第四話
仕事募集のチラシの様なものを求めて歩くこと数分、俺は大変ことに気が付いてしまった。
「しまった、字が全く読めない」
そう、俺はこうして異世界の言葉を話せてはいるが、それはあくまで魔法による補助的なものであり、異世界の言語を理解しているわけではないのだ――したがって、往来に溢れる言語が全くわからない。ひょっとしたら至るところでバイトの募集をしているかもしれないが、俺にはそれを全く理解する事が出来ないのだ。
「どうしたものか」
えぇいミーニャめ、どうせ魔法で言語的アシストをするならば、召喚時についでに言語を読み取れるような魔法もかけて欲しかったものだ。そうすれば今、俺がこんな苦労する事もなかったというのに。
などと帰り道がわからなくならない程度に、ファンタジー溢れる町を行ったり来たりしていると、通りの右側に人だかりが出来ている事に気が付く。
「なんだ、あれ?」
このままあてもなく歩いていてもよかったのだが、何だかそれはそれである意味時間の無駄のような気もしたので、俺は吸い寄せられるように人だかりの方へと歩いて行く。するとそこにあったのは元の世界でも見慣れた場所――道場である。
もっとも、道場と言われて一般的に重い浮かべる物とは全く作りが異なり、屋根もなければ壁もないのだ。要するに、グラウンドのような場所で修練着を着た連中が稽古をつけている感じだ。
道場と言うよりも、修練場などと言った方がイメージしやすいかもしれない。
とにかくここが道場らしきものである事は理解できたが、いったい何の道場なのだろう。だいたい得物を見ればわかるとは思ったのだが、いかんせん持っている武器が多種多様すぎてカオスだ――ある者は弓を持ち、ある者は無を持ち、かぎ爪なんて奴もいる。
「それにこの人だかり……野次馬みたいのは何だ?」
さらに人だかりに近付き、すでに俺自身も人だかりの一員なった頃、ようやく人々をこうも集めているものがわかってくる。
「腕に覚えがある者はいないのか? 自分こそが強者であると思う者は前に出ろ! これから課す試験を潜り抜けたものには、例外なく城の警備兵として取り立ててやるぞ!」
厳つい鎧を着た二足歩行のワニが、俺含む野次馬を見渡しながら乱暴に言う。
「どうだ? 悪くない金を払えるとは思うが、他に居ないのか?」
とか言っているものの、あんなに威嚇したような風貌で怒鳴り散らされたら、名乗り出づらくなるのがわからないのだろうか。まぁひょっとしたら、風貌だけでなくあの喋り方も彼にとっては普通のなのかもしれない。
元の世界の軍隊とかも荒々しいイメージがあるし。
それにしても城の警備兵か……城というのがどこにある城なのかはわからないが(少なくともこの町にはない)、つまりこれは道場ではなく求人という事ではないだろうか。
そうなってくると幸運な事にも、言語の問題でバイトの募集なりなんなりをしている人や、店などを探せないという件が解決したことになる。
うん、でも気がかりなことがあるんだよな。
俺がその気がかりな事について考え出したその時、
「一番後ろのお前、そこの珍しい服を着ているお前だ!」
ワニ男の声と共に、俺の前に居た人だかりがさっと割れる。
これはもしかしなくてもアレだろうか、あのワニ男は俺に話しかけているのだろうか。
「そうだ、そこのお前だ! 見たところヒョロい体型だが、目つきは悪くない! 試験を受けてみる気はないか? さきほども言ったが、いい金が貰えるぞ!」
「いや……俺は」
「まぁ、自信がなければ無理にとは言わないがな! がははははははははははははっ!」
ムカッ。
と、イラつくのは後にしてだ。
実際に「がははははっ」とか笑う奴初めて見た。
俺は基本的にインドア派だから、警備がどれくらいキツイ仕事かどうか確認したかったのだが、もういい。
これだけ言われて引き下がるわけにもいかないし、ここはやれるだけやってやろう。
全力でな。
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