第五話
「それで全員ボコボコにして追い返されたの?」
「人聞きが悪いな、全員ボコボコにしたわけじゃない。ちゃんとその場に集まった他の候補者たちと試合して、ついでに試験管とも試合しただけだ」
「ふーん」
「なんだよ、その眼は!」
ま、まぁなんだ。
正直試験管とも戦う必要はなかったのだが、ついノリでやってしまった。それに俺はあそこまで言われて黙っていられるほど出来てはいないのだ。
「でも追い返されたんでしょ?」
「うぐっ」
確かに俺は今、件の会場ではなくこの世界での我が家――すなわちミーニャ魔法用具店へと戻ってきている。そして、ミーニャと並んでカウンター裏の椅子に座り、がらんがらんの店内を見渡しながら話してはいる。
だがしかし、俺は決して暴れまくったせいで追い返されたわけではない。
「だから何回も言ってるだろ?」
俺は試験自体には合格したのだ。
最後にあの試験管……ワニ男と戦い、圧倒的な差をつけて打ち倒した。結果として彼は驚きを露わにした表情でこちらに詰め寄ってきてこう言った。
『その実力でどこにも所属していないのか!? 金は当初こちらが払う予定だった倍だそう!』
と……そう、つまり俺はこちらの世界でも出世コースに足をかけていたのだ。
ならばどうして俺は、今ここに居るのか――その答えは簡単だ。
この世界の神は、元の世界の神ほど優しくはなかった。
履歴書みたいなものを記入する段階に至ってそれは起きた。その時に起きた出来事とは、こんな感じだ。
『えーっと、これなんて読むんだ? っていうか、俺……字が書けないんだけど』
『またまた、冗談も素晴らしいな!』
『いや、マジで』
『…………』
その後、突如として態度を変えたワニ男は、俺に向かってお帰りくださいと一言。なんだかやる気を失った俺は、今日はもういいやとここまで返ってきた次第である。
あのまま職を求めてさらにふらつくのもありだったのだが、俺は根本的な問題を発見したため、これ以上職探しをするのは無駄だと判断した。
「なぁミーニャ」
「なぁにお兄ちゃん?」
「お前さ、俺に魔法使って俺が抱えている言語問題を解決できないのか?」
その問題とは即ち言語である。
当初から問題ではあったが、今回の件で放置していい問題ではないと分かった――言語的問題を抱えたままでは、どんなにポテンシャルがあっても宝の持ち腐れになってしまう。
今回の事が正にいい例だ。
「えっと、言語アシストは召喚時にしか出来ないんだよね……ごめんね、お兄ちゃん」
やはりそうか。
そうではないかとは思っていたが、そう言う事なら仕方がない。
「じゃあ俺の頼みを聞いてくれ」
ん? と顔を傾げるミーニャに俺は言う。
「俺にこの世界の言葉を一から全て、しっかりと教えてくれ」
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