持っている。何を買って来たんだ? とりあえず、持っている袋を持ってあげようと彼が手を伸ばすと、

「重たいよ?」

「………………」

 伸ばした手をスッと引っ込める彼。彼女の言う重たいはシャレにならず重たいのである。

「ほい、退いた退いた~」

 彼女は袋を持ったまま軽々とリビングへと移動する。本当に重たいのか? と彼が疑っていると、彼女が袋をボーン! とリビングのテーブルに置く(墜落させる)音を聞いて、ああ、重たいわ、と彼も納得する。

 何買ってきたんだ? と彼が覗き込もうとするとその前に、バランスを崩した袋から中身がドサドサドサーッ! と崩れ落ちてくる。どわーっ、と彼女は慌ててテーブルから落ちないように支えている。

「肉?」

 彼が見えた物を聞くと、彼女は満面の笑みで、

「うんっ! 焼肉にしようぜ~!」

 ああ、そういう日ね、と彼は何とな~く頭に浮かべていたレシピを破棄してから、

「狩ってきたの?」

「ううん、買ってきた」

「よく分かったね? 今の」

「ん?」

 彼女は不思議そうな顔をしているが、文字でもなければ今の通じないよな、フツー、と彼が袋の中を物色していくと、

「……多くね?」

 二人で食べるんだよね? これ。と聞きたくなる量があるので、聞いてみると、

「多いかな?」

 なんと聞き返された。量の配分をシンプルにミスったのか、食べれるでしょ、これくらい、というニュアンスなのかが何ともである。まぁ、余った分は明日に回せばいいか、と物色を再開。

「部位もいっぱいあるな。あ、すげー。牛・豚・鳥とある。マジで焼肉屋じゃん」

「えへへ」

 3種類買ってきたのは彼を考慮してのことである。彼女的には牛だけでも別にいいのだが、彼が焼き肉屋とかで、豚とか鳥を食べているのをよく見るので、多分牛だけだと嫌だろうな、と思って3種類用意した。

 ちなみに、焼肉には割と必須だと思うタレとかは買ってこなかった。というのも、

「じゃあ、タレでも作るか」

 彼が作ってくれるのである。何ならこのタレが食べたくて肉を買ってきたまである。彼女がルンルンしながら彼の手元を覗き込んでいると、彼が、

「手伝う気は無いのかね?」

「えっ? 手伝ってもいいの?」

「うん、ウソ、ごめん。大人しく座ってて」

「ぶーっ!」

 と、彼女は拗ねているが、彼からすれば当然の判断である。彼女にキッチンを使わせるとその復旧作業に2時間かかることがある。以来、原則彼女へのキッチンの立ち入りは禁止している。

「昔の話なのに……」

「割と最近でしょ。本当に何をどうすればあんな……、あっ、そういえば朝も」

「あー聞こえない聞こえなーい!!」

 両耳を手で覆いながら、あーあー、言いながら彼女は退散。まだ話の途中だが、追っかけてまでする話ではないので、彼はタレに使う具材を切ろうとして、

「キャーッ!!」

 という彼女の甲高い悲鳴を聞いて危うく指を切り落とすところだった。繋がっている? 私の指? と彼が自分の指を確認していると、

「見てよ見てよー! 私の部屋綺麗―っ!!」

 知っている。誰が片付けたと思っている。指の無事を確認できた彼は具材切りを再開しながら、良かったねーと返事をすると、

「ああ、そうだ! アイス買って来たんだ! 食べるーっ?」

 色々買って来るな、と思いつつ、後でねー、と返事をしたハズなのだが、

「食べよ食べよー。はい、あーん」

 話聞かないよな、ホント。彼は諦めたように横から突き出されているアイスを一口食べる。

「美味しい? 美味しい? ねぇ、美味しい?」

「うん、美味しい美味しい」

「でしょっ!? これ美味しいんだよねぇ~っ! ほいっ! もう一口っ!!」

 料理が進まないのだが? 焼肉前にアイスでお腹いっぱいにする気なのかな? まぁもういつものことである。彼は包丁を置いてタレ作りを中断すると、彼女と一緒にアイスを食べることにした。

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