第十三話

「あのさ……」


 真っ暗な室内。

 炬燵の上にはぐつぐつと音を立てる鍋。

 漂ってくる何とも言えない香り――いや、異臭。


「これなに?」


 俺が問いかけた理由は簡単。

 今夜はリゼットの歓迎パーティーのようなものをやる事になっていた……そこまではいい、そこまでは事前に聞かされていて理解できるのだが。

 会えてもう一度言おう。


「これなに?」


「闇鍋だよ!」


 闇鍋、だと!?


 闇鍋とは各自が持ち寄った具材を鍋の中に入れてぐつぐつとに煮立たせた後、部屋を出来るだけ暗くして順番につついていくサプライズ料理。

 もちろんただ食べられる具材を入れるのでは面白くないため、各自頭を捻って面白い食材を準備してくるという魔の料理でもある。


 ルールなどは場所によって違ったりするが、まさかこの世界にも闇鍋という文化があるとは思わなかった。


「ん、でも待てよ。この食材用意したのって……」


「ミーニャだよ!」


 暗くてよく見えないが、俺の向かい側の席から元気よく手を上げている気がするミーニャ。


 一人が具材を全部用意するって、なんだか前提のルールが崩壊している気がする――それにこいつが買ってきた具材、はたしてまともな物は入っているのだろうか。

 せめてまともに口に出来る物が入っているという事を信じるばかりである。


「っていうかミーニャ、リゼットには許可とったのかよ?」


「許可って?」


「いやだからさ、これはリゼットの歓迎会なんだから、闇鍋なんていう完全なネタに走っていいのかっていう……」


「それならば心配に及びません」


 と、俺の右手側の席か聞こえてくる透き通った声。

 

「闇鍋、やったことのない事にはぜひ挑戦したいと思います。その積み重ねがお兄様の強さに繋がっていると、ミーニャ様はそう言っておられましたから」


 ギロっと俺が闇の向こうのミーニャを睨み付けると、何かを感じ取ったミーニャは「えへへ」などと、バツの悪そうな笑みを浮かべる。


「まぁリゼットがいいないいけどさ」


「はい、じゃあ始めるよ! 最初はお兄ちゃんからね!」


 こうして、闇鍋という名の混沌が幕を開けるのだった。

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