傷だらけの君へ

伊藤壱

第1話

ああ、きみはどこでなにをしているのだろう。




愛しのきみよ、真っ白な羽根を広げ


自由に空を舞ってゆく。




きみが向かうは高みの空か、それとも幸福の海か。




僕も共に行かんとすれども、痩せた背中に翼は生えない。


太陽の光を浴びて翔ぶ君の黒い姿を、今日も地上で見上げている。




僕にもいつか翔べるだろうか。


醜い自意識とどろどろと地を這う嫉妬が顔を出す。




上目で眺める僕にきみは言う。




大切なのは羽根じゃないのよ。


いくら待ってても生えてきやしないわ。




希望はいつも柔く脆い。




ある日きみは地に堕ちた。


あの美しかった羽根は折れ、からだは泥にまみれた。




人はきみを嗤い、叩き、放り出した。




僕は君を見て安心したんだ。


腹の底がずんと沈んだ。




ナイフを手に取り、きみの元へ。


ああ、これでみんな、楽になれる。




けれど、堕ちた場所にきみはもういなかった。




足元には、泥だらけになったきみの羽根があり


視線を上げるとその先には、




きみの美しい紅血が、どこまでも、続いていた。

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傷だらけの君へ 伊藤壱 @itohajime

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