ことほぐ

藤泉都理

ことほぐ




 私の父は計画を立てて旅行をするのが苦手だそうで、大雑把に行先を決めては車を走らせて、よく旅行に行ったそうだがほとんど覚えておらず。

 母と父にあんなに連れて行ったのにと、恨みがましいというか、呆れているというか、寂しそうな目で見られたことは数知れず。


 道幅の狭い山中の道路の車一台ぎりぎり止められる場所で、車内でコンビニのおにぎりを食べたこと。車が落ちるのではないかと本気で怖がっていた。

 銀色の魚が泳いでいる水槽に囲まれている温泉に入ったこと。その旅館のご飯は豪勢で馴染みのあるキャラクターのお菓子が出ていてすごく喜んだ。

 ずっと車に乗っていてやっと泊まれるホテルを見つけたのに、父があろうことか素通りしてそのまま家に戻ったこと。何で何で泊まらないのとめちゃくちゃ怒った。


 明確に覚えているのは、この三つだ。

 いや。

 坂本龍馬像を見たし、鳥取砂丘を裸足で歩いたし、鳥取砂丘で食べた二十一世紀梨がとても美味しくて取り寄せた。

 うんすみません六つ、かな。


 まあ、覚えてはいなくても、写真に大切に残っているわけだし。

 これからもいっぱい思い出話を聞かせてくださいよ。


 ねえ、お母さんお父さん。


 えっ。そんな時間ないって?

 忙しいからまた後でって。

 わかってるけどさあ。


 私もこれから忙しくなるんだから、今聞かせてよ。

 ってもう居ないし。

 あーあ。もう。本当に。

 一緒に居られる時間って限られているんだから。







(2023.1.12)



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