第2話 孤独《ひとり》

「おい…嘘だろ…なんだよこれ!!」

俺はテレビのテロップに釘付けになった。


島根県…江津ごうつ市…俺の実家だ。

両親と同居中の…無職男性(38)…綾斗あやと…俺の弟か…

そして、アナウンサーの声も入ってくる。











「今日の夕方ごろ、島根県の江津市で、同居中の無職男性が両親を殺害し、

服毒して自殺しました。」












綾斗…なのか…?

年齢も同じだ。あいつは一生島根から出ずに親父とおふくろのスネ齧ってた。

「死亡したのはいずれも犯人の両親で、木村 たかしさん(70)と、

木村 はなさん(69)でした。犯人はその息子、木村 綾斗容疑者(38)。

木村容疑者は犯行に及んだ後、トリカブトの毒で服毒自殺しました。

宗さんの友人が犯人宅を訪れた際、事件が発覚しました。

警視庁は、一家の兄、木村 史雄ふみおさんに動機がないか調べるという方針を発表しました。」


口を押さえる。開いた口が塞がらない。

綾斗…嘘だろ…

そう声に出したつもりだが、何も発音できていない。


次に、もう一つの不安が押し寄せる。

俺に…動機が何かないか調べる…だと?


また綾斗は厄介なものを運んできやがった…

嫌だ…嫌だ嫌だ!!

警察にはもう世話にはならないって…中学ん時誓ったのに…だから親元離れて

わざわざ東京まで来た…

綾斗…あいつ…


俺はこの先どうすればいい?

週一で近況を電話でかけてくるおふくろも、

年賀状と暑中見舞いをクソ丁寧な字で送ってくる親父も!

あぁ、もう全てを失った。


憎い。

綾斗…

お前は俺の1番大事なものを…いつも自分の人生と道連れで持って行くよな…



そして史雄は、何かの気配を感じ取った。


来る…

奴らが来る…

奴らが!!!


ピーンポーン。

突如、インターホンが鳴った。

そして

ドンドンドン!ドンドンドン!

とドアを叩く音。

震える足取りで玄関へ向かい、扉を開ける。

ガチャ。「はい…」

やっとのことで声を出した。


「警視庁の者です。木村、史雄さんでお間違い無いですか?」

「…え、えぇ。」

「ニュースはご覧になりましたか?そのご様子だと見られたようですが。

この節は、本当にご愁傷様でした。お悔やみ申し上げます。」

「あ…まぁ…はい…」

「私共がお伺いしたいのは、木村綾斗さんに何か殺しの動機がなかったか、と言うところで…中でお話を伺っても?」

「え、えぇ。どうぞ。」


「事件は今日の夕方です。その3日前頃からの事についてお聞かせください。」

「は…はい…」


突然、不思議な感覚が史雄を襲う。

さっき感じた、何かが来る、というのと同じだ。

何かが、最悪が、やってくる感覚がする。


段々と膨れ上がり、

いろんなものを巻き込んで、

こちらに向かって来る気がする。


さっき感じたのとは比べ物にならないくらい大きなものだ。


動悸がする。

額から汗が吹き出す。

脚が震えてきた。

頭の奥がジンジンと痛くなってくる。

めまいがしてきた。



もうすぐそこまで来ているようだ。



突然目の前が真っ暗になり始める。

目をがん開きにしているのに、ずっと暗い。光がないのではなく、そこに暗闇がある。

急に立ち上がって、どこへともなく歩み出す。

それはだんだん近づいているように見える。

向こうから…頭の上を通り過ぎて…後ろの方まで…

暗黒が全てを包み込む。

暗闇くらやみは嫌いではない。

だがその暗闇には、その暗闇くらやみだけには、









底知れぬ恐怖と、戦慄が









カビの匂い。実家のキッチンの匂いがする。

地面は濡れている。濡れたカーペット?

しかしこの耳障りな蛍光灯の音といったら…


まて、今まで、家にいたよな?

なぜこんな匂いがして、こんな音が聞こえるのだ?



そこで、俺は目を開いた。

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