第4話 再会
「お前、今日なんか違うな」
講習が終わり、放課後になると亮輔が話しかけて来る。
今日はあやさんとの映画デートなので服装や髪型など、似合いそうなものを調べて整えて来た。
服に関してはもっと早く興味を持っておけば良かったと思ったが、家にあるもので代用できた。
「ん、まあちょっとね」
「お、早速見つけたのか? 良さそうな人を」
肘を俺の脇腹にぐいぐいと押し付けながら亮輔はニヤける。
マッチングアプリに関しては亮輔の方が先輩だし、そもそも亮輔のしつこさが無ければ今頃あやさんと会う予定なんて出来ていなかった。
俺は亮輔に感謝すると共に、あやさんとの関係に脈があるのかを聞いてみた。
「ちょっとこれ見てくれ」
「ん、おー」
亮輔は感慨深そうな声を上げた。
「めっちゃ進展してんじゃん、しかもこれはいい流れだし。相手からも結構好印象持たれてると思うぞ」
「マジか、じゃあ……」
「でも、まだお互いに顔を見せ合って無いだろ? お前は函館の夜景のアイコンで相手のあやさんのアイコンは多分自分の後ろ姿、それでお前は顔とか重視すんのか知らないけど七瀬の顔が相手の好みじゃなかった場合は、分かるよな?」
亮輔の言っている事は俺も理解が出来る。
俺は相手の顔も少しは気にするが、それでも外見よりも内面を見るタイプの人間だ。
それで彩音の事も好きになったし、クラスメイトにもあの子可愛いよ!とか言われても見向きもしなかった。
しかし、俺があやさんの事をどれだけ好きになったとこで、俺を気に入るかどうかはあやさんが決める事だ。
実際会ってみて、想像通りの人だと思われるかもしれないし逆に、想像と全然違ったと思われ一気に脈が無くなる可能性だってある。
「あのな七瀬、大体の人がそうだと思うが、マッチングアプリを使って人と会う場合、大体が顔を見せ合ってから会うんだよ。それで気に入られたら会ってくれるし、気に入られなかったら会ってくれない。そんな環境の中で顔を見せ合わずにデートに誘ってくるっていうのは稀なパターンだ」
「うーん、まあそうだよな。俺も顔に関してはちょっと気になってるんだよな」
「あと、話の内容的に結構期待してるかもしれないけど、期待し過ぎるのもドタキャンとかされた時メンタルに影響するから、あんま期待しない方がいいぞ」
先輩からのお告げで、既にメンタルが崩壊しそうになった。
こいつに話したのは間違いだったか、そう思っていたが批判ばかりではなくアドバイスもくれた。
「あとは、あんまり変にキャラとか作んない方がいい、緊張してるなら緊張した状態で関わってみろ。そしたら案外関わっていく内に緊張はほどけるし、そっちの方が素を出しやすいからな」
「な、なるほどな」
「それと――」
「もう分かった! これ以上は会う前にお前のせいでメンタルが崩壊する!」
本末転倒になる前に亮輔を静止させ、俺は学校を出た。
亮輔は
時刻は3時30分、ここから駅までは10分ほどで着くので予定の時間までには着きそうだ。
亮輔のせいで一度崩壊させられそうになったメンタルも、あやさんと会えるという楽しみで一気に回復し駅に着く頃にはいつも通りの自分になっていた。
今日は30℃を越える真夏日。
太陽が燦々と照らし、俺は駅の中に避難した。
「暑すぎる……」
駅構内は人でごった返しており、涼みに来たであろう人が影になっている場所に集まっている。
サラリーマンから学生らしき人までと人層は様々だ。
俺は柱の後ろに出来ている影に入り、そのまま柱にもたれかかった。
一週間前、彩音の事を思い出してしまってからどうも調子がおかしい。
これが未練と言う物なのだろうか。
あやさんと会話してる時も、いつも記憶の片隅で「これが彩音だったら」と深く考えてしまう。
そしていつも高校時代を思い出してしまう。
体育祭のバドミントン、彩音が凄く運動音痴でミスする度に「ごめん」と謝って来て、でもそれがたまらないほど可愛くて、最後の学校祭でも俺と彩音は学級旗の班で、旗にインクを塗っていたら急に彩音が俺の顔にインクを飛ばし始めて、火が付いて次第にインクの飛ばし合いになって。
思い出したらキリが無いが彩音と会えない以上、今となってはそれがたまらなく辛くて、血清の存在しない毒となっていた。
スマホを見て、時間を確認する。
3時50分、楽しみ過ぎて10分前来てしまったが、次第に楽しみという感情が緊張という感情に乗っ取られ始めた。
刻々と時間が迫り、緊張している間にも時間は進む。
そして一件の通知が来た。
俺はそれを見て、アイブルを開く。
『暑くて駅の仲入りました。どこにいますか?』
『柱の近く何ですけど分かりますか?水色のシャツに下は白のズボンです』
俺は震えた手で自分の特徴を伝える。
『私、ウルフでクリーム色のワンピース着てます』
俺は『了解です』というメッセージを送り、再度周囲を見渡す。
しかしその特徴と一致する女性は見つからず、俺は柱から離れて入り口の方へ歩き始めた。
そして、入り口の扉付近まで来たところで後ろから肩を叩かれた。
振り返ってみるとクリーム色でウルフヘアの女性がそこには立っていた。
いきなりの事で驚いて、俺は一歩後ろに下がる。
「あ、えっと驚かせてすみません。アイブルのあやです」
丁寧に頭を下げ、自己紹介をするあやさん。
インナーカラーを入れているのか首筋からは服と同じクリーム色の髪の毛が見える。
そして耳にはイヤーカフかピアスかは分からないが、アクセサリーを身に着けている。
ウルフに耳のアクセサリー、そして服装と言い偏見になってしまうが俺は良くない人を引いてしまったのではないかと少し不安になる。
しかし、外見で判断してはいけない。
見たところ、顔はもの凄く整っておりもの凄く失礼になると思うがもしもこの顔をアイコンに設定していたら間違いなくヤリモクが集まるような顔だ。
庇護欲が湧き出るような童顔で、上目遣いという反則技を使われれば確実に落とされるだろう。
しかし、難点と言うかウルフヘアが微妙に似合っていない。
ファッションの専門家でもない俺が言うのも何だが、素晴らしく整った童顔ならば肩ぐらいまで伸ばしたセミロングかバッサリと切ってボブぐらいにするのがベストだと思う。
まあ、全て個人の自由だからハッキリ言うつもりは無いが。
「あ、すみませんちょっと見惚れてました。アイブルのななこと河崎七瀬って言います、今日はお願いします」
不意に出てしまった言葉に恥ずかしくなりながら、俺は頭を下げる。
緊張と自分の発言に不安になり、頭を上げる事が出来ない。
しかし俺は彼女の発言に驚かされる事になる。
「え、なせくんなの……?」
疑問混じりの声だったが『なせくん』という言葉に反射的に反応してしまい俺は頭を上げた。
なせくんというのは彩音が俺を呼ぶ時に使っていたあだ名で俺の事をなせくんと呼ぶのは彩音だけだった。
まさかと思うが、目の前に居る女性は彩音なのか?
いやいや、でも当時とは外見が全く違うしそもそもこんな童顔でもなかったし、そもそも札幌という町には沢山の女性がいる。
札幌に進学していたのは知っていたが、無数にいる女性の中から彩音だけを引くことは確率的に考えて到底不可能だ。
だが、初対面の人に向かって『なせくん』とか愛称を付けたりするにはとんでもないコミュ力が必要だ。
普通こんな図々しい態度を取れるはずが無い。
「え、彩音……なのか……?」
俺は不確定ながらも恐る恐る聞いてみた。
これで本人ならば凄く、これ以上なく嬉しいが俺と彩音の事情を知っているクラスメイトという可能性も無くはない。
しかし運命とは定められているもので、これからの展開に俺は歓喜することとなる。
「そう……だよ? 私、川村彩音って言います。覚えていますか?」
彩音は歓喜からか口元を抑え、目は涙目になっていた。
「うそ、だろ……」
「私も、嘘だと思ってる。まだ信じられない……」
こうして俺は、大好きだった親友と運命的な再開をした。
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