第八話
「お兄ちゃん!」
と、この世の終わりでも訪れたかのような顔で俺を呼ぶミーニャ。
彼女は炬燵をバンっと叩くと、こちらが少したじろいでしまうくらい真剣に俺の目を見て、
「お兄ちゃん、行ってきて!」
「散々思わせぶりな態度とってそれかよ!? っていうか、ここってお前の家だよな? お前が出ろよ!」
「え、何言ってるの? ここはもうお兄ちゃんの家でもあるんだよ! 今更そんな悲しい事言わないでよ……」
「あ……悪い」
そう言えばそうだった。
ここはもう俺の家なのだから、別にミーニャが出なければならないという訳ではない。むしろ俺の家でもあるのだから、俺が出ても何もおかしいことはない……だが、
「それでもここはお前の店でもあるんだから、やっぱりお前が出た方がいいんじゃないか? ひょっとしたら、どうしても欲しい品物があってきた常連客かもしれないぞ」
「お兄ちゃん……あのね」
ミーニャは自分を落ち着けるかのように深呼吸すると、大きく息を吐く。
なんだろう、このもたいぶった態度、何だかものすごく重要な事を言いそうな前振りなのだろうか――もしそうだとするなら、俺はいったい今から何を言われるんだ。
俺がいつになく真面目な表情の妹に、内心ドキドキしていると、彼女は某クイズ番組のように散々もたいぶった挙句にようやくその言葉を紡ぎだす。
「しばらくはお店を休みにするって決めたの……だからね、お休み期間に入ったミーニャは一日中グダーってしていたいんだよ!」
「……えーっと、つまり?」
「面倒くさいから……代わりに出て?」
「…………」
出て?
じゃねぇよ。
この言動、まさかアレか?
俺が言語を教えてくれと頼んだから店を休んだのではなく、俺の頼みを店を休む口実にしただけではないか?
可能性はある。
だとしたらこいつ、働いてはいるものの心は完全無欠のニートさんではないか――なんとかしなければならない、このままではこいつがダメ人間になってしまう。
などと俺が、妹の将来について心配している、
「誰かいらっしゃらないのですか?」
またも聞こえる綺麗な声。
最初に声が聞こえてからしばらく経ったのに、まだそこに居るという事はそうとう重要な要件なのかもしれない――これは無視するわけにもいかないか。
ミーニャの店がどのような物を扱っているのかは不明だが、病気を治す魔法の薬などを撃っていて、それを求めてやってきてやってきた客などならば、待たせれば最悪命にかかわってくるかもしれない。
まぁそれはさすがに考え過ぎとしても、行かなくていい理由はない。
「はぁ、仕方ないな……じゃあちょっと行ってくるけど、お前の客だったらちゃんと来いよ?」
「うん! そうしたら、カウンターにあるベルを押してくれたら行くよ!」
「ん、了解」
笑顔全開の妹を後に靴を履いて家の店舗部分まで出ていき、しっかりとカウンターにベルがないのを確認した後、俺は店の扉の鍵を開け、扉を開くのだった。
「お待たせしました」
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