第十七話

「それでは今日からさっそく来てみるのじゃ。と言っても、今日はオリエンテーションの様なものをして終わりとさせてもらうがの」


 金髪碧眼ロリ狐っ娘こと、マオの黒と赤を基調とした巫女服の下から生える尻尾を掴みながら、俺が雇ってください宣言をしてから数分後のこと。


 俺は今もここ――ミーニャ魔法用品店の店先で働いている妹のミーニャ、そしてひょんな事から一緒に暮す運びとなった旅の剣士リゼットに、所要でマオと出かけてくる旨を話し、今はそのマオと向かい合って炬燵を挟んでお互いにヌクヌクしながら話している次第だ。


「それはいいだけどさ、お前って魔王で……おまけに自分の城をもてるんだろ?」


「うむ、それがどうかしたかの?」


「どうこもないけどさ、俺を働かせるのって当然その城なんだよな?」


「その通りじゃ」


 狐をピクピクと可愛らしく動かしながら頷くマオを、ほっこりとした視線で見ながら俺は言う。


「その城ってどこにあるんだよ? 少なくともこの町の近くには城なんてないよな……でも、お前がこの町に頻繁に出没しているところを見るに、そんなに離れている場所に城があるとは思えない」


「出没……我を低級の魔物と同じように扱うのはやめるのじゃ!」


 せっかく働く先が見つかったとはいえ、通勤にはてしない時間と労力がかかるのは嫌だ。そう思っての確認だったのだが、俺の質問に対してマオはなんてことのないように言う。


「まぁいいのじゃ……お前が失礼なのは今更だしの。それにそれなら心配はないのじゃ」


 言って彼女は立ち上がり、リビングの中央当たりまで歩いて来てない胸を張って言う。


「我の城はここからは大分離れた場所にあるのじゃが、我が今からここに転移魔法陣を張るから、その問題は一瞬にして解決するのじゃ……って言っている間に完成じゃ!」


「はやっ!」


「この程度造作もないことなのじゃ、我は魔王じゃからな!」


 そう言うマオの足元では、赤黒く輝く幾何学模様の円形魔法陣がゆっくりと回転している。


「何をボケっとしているのじゃ、早くくるのじゃ!」


「お、おう!」


 無駄に急かしてくるマオの声に俺は立ち上がり、緊張しつつゆっくりとマオの隣――魔法陣の中へと入って行く。


 生まれて初めて魔法陣というものの上に立ったわけだが、何だか不思議な感じがする。下から暖かい熱お様な物が吹きあげてきているのだ。

 これが魔力とかそう言う類のものだろうか、何だかいよいよファンタジーめいてきて気分が高揚してきた。


「準備は整ったし行くのじゃ、我は忙しいのじゃからな!」


 すると、こちらの心の準備などまるで無視してマオが俺の手を握り、足元の魔法陣を軽く拭見つける。


 すると次の瞬間、俺の視界は赤黒い光に塗りつぶされるのだった。

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異世界に行ったら妹ができた アカバコウヨウ @kouyou21

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