第十一話
なるほど!
ここでバイトとして雇えばいいのか!
うむ。
まったく意味がわからない。
何やら突如現れて、突如意味のわからない妄言を言い始めたミーニャは、困惑している俺とリゼットを置き去りして、自分の超理論を展開していく。
「ちょうど人手が足りなくて困ってたんだ! だからリゼットさんがうちで働いてくれると、ミーニャも凄い助かるし、お互いメリットしかない関係が成り立つよ!」
待て待て待て。
人手が足りない?
俺の記憶ではミーニャだけで十分に店を回せる量の客しか、この店に来ているところを見たことがない――少なくとも俺が見ている時だけだが、普段のミーニャの様子から察するにそんなに手一杯と言った様子ではない。
「それにほら! ここで働けば、自然とお兄ちゃんと会う機会と時間も多くなって、色々と教えてもらえる事も増えるんじゃないかな?」
「おーいおいおい! ちょっと待とうかミーニャ!」
何やら勝手に話を進めているミーニャを静止すべく、俺は二人の会話に口を挟む。
「俺は自分の事で手いっぱいで、リゼットに何かを教える時間なんてないんだよ。それにせっかくお前が店を休んでくれているんだから、この機会に詰め込みたいってのをわからないのか?」
「だからだよ、お兄ちゃん!」
無邪気な笑顔を浮かべるミーニャ。
いったい何が「だからだよ」なのだろうか。
「リゼットさんがここで働いてくれたら、ミーニャが仕事しなきゃいけない時間が減るよね? そうしたら、その時間をお兄ちゃんと一緒にイチャイ――お兄ちゃんと勉強する時間に全部当てられるよ?」
何だ、今何か言いかけた気がする。
怖いので、聞かなかったことにしておこう。世の中には聞かなかった方がよかったこと、そして知らなかった方が良かったことも多分にあるのだから。
「ね、完璧でしょ?」
完璧、完璧ねぇ。
確かにミーニャのアイデアは一見すると完璧に見える――リゼットの要望を全てクリアし、同時に俺の勉強時間も十分に確保。おまけに口には出していないが、自分が仕事をサボる事も出来る。
それは確かに完璧なアイデアだ。
あくまで、俺がリゼットに何かを教える事を許可するという仮定の上でだが。
「良く聞けよ、ミーニャ」
などと言ってもミーニャが俺の言葉をしっかりと聞くとは思えないが、一応建前としてそう言ってから続ける。
「俺は確かに他の人に出来ない事が出来るかもしれないが、それと誰かに物を教えられるかどうかは別だ。そしておそらくだが、俺には物を教える才能がない」
実は以前、中学生の時に家庭教師のアルバイトを頼まれた事があるのだ。
教えたのは高校二年生という、なんともちぐはぐな感じだったのだが――とにもかくにも、そのバイトは大失敗した。
理由は簡単、俺には何がわからないのかわからないのだ。
仮にわからない場所を言われたとしても、どうしてそれが理解できないのかがわからない。それ以上簡単に教える方法を知らない。
世界史なども、世界史全てを暗記させればいいだろうと思い勉強を開始したら、途中で教え子が廃人と化してしまったのだ。
それ以来、俺は誰かに物を教える事をやめた。
俺にはそれが合っていないから――なにより、誰かに何かを教える事を俺は楽しいと思えない。
「とにかく俺はやらないぞ。仮に勉強する時間が増えたとしても、まだこの世界に来たばかりなのには変わりないんだ――これ以上心労は増やしたくない」
「え~、お兄ちゃんのケチ……せっかくサボれると思ったのに」
「あ?」
「何でもないよ!」
いや、絶対に何か言っていた。
そして今回こそはしっかりと聞こえた。こいつはニートになるつもりなのだ、仕事をリゼットに丸投げしてサボる気だ。
ただでさえ少ない仕事を、人を雇ってゼロにする――ニートではないかもしれないが、精神的ニートに変わりない。
俺が本格的に妹の将来を心配し始めると、
「そういう事ならば問題ありません」
俺の右手を両手で包み込むように握りながら、至近距離で言うリゼット。
「技は私が勝手に盗みます……ですから、どうかお傍に置かせてください。お兄様に無駄な時間は取らせませんし、決して迷惑もかけません」
「いや、どうかって言われても……っていうか、お兄様!?」
どんなに言われても俺の決心が揺らぐことはない。
だがしかし、勝手に盗むなどと言うのならば、別に居ても問題ないのでは?
むしろ俺の勉強時間が増えていいのではないだろうか。と、思う俺もいるわけで――
「はい、じゃあ決定だね!」
などと考えているうちに。
「これからよろしくね、リゼットさん!」
「はい、よろしくお願いします!」
なんだか勝手に決まってしまった。
まぁ特に俺の時間に影響してくるわけでもないし、あまり気にしなくてもいいか。
ただ一つ、妹がニート化するのだけは困るが。
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