第3話 会話

 俺はメッセージ画面を開き、届いたメッセ―ジを確認する。

 俺がメッセージを送った相手は「あや」という方でアイコンは自分のなのか分からないがポニーテールの女性の後ろ姿だった。

 対して俺は「なな」とかいう下の名前の一部分を端折っただけという何の変哲もない名前で、アイコンに関しても函館に一人旅行った時の夜景だ。

 こんな捨て垢みたいなアカウントとマッチングして、よくもメッセージなんて送れるな。 

 気が知れないとは思わないが、俺ならばマッチングしても何も送らずにスルーするだろう。

 

 『実を言うとですね、友達にキャンペーン手伝ってくれ!って言われて入れて、とりあえず適当にいじってたら気付いたらマッチングしてて、それでマッチングしたらメッセ―ジが自動で送られるみたいで……」

 『その、なんかすみません』


 同じ境遇の人もやはり居るのだな。

 ていうか、マッチングしたら強制的に相手にメッセージ送られるのヤバすぎだろ。

 あやさんのように月額費免除目的で入れて知らぬ間にマッチングしてしまったという人が他にもいると思うと何だかいたたまれない部分がある。

 相手の顔が見えないメッセージ。

 この挨拶一つで相手が何を思っているかなど読み取る事は出来ないし、挨拶から人を判断する人は山ほどいる。

 これで本当にリリース一カ月で500組ものカップルが生まれたのか怪しくなってきた。

 

 『あーそうなんですか。実は俺も友達に月額費が互いに無料になるから!って迫られてこのアプリを入れたんですよ笑』

 『なので似た境遇同士、嫌ならいいんですけどせっかくの機会ですし少しお話しませんか?」


 すると数秒もせずに返信が来た。


 『そーなんですか、私たち似た者同士ですね笑。これも何かの縁ですし少し話してみますか笑』

 

 相手からの返信的に好印象だったという事なのだろうか。

 まあ普通に考えて相手の迫り方が嫌だったらブロックするか、やんわりとした断り文を送りその後はブロックしたりなど、相手の顔の見えないメッセージ上でのやりとりなので逃げる事は容易だ。

 まだ警戒心や不安感などはあるだろうが、それでも

 

 『えっと、自分アニメとか見るんですけどあやさんは見ますか?』

 『見ます!見ます!特にラブコメが好きですね』


 『え、マジすか!自分もめちゃくちゃラブコメ好きなんですよね!特に白銀の花嫁とか友達に愛を伝えているのに別の意味で伝わるんだけど!?とかが再推しですね!』

 『私もともいみめっちゃ好きです!』

 

 『白銀の花嫁めっちゃいいですよね!終始シリアスな状況なのに急にくるラブコメ展開!あれには凄く衝撃を受けましたし、その後のミーシャのシーンには泣かされました……』


 思った以上に話は続き、俺もあやさんと話しているうちに自然と興味が湧き始めていた。

 その後もアニメの話で盛り上がり、俺は1時間程あやさんと会話をした。

 そしてアニメの話が終わった後も


 『実は私、ラノベも好きでして……』

 『マジすか!?自分もです!』


 『ほんとですか!私の好きな作品は冴えてる君には私は落とせないですね!』

 『なるほど、あやさんは女性向けの異世界恋愛系は好きじゃないんですか?』


 『ラノベと言ったらラブコメ!みたいな感じで定着がついてて、異世界系は好んで見ようと思った事は無いですね』

 『そーなんですか。自分と似たような考え方してますね笑』

 

 ラノベの話をしたり。


 『あやさん、ゲームとかはしますか?』

 『ゲームもたんまりとやっております!最近だとFPSにハマっておりまして、総プレイ時間で言ったら1500時間ほどでしょうか。とりあえず、ゲームも色んなジャンルやってます!』


 『FPSなら自分もやってますね!でも、どっちかって言うとFPSは苦手な方でオープンワールドのRPGとかゆったりとプレイできるゲームが好きですね』

 『そーなんですか。私もオープンワールドは好きですね、自由度が高いですし高い所から飛んだ時は爽快で面白いです!』


 ゲームの話をしたり、と一度は会話が途切れても、毎日決まった時間になると互いにお誘いのメッセージを送り、気付けば一週間もあやさんとやりとりをしていた。

 そして、俺とあやさんの関係はより深いものとなる。

 この日もいつも通り、あやさんからメッセージが届いていたので確認しようとメッセージ画面を開いた。

 いつもは『今日も話しませんか?』などという一言から始まるのだが、彼女にしては珍しく長文が届いていた。

 俺は何かあったのかと思い文に目を通したが、その内容は衝撃的な物だった。

 

 『そのななさんにお願いがあるんですけど、実は最近見たい映画が出来て、それで友達を誘ったんですけど彼氏と見に行くらしくてですね』

 『それで、見に行く人がいなくて一緒に見に行ってくれないでしょうか?』


 人生で初めてのデートのお誘い。

 俺は衝撃を受け、文の内容を口に出して朗読し始めた。

 普通に考えて、友達に断られたのならば一人で見に行くか友達の日程に合わせて見に行くはず。

 それなのに、見に行く人が居ないからという理由で俺を誘って来た辺り少しは脈があるのではないかと思ってしまう。

 男たらしならばこれぐらい容易なのかもしれないが、メッセージのやり取り的に文だけではそんな雰囲気は感じられない。


 『あの、ダメなら全然良いんですけど』 

 

 既読が付いていることに気が付いたのかあやさんは追加で文を送って来た。

 いつもなら秒で返す返信も、驚きが抜けないせいか少し遅れてしまった。

 俺はあやさんを心配させないように急いで文字を打つ。


 『全然大丈夫でよそ!』


 急いで打ったため、誤字ってしまったので訂正のために『全然大丈夫ですよ!むしろ自分もあやさんとは気が合いますし一度遊んでみたいと思ってた頃だったので笑』と返した。


 『本当ですか!ありがとうございます!場所は駅前のフロンティアでお願いします。日程は明日とかお暇してますか?』

 『えーと、学校があるのでその後なら全然大丈夫です』


 『あ、私も学校があった。じゃあ学校終わりにしましょう、4時前とかでどうですか?先に終わったほうが駅の南口で待ち合わせということでどうでしょうか』

 『分かりました。とりあえず学校終わったら連絡して南口に向かいますね!』


 『ありがとうございます。なんか迷惑かけちゃって……』

 『いやいや全然!さっきも言った通りあやさんとは気が合うし、むしろこっちがいつ遊びに誘おうか迷ってたぐらいなんで笑』


 『それなら良かったです……遊びに誘うだけなのに変に緊張しちゃって笑』

 『じゃあ今度何かある時は僕から誘いますね笑』


 やりとりを終え、スマホを机に置いた俺は倒れ込むようにしてベットに突っ伏した。

 人生初めてのデートが明日となり、緊張しているということもあるがそれよりも、まだ一度も見た事の無い彼女の笑顔がなぜか画面越しに想像できてしまって、あやさんの事をもの凄く考えているんだなと思う反面、彼女の事を考えすぎて恥ずかしくなってしまっている自分がいる。

 明日会えば、彼女の人間性や性格、その他にも知らないことが沢山知れて彼女が俺にとっていい人間なのか判断することができる。

  

 とりあえず、あやさんとの会話は終わったし、少しファッションについて勉強しておこう。

 あやさんの前で恥ずかしい格好では居たくないしな。

 そう思った俺はパソコンを開き、ファッションについて調べ始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る