第十四話
「…………」
闇鍋。
聞いた事はある。
ライトノベルや、アニメ、漫画などで見たこともある。
だがしかし、
やったことはない。
故にとんでもなく妙な気分だ。
ミーニャに対しての不安を色々と考えたものの、かなり楽しみである。だがそれと同時に、どんな食べ物を引いてしまうのかという恐怖もある。
「……よし」
でもせっかくやるなら、精一杯楽しんでやろう。
そんな意気込みで俺は一度深呼吸をして、ゆっくりと箸を伸ばす。
暗くて鍋の中はわからない。
故にこれから俺が何を食べる事になるかは運次第――狙う場所はもう決めている、あの真ん中の所だ。
鍋の真ん中にあるあの黒いシルエット、形からして大根のように見える。
あれならば、最悪でも食べられない事はないだろう。
「じゃあ食べて食べて~! 闇鍋とはいえ、ミーニャが精一杯作った手料理なんだから!」
大根らしきものをしっかりと掴み、自分のさらに運んでいくと、気配でそれを察したのであろうミーニャが嬉しそう言う。
そんな彼女に俺は、
「あぁ、お言葉に甘えていただくよ」
そうだ、失念していたがこれはミーニャの手料理ではないか。
今更だが彼女は料理がとてもうまい、性格こそ難があるため闇鍋にとんでもないものが入っていると思ったのだが、ひょっとしたらこの闇鍋もそれなりに美味しいのではないだろうか。
……信じてみよう。
俺はミーニャを、自分の妹を信じる!
例えどんなものを入れていたとしても、ミーニャなら美味しく料理できるはずだ――彼女は血は繋がらないとはいえ、天才な俺の妹なのだから。
「行くぞ!」
もうグダグダ考えるのには飽きた。
男ならば、兄ならば妹を信じて突き進むまで。
俺は気合いの割にはゆっくりと大根を口に運び、咀嚼。
もぐもぐ、もむもむ。
一噛み一噛みに感覚を集中させながら、俺は口の中にある謎の食材を味わっていく――うむ、味は不味くはない。食感もとてもいいし、噛むたびにだし汁が染み出してくる。
ようするにこれは、
「普通に美味しい……」
「普通にってどういう意味、お兄ちゃん?」
美味しくなかったの?
とでも言いたげな口調で問いかけてくるミーニャに、俺は返事を返す。
「美味しいよ、今まで食べた料理の中で一番おいしいかもしれない。でも俺が今食べたのって何なんだ? 丸くて食感は大根みたいだったけど」
「大根ってお兄ちゃんがお兄ちゃんの世界で好きだった食べ物だよね? ミカンみたいにミーニャが召喚してもよかったんだけど、それは違うよ」
ではこの大根らしきものはいったい――
「人面マンドラゴラだよ!」
は?
えーと、今こいつは何と言ったのだろう。
俺が確認を取る前に、違う位置から声が聞こえてくる。
「人面マンドラゴラですか……あれは人間にとって深刻な毒性を持っているため、決して口にしてはならないと、私はそう教え込まれてきましたが」
「大丈夫だよ、ミーニャが色々やったからね!」
「そうですか、さすがはミーニャ様です!」
「えへへ、褒められると照れるよ」
「素晴らしい事をした人が褒められるのは当然のことです……それでは、次は私が料理を口に運んでもいいでしょうか? 私もミーニャ様が作った料理を味わいたいと思います!」
「うん、どんどん食べて!」
和気藹々と話しているミーニャとリゼット。
二人の会話を聞きながら、俺はどんどん出てくる冷や汗を拭う――人面マンドラゴラってなんだ、毒って何だ。
本当に大丈夫なのか、それに何だろう……頭が、どんどん……
「あれ、お兄ちゃん?」
「どうしたのですか、お兄様!」
二人のそんな声を聞きながら、俺の意識は途絶えたのだった。
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