第5話 彩音の気持ち

 私は今日、片思いをしていた親友に出会った。

 それも、マッチングアプリと言う不名誉なものを使って。

 

 マッチングアプリを使ったのは一時の迷いだった。

 友達の口車にまんまと乗せられてマッチングアプリをダウンロードしてしまった。

 しかし、今となっては感謝している。

 こうやって、疎遠になっていた親友と再会できたんだし。


 「なせくんと映画か、懐かしいなぁ……」

 「だな、あん時は土日は毎週どっかで遊んでたし」


 河崎七瀬。

 私、川村彩音の親友であり今もずっと片思いをしている相手。


 彼とは高校からの仲で私は彼に救われた。

 それが要因となってここまでダラダラと未練を引きずってた。

 しかし昨日で吹っ切れて今日から新しい恋に進もうとしていたのだが、こんなの展開になってしまえば新しい恋を始めるなんて不可能だ。


 七瀬との出会いは高校二回目の文化祭だった。

 この時の私は文化祭と言う物に対して熱が入っていた。

 一年生の時の文化祭はまだ友好関係や確立していなかったり高校初めての行事という事で皆変に緊張して、私たちのクラスの出し物はかなりの批評を受けた。

 形になってない、一年生だからと言って甘えている、俺らの時はもっと厳しかったのにこんなのも出来ないのかと上級生からの批判が後を絶えなかった。


 私は凄く悔しかった。

 下級生だからと馬鹿にされ、準備期間も私たちの代から1週間延長されたため初めてだからと言い訳することも出来なかった。

 だからこそ、二回目の文化祭は大成功を収めて3年生をあっと驚かせたかったのだが、でしゃばった私をクラスの皆は嫌い文化祭が終わると共に、貯めていた不満が爆発して集団で私に対して暴言を言い放った。

 今考えてみれば、私のしていた事は終始酷いもので出し物のダンスは一週間前には覚えるように、学級旗は美術部の人に依頼して完成度の高い物を求めた。

 それ以外にも男子には強制的にダンスでセンターを担当してもらったりと、本当に散々な物ばかり。

 それでも七瀬だけは、弱音や不満を一つも吐かずに私に着いて来てくれた。

 だからこそ、もの凄く申し訳なく思っている。


 話を戻すが、私が七瀬の虜になったのは女子から集団でイジメられた後の事。

 女子たちが居なくなってから、私は弓道場の倉庫の裏で泣いていた。

 一人悲しく、自分の何がいけなかったんだろうと必死に自分を責め続けた。

 その内、誰かが走って来る足音が聞こえて泣いているのを必死に隠そうと声を抑えたがバレてしまった。

 七瀬は私の目の前にしゃがみ込むと必死に優しい言葉を投げかけてくれて、体をそっと撫でてくれた。

 そして私は七瀬の優しさに耐えられなくなってあろうことか抱き着いてしまった。

 七瀬にとって迷惑だったかもしれないが、それでも七瀬は何も言わずにそっと頭を撫でてくれた。

 

 私はこの時、人の温かさを実感した。

 泣いている時は酷く冷たかった心も、七瀬が傍に居てくれるだけで凄く温かくて抱擁感が私を包み込んだ。 

 私はその後も、七瀬に守ってほしい、ずっとこのまま包み込んで居て欲しいと思ってしまった。

 

 そしてそう思った私は七瀬に対して一方的に絡むようになって、彼も私と居る事が楽しかったのかプライベートでも遊ぶようになったり、通話をしたりと毎日が幸せだった。

 傍に居てくれる人が居るだけで、こんなにも幸福度が違うのかと驚かされたぐらい。

 そして私はもっと先の関係、恋人同士になりたいとも思った。

 でも、私は臆病者だった。

 

 『私たち、付き合おうよ』『付き合わない?』『なせくんの事、好きなんだよね』


 好意を伝える言葉は頭の中で何種類も錬成され、毎回そんな流れになったら口に出そうになる。

 それでも振られた時、七瀬が私の傍から居なくなった時とネガティブ思考になってしまって毎回逃げていた。

 きっと私は、それだけ七瀬に依存していたんだと思う。

 七瀬と絡んでいる時がこの世で一番楽しい時間で、一人でいる時はなぜか七瀬の事を考えてしまう。

 私に気を合わせてくれる七瀬の事が好きで好きで仕方が無かった。

 だから、連絡を取れなくなっていたここ一年間は楽しい事が無かった。


 友達とつるんでいても、好きなアニメやドラマを見ても、何をしていても楽しくない。

 七瀬のいない日常がこんなに辛いなんて思っても居なかった。

 

 それに友達から男を紹介される度、七瀬と比較してしまってどうして忘れられないんだろうと自分を嫌いになりそうになった。

 客観的に見て七瀬よりもイケメンな人は沢山居たし性格が良い人も居たのに、誰の事も好きになれなかった。

 

 「なんか、めっちゃ変わったな。髪とか、ファッションとかそんな柄じゃなかっただろ」


 一年もすれば私の事なんて忘れてるって思ってたけど、七瀬はちゃんと覚えてくれていた。


 「そうかな?」

 「そうだろ。髪もウルフにしてボブの頃が懐かしいしピアスかイヤーカフか分からんけど彩音は可愛い顔してるんだからそういうのしない方が俺は好きだ」

 

 『好きだ』


 その言葉に反応して心臓の音が急にうるさくなった。

 頬が熱くなる感覚がする。

 七瀬に会うといつも調子が狂う。

 

 いつも会話の途中に私を勘違いさせる事を言っていて、いつも一人でドキドキしていた。

 それに今も、フラッシュバックして好きになった理由とか色々思い出してる最中に私の変わったとことか性格に言い当てて、挙句の果てに好きとか言うとかほんと意味わかんない。


 「そ、そっか……じゃあ外そうかな……」

 「いや、自分が好きなら全然してても良いんだけどさ?」

 

 「い、いや外す! 外すし……」


 こうなったら、反撃してやる。


 「でもさ? なせくんも変わったじゃん」

 「どこがよ」


 「いや、なんか凄いカッコ良くなったなって。服とかちゃんと自分の容姿に合ったのにしてるし、髪型もセンター分けからマッシュにして大人っぽくなったね」

 「良く覚えてるな。まあでも、入学当初はセンター分けだったんだけどガキっぽく見られててさ、それで辞めた」

 

 「そうなんだ。でも確かにそっちの方が似合ってるよ、カッコいいもん」

 「そっか、ありがと。彩音も可愛くなったな」


 心臓がドクンと打たれたように跳ね上がった。

 私が仕掛けたはずなのにカウンターを貰ってしまった。


 「まあでも、俺は昔の彩音の方が好きかな。あの時はボブが似合い過ぎてたな」


 もうやめて、私のライフはゼロだからそれ以上攻撃しないで。


 今までにないほど顔が熱くなっているのが分かる。

 こいつ、自分が女を垂らしているという事に気付いていないのだろうか。

 好きな男を前にすると何も出来なくなっちゃう私も悪いんだけど。


 私の当初のプランではどんな人が来るか分からなかったので、一度駅構内にあるカフェで適度に互いの事を知ってから映画に行く予定だった。

 話しやすかった相手とは言え、どんな人が来るか分からなかったからだったのだが、その必要は無くなった。

 だが、私は知りたい。

 今の七瀬を。

 どんな人間とつるんでいて周りに女は居ないのかと色々と確認したい。

 

 「ねえ、映画まで時間あるからさカフェでちょっと話さない?」

 「ん、別に良いよ。俺も彩音と話したかったし」


 七瀬の言葉でちょっとドキッとしながらも、私たちはカフェに向かった。

 途中、顔が赤すぎて心配された。

 そんな七瀬の行動が私の調子をもっと狂わした。

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