第七話
「どうしようか?」
「いや、どうするも何も昨日と同じように読書でいいんじゃないか?」
昼食を食べてからしばらく炬燵でぬくぬくミーニャと話した後、いざ勉強する段階に至ってそれは起きた。
彼女が突然こんなことを言いだしたのだ。
『昨日と同じ事をしていてもつまらないよ、人間は日々進化する生き物なんだよ!』
全く意味がわからない。
確かに人間は日々進化する生き物ではあるが、それは別に一日ごとに勉強方法を変えなければならないという訳ではないだろう。むしろ、俺の経験からして勉強方法というのはそうコロコロ変えないで、これだという勉強法を見つけたらそれを集中してやるべきである。
よくいる勉強しまくっているのに成績が上がらない奴は、日によって勉強方法を変えているからと言うパターンが良くある――俺は全ての教科においたひたすら理解した。
暗記ではなく、どうしてそうなるのかを徹底的に調べ上げた。数学なら公式が出来上がる理由、世界史ならばその人物が本当はどのような人物なのかを図書館でいちいち調べた。
とまぁ偉そうな事を言ったが、勉強方法なんて人それぞれだ。そして少なくとも俺にあった勉強方法とは、これだと思った勉強方法をひたすらに続ける事。
だから俺は安易に勉強方法を変えたくないのだ……ないのだが、
「じゃあ昨日はミーニャが読んだから、今日はお兄ちゃんが読んでみる?」
無邪気に笑いかける妹の笑顔。
さらにそれくらいの勉強方法の違いならば、別に変えても問題なにのではないか。
ついついそう思ってしまった。
「まぁ別にそれくらいならいいけどさ……いくら俺が天才だからと言って、まだそんなに覚えてないぞ」
「うわぁ、自分で天才って言っちゃう?」
別に言ってもいいだろう。
天才なのに「俺は天才じゃないから~」とか言って居る方が、よほど嫌味だしバカっぽい気がする――少なくとも俺はそう思う。何だか天才が謙遜すると、自分よりも下に居る奴をバカにしている気がする。一位になったならば、存分に誇ればいいのだ。
「じゃあ、天才のお兄ちゃんにはこれを贈呈するよ!」
言って取り出したのは、一冊の小説――表紙に可愛らしい女の子の絵が描かれている事からして、元の世界でいう所のライトノベルのようなものだろうか。
それにこの本のタイトル。
「えーっと、お兄ちゃん……戦い録?」
「お兄ちゃん戦記だよ、お兄ちゃん! 惜しかったね、お兄ちゃん!」
こいつは一回口を開いただけで、何回『お兄ちゃん』と言う気なのだろう……という疑問は置いておいてだ。
ミーニャは本当にこういう本しか持っていないな、これで本当に魔法使いなのだろうか。彼女が実際に魔法を使っているところを見たことがないし、魔法使いってもっと難しい本を読んでいるのではないか?
「おいミーニャ。昨日も言ったけどさ、こういうぶっ飛んだ内容の本はやめてくれって」
「えぇ~、この本は普通だよ」
「普通って……表紙とタイトルから見て、普通とは思えないのだが」
「むぅ! お兄ちゃんはミーニャを信じられないの!?」
「いや、信じられないわけではないのだが」
ないのだが……不安なんだよ。どちらかと言うと、ものすごく不安なんだよ!
だがせっかくミーニャ進めてくれた本を読まないのも、彼女を一方的に信じないのも何だが可哀想な気がして、俺は「仕方ないな」と結局は頷いてしまうのだった。
では読ませてもらおう。
俺は気合を入れて、まだ覚え始めたばかりでわからない文字の方が多い、この世界の言葉で書かれた本の音読を開始する。
「えっと、『ある場所に……お兄ちゃんが居て、お兄ちゃんは妹が大好きで、食べたいくらいに結婚する?』」
あぁ、絶対に合っていない気がする。
読んでいる俺自身、内を言っているのかわからない。
それでも俺がたどたどしく頑張って音読を再開したその時だった――
「どなたかいませんか?」
店の入り口の扉を叩く音と共に、清流の様に心地いい澄んだ声が聞こえてきたのは。
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